コラボ企画 夏休みの選択
「えー!遙また鯖ー?!鮭にしようよ!鮭!」
「毎日、お前につきあって鮭ばかり食ってられるか。今日は、鯖だ」
「鮭がいい!鮭!」
「鯖だ」
「むー!仕方ない!じゃあ明日は鮭ね!」
遙は、うるさく頬を膨らませる同居人の少女にため息をついた。
小学生の頃、は突然、遥の前にやってきた。
彼女の家の都合で、遥の家で預かることになったという。なんとも子供の意思を無視した親の都合だ…と、その時は心の中で思っていた。
今では、遥の家にも両親はどちらもおらず、普通なら遙は平穏な一人暮らしを送れるはずが、これでは平穏などありはしない。
は、背が低くて、どちらかと言えば童顔で、性格は…うるさい。
と言ったところだろうか。とても、高校二年生には思えない容姿と性格なのだ。
「あ!遙!今の流れ星だよ!見た見た?!」
「ああ」
台所に並んで、食べ終わった皿を洗い流し終え、アイスを冷蔵庫から取り出した後、 廊下を歩いていると窓から見えた流れ星を指差した。
「でも、お願い事いうの忘れてたよ…」
「それは残念だったな」
「うん。明日も遙の美味しいご飯食べれますようにー!ってお願いしようと思ったのに」
「毎日、食わせてやってるだろ」
「だって、ずっとずっとこのままで居られたらいいのにって思うのに、そういうわけにはいかないんだもんね」
「…」
遙は、少し寂しげに眉を下げるの頭を自分の方に引き寄せ抱きしめた。
いつの間にか、と共に家で過ごすのが遥の日常になっていた。
平穏とは言えずとも、二人とも親が近くにいないこの状況でも、笑っていられたのはきっと賑やかな彼女のお陰だろう。
だけど成長と共に流れる時間は、待ってはくれないのだから…その気持ちは自分も同じ。
この時が永遠に続けばいいと、いつの間にかそう願うようになっていたんだ。
彼女の好きは、平等。
特別な好きになど縁のないものだと思っていた。だから、ずっと家族同様一緒に住んでいる自分が側にいるのが当然であると思いこんでいたんだ。
しかし突然、彼女の心は自分ではない、ある人物へと向けられた。遙は、そのことに微かながら気付いていたんだ。
「遙!今度、まこちゃん達と海いこうよ!…遙?どうかしたの?」
「ああ…いや、なんでもない」
「そう?あ!今晩は鮭だからね!あ。ツナでもいいよ。マヨネーズ付けて、ご飯に掛けるの!」
「…鯖だ」
それでも、自分はおそらく彼女の事が好きなんだろう。
側にいたい気持ちが膨らんだ時には、誰かに奪われてしまうなんてことがないように… 掴みたくなるのは、きっとそのせい。
「ええー!なんでー!」
「いやならお前が自分で料理しろ」
「やだー!私より遙が作る方が美味しいもんー!!」
この手を離さないようにと、彼女の手を掴んでいよう。
遙は、何も言わず隣を歩くの手を掴んだ。
「あれ?遙が手を繋いでくれるなんて、何年ぶりだろうね。小学生以来?」
「…部屋戻るぞ」
「うん!」
彼女の隣にいるのは、ずっと自分であって欲しいから…
これから先も、掴んでいようと思うんだ。
******
「あー!もう!わかんないよー!まこちゃんお願いだから…」
「だめだよ。夏休みの宿題は、自分でやらなきゃ意味ないだろ」
「まこちゃんのケチ」
「ほら、教えてあげるからもうちょっと頑張ろう」
「…うん」
は真琴の言葉に静かに頷いた。
「終わったー!」
「お疲れさま」
普段なれない長時間の勉強で疲れきったに、真琴はそっとグラスに注いだ冷たいお茶を差し出す。
「まこちゃん大好きー!」
「そんなこと言ってると、また遙が機嫌そこねるよ」
「なんで?」
意味が分からないと言ったように首を傾げる。
伝えたい思いの言葉があることに、真琴は気づいていた。だけど彼は目を細めて優しく微笑んだ。
漆黒に長い髪を二つ上の方にリボンで結んで揺らす少女の名前は、。
は、幼い頃から遙の家で下宿中の身であると同時に、真琴と遙の幼馴染み。
そして、二人の想い人でもある。
しかし実際には遙本人からの気持ちを聞いたことなんて一度もない。だけど、真琴には分かる。
いや、むしろ分かっていないのは彼女だけかもしれない。
「まこちゃん?どうかした?」
「…なんでもないよ」
真琴は、優しく目を細めて微笑み、の頭を撫でた。
言いたい。だけど言ってはいけないんだ。
「遙…なにしてるの?」
「鮭、焼いてるんだよ」
「ああ、またおねだりされたんだ」
「本当、あいつは、よく飽きもせずに毎日、同じものを食べられるな」
「"遙が作る料理は世界一美味しい"…だよね」
「…俺はそんなに料理旨くないし、魚焼くくらい誰でも出来る。あいつを除けばだが」
真琴がを真似たような口調をすると遙は、 そういいつつも少しだけ頬を染めつつも無言で焼きあがった鮭を皿に盛り付けた。 ほら、遙はこんなにも分かりやすい…。
「まこちゃん!ここの数式は、どうするの?」
「ああ、うん。ここはね…」
さらさらと分かりやすいように数式をかきあげる真琴。今日もまた、遙の家でと居間に二人。
相変わらず、ちんぷんかんぷんで頭を抱えているの宿題をみる。
「今日もわるいな、真琴」
「いいよ。ハルは支度してて」
「そうそう!遙よりまこちゃんの方が教えるの上手いもん!まともに教えてたくれたことないしね!」
「悪かったな…」
呆れたようにため息をつく遙。
本当は、夏休みが終わらなければいいのに。
なんて想ってしまう自分がいることを、真琴は、そっと胸の奥にしまい込むんだ。
これからも、ずっと…そうだと、想っていた。
そう。その日が、くるまでは…。

いつものように、長時間の勉強で疲れ切ったが畳に倒れこんでいた時のことだった。
は、仰向けになって呟くように口を開く。
「まこちゃん、あのね…」
「なに?どうかした?」
「私ね、好きな人ができたかもしれない」
「え」
「同い年なんだけど、すっごく優しくて、温かい人なの」
体勢を起き上がらせながら話を続けるに、真琴は衝撃を感じるも何でもないと言った普段を装うかのよう優しく微笑む。
「そっか」
「…それだけ?」
真琴が返事をそう返すと、は眉を下げて不安そうに真琴の表情をのぞき込む。
「え?」
四つん這いで近付いてきたとの距離の近さに驚いた真琴は、思わず少しだけ身を退いた。
「私、まこちゃんの事いってるんだけどなー…」
「え。ええ?!」
頬を赤く染めながらも、悪戯に微笑むに胸の鼓動を高鳴らせた。
受け止めたい。
でも、大事な友を思うと、受け止められないこの想い。
だけど今だけ…今だけは許してと、真琴は目の前の彼女を強く抱きしめた。
あとがき
辻哉さんとコラボさせていただきました。
※こちらは2013/08/08にツイッター限定でfree!夢を公開した時の作品です。 それを元に今回は、一部加筆修正して投稿しております。