コラボ企画 お家デート
「なぁ、越前。今日はどっかで食って帰ろうぜ」
「だめ!今日は私がリョーマを借りる約束してる日なんだから!」
桃城の言葉に、気の良い返事を返そうしていたリョーマだったが、見事に別の人物によって言葉を遮られた。
「リョーマ、まさか忘れてないよね?」
「…覚えてるっスよ」
息をつくリョーマを横目に、桃城は「それなら、仕方ねーなー。越前」なんて、にやついた表情で見る。
「校門の前で待ってるからね」
そう言って手を振って先に足を進める。 茶化してくる桃城を無理矢理振り払い、後を追う様にリョーマも校門へと向かった。
「…」
「…」
まん丸い大きな瞳。ふわふわと揺れる尻尾。優しい毛並み。
は、部屋の床で四つん這いになり、同じ目線でじっと一対一で見つめ合う。
恐る恐る手を伸ばし、頭を撫でる。
「ほわら~!」
「か、かわいい!」
は、我慢できないといったように手を延ばして抱きしめた。
「あー、もう!カルピンはかわいいねー!」
「人に部屋来るなり、なにやってんの」
「あ。リョーマ!」
自分の部屋に戻ってきたリョーマは、「はい」とに、冷蔵庫から持ってきた缶ジュースを差し出す。 「ありがとう」と受け取り、缶の蓋を開けたあと、くいっと一口飲んで下に置く。
「今日、そんなことしに来たわけじゃないっスよね?先輩」
「勿論!貸してた漫画返してもらうついでに、テニス教えてもらおうと思って来たんだよ」
「じゃあ、さっさと…」
「でも、カルピンかわいいんだもの!ちょっとだけだから!」
「あんまり居座られると困るんだけど」
「なんで?」
「なんでって…ちょっとは危機感とかないわけ?」
「え?」
リョーマの言葉に首をかしげる彼女に、リョーマは眉間に皺を寄せる。
「…ホント、こういうところ腹立つんだけど」
ぼそりと呟く様にそういうリョーマには不安そうな瞳でのぞき込んでくる。 「リョーマ?」と尋ねるに、リョーマは何かを決意したようにそんな彼女の顔をまっすぐに見つめる。
「先輩…。俺のことどう思ってる?」
「え?どうしてそんなこと聞くの?」
震えた声の彼女に対してリョーマは、いつものように生意気で、大胆不敵な笑みでこちらを見る。
「流石にもう分かってるんじゃない?俺がこれから言いたいこと」
力が抜けて、腕に抱いていたカルピンが「ほわらー」と鳴いての腕から逃げる。
小さな声で、「まって…」といっては背後のベッドの淵まで後退りをする。 逃げ場を失った彼女に構わず、リョーマは距離を詰める。
姿勢を落とし手をついて、の顎を持ち上げ、「先輩…」と顔を近づけるリョーマに、思わず頬に熱が籠る。

とっさにグッと目をつぶるだったが、 一向になにも感じることはなく、不思議そうにうっすら目を開けると…
「バーカ」
「うえっ?!」
からかうような瞳をしたリョーマに、頬を指で摘ままれる。
「びっくりした?」という生意気なリョーマには、頬を赤く染めつつもムッとした表情でリョーマを睨む。
「騙したわね!リョーマ!」
「もとはといえば先輩が悪いんじゃん。人の部屋でくつろいでるから」
「そ、そんなつもりは…」
「まぁ別に騙したつもりもないんだけどね」
「え?」
「俺、本当に先輩のこと好きだから」
「は…?え、ええええ!!」
リョーマの平然とした告白に思わず彼女は大きく叫ぶ。
「だって…そんな!」
「本当に全然気づかなかったわけ?」
「き、気づくわけ…っていうか、どうせ嘘でしょ?」
「嘘じゃない。そもそも好きでもない女の子、部屋にあげるわけないじゃん」
「鈍すぎ」とため息をつくリョーマに、の体温は一気に上昇する。
だって…そんな…と、信じられないといったように赤く染まった頬を隠すように手で覆う。
意識をしたら一気に自分がこの場に居ることが恥ずかしくなってくる。
「え、えっと…私、用事思い出したから…」
「逃げるんだ」
「なっ!」
「どうすんの?」と明らかに挑発をしてくるリョーマに、は強く自身の拳を握りしめる。
「逃げないわよ!逃げるわけないじゃない!」
「ふーん」
「…あり、がとう」
「え…?」
目線をリョーマから逸らして、突如小さくそう言ったにリョーマは目を見開く。
「好きって言ってくれて、すごく嬉しかったから…。ちょっと吃驚しちゃったけど」
はそう言って柔らかくリョーマに微笑む。リョーマは目を細める。
するとは何か言いたげな表情でリョーマを見る。
「あの、えっと、それで…ごめんなさい!私、リョーマに嘘ついてました!」
「嘘?」
突然、なにを言いだすのかと言ったようにリョーマは顔を上げてを見る。
は、少しだけ手を震わせながら口を開く。
「ここに漫画を返してもらいに来たのも、テニス教えてって言ったのも…全部口実なの。リョーマと一緒に居たかっただけなの!だから、私リョーマに思われるようないい先輩でもないの」
頭を下げて「ごめんなさい!」というにリョーマは、なんだそんなことと言ったように軽く息をついた。
「別に…。なんとなく分かってたけど」
「え?」
「でも全部気づいてたわけじゃない。だから余計に腹が立った。先輩に意識されてないんじゃないかって思ってたから」
「そ、そっか…ごめん」
「でも俺も半分気づいてて先輩の話に乗ったんだから、お互い様」
「リョーマ…」
「先輩…俺と付き合ってよ」

の顔をのぞき込む様に伺いながら大きな瞳でそう言ったリョーマが の頬に触れると、は照れくさそうに頬を染めつつも嬉しそうに頷く。
「私もリョーマが好き」
「サンキュ」
二人の距離が縮まり、優しい温もりがの唇に感じる。
突然の出来事には驚いたように目を大きく見開く。
そっとリョーマの唇が離れると、は咄嗟に自分の唇に手を触れる。
「っ!リョーマ!」
「なに?」
「なにって…それは私の台詞なんだけど…」
「いいじゃん、別に。それともなにか問題あった?」
「いや、別にない、けど…もう!全部が突然すぎるよ!」
「突然じゃなかったらいいの?」
「そういう話じゃ…」
の瞳をまっすぐに見つめて、リョーマはの唇に指を触れる。
「だめ?先輩…。俺、先輩のこと、好きなんだけど」といつもより熱のこもったアルト声に、の体も熱くなる。
眉を下げつつ真っ赤な顔をするも、が首を横に振ると、再びリョーマとの距離がゼロになった。
「…あ、言っとくけどまだ帰さないから」
「え」
「もうすぐ母さんも帰ってくるだろうし、夕飯までいれば?送っていくし」
「で、でも、流石に悪いよ」
「今更いい子ぶっても遅いよ。もうちょっと居たい癖に」
「うっ…ごめんなさい。まだ一緒に居たいです」
「ん…先輩」
「あ、その呼び方は嫌」
そういう彼女にリョーマは可笑しそうに小さく声を出して笑う。
「わかった」といって耳元でささやく様に、「」と彼女の名前を呼ぶ。
リョーマが呼ぶと照れくさそうにしながらも嬉しそうに「リョーマ!」と抱き付く。
「また、来てもいい?口実…はないけど」
の言葉に、面白げにリョーマは口角を釣り上げる。
「いいんじゃない?それで」
リョーマの腰に手を回して応えるようにリョーマもを自身の方に引き寄せる。 再び部屋に入ってきたカルピンが小さく「ほあらー」と鳴くも、 まだそのことに気付かずにリョーマに抱きしめられる。

まっすぐに、まん丸い瞳でこっちをみて、尻尾を左右に振るカルピンに気付いたリョーマは、 「しーっ」と人差し指を立てて、カルピンに向かって微笑んだ。
あとがき
さゆさんとコラボさせていただきました。
※こちらは2017/03/11にプライベッターにてネームレス(名前変換無し)verを同時公開した時の作品です。 こちらの名前変換有をもとに、一部ネームレス仕様で文章に手を加えた表現がございます。 ご興味のある方はこちらもお楽しみください。
→プライベッター公開小説(ネームレスver)