休日会話 越前リョーマver.


「さぁ、勝負よ。リョーマ」
「フルハウス」
「…っ!スリーカード…あー!もう!」
「はい。俺の勝ち」
「わかったわよ!作ればいいんでしょ!オムライスでいい?」
「またそれ?」
「いいでしょ。なんでも。文句ある?」
「まぁ、いいけど…」
「よし。決定」

今日はたまの休みで自分たち以外に誰も居ないから、 どこかお昼ご飯を食べに行こうとリョーマを誘ったのだが…。

「面倒臭いんだけど…」

というリョーマの言葉と…。

「外食がしたい!駅前の喫茶店希望!」

という相反する私の意見から、ポーカーで勝負を決めることになった。 当然、勝負を持ちかけたのは自身な訳だが、こうもあっさり負けるとは思わなかった。

渋々と台所に向かおうと立ち上がると、「ねぇ」とリョーマに声を掛けられる。

「なに?」
「なんでもいいけど、食えるのにしてよね」
「!それって前に私が作ったのが美味しくなかったってこと?」
「別にそこまで言ってないじゃん」
「…へー、いいわよ。見てなさい。どうしようもなく美味しいですって言わせてあげる!」
「(単純…。本当、扱いやすいよね)」

リョーマの心境など知らずに、は一気に違うスイッチが入ったかのように台所へと向かう。

「あ、ラッキー!今朝、倫子さんが炊いてくれたご飯まだ残ってる!」

ご飯の残りを確認した後で、髪を一つに縛りエプロンを着ける。 卵、ケチャップ、鶏肉…はないから、ハムでいいや。と冷蔵庫を開けて材料を確認しながら準備を進めていると カルピンを抱いたリョーマが台所の入り口でこちらを見ている。

「座って待ってて」
「ん。なんかさ」
「なに?」
「似合ってんじゃん」
「えー?それ褒めてないよね?勝負に負けて、エプロンが似合うって言われても微妙なんだけど」
「そういう皮肉的な意味じゃなくてさ」
「?じゃあ、どういう意味?」
「…内緒」
「なにそれ。変なリョーマ」

なにかを言いかけてやめたリョーマに首を傾げながらも作業を続けるに「前みたいに手切らないでよね」とリョーマに注意を促される。 は「大丈夫!集中してれば」と言葉を返し、包丁を手に取った。

こんな穏やかな時間に思わずリョーマは頬が緩む。
じっと見ていても、気づく様子がないに悪戯心がくすぐられるも、 自分のために一生懸命な姿というのも悪くないとリョーマは思う。

「ねぇ、それよく作ってるけどさ、誰かに作ったことあるわけ?」
「ないよ。リョーマくらい。料理なんてお母さんがいない時にしてただけだもん。あ、だからお父さんにはあるかな」
「ふーん」
「だからオムライスは私が好きだからよく作るの。楽だしね」
「あ、そう」

素っ気なくそう返すも、正直自分以外に作ったことがないという発言に安堵した上に、嬉しくもある。 なぜなら、自分は前にも二人しか居なかったとき、が作ったオムライスを食べたことがあるからだ。 毎度強くなるようにも感じる自身の独占欲にリョーマはテーブルに顔を伏せてそっと目を閉じた。

「はいできた!」

いつの間にかテーブルで寝ていたリョーマに明るい声が聞こえきた。

「ん…」
「あ。寝てた?」
「ちょっとだけ」

リョーマが少しぼーっとする頭を上げると、料理をテーブルに並べるの姿が目に入る。

「……」
「おーい、リョーマー?本当に起きてる?」

がそう言いつつ、テーブルを挟んで正面からいまいち反応が薄いリョーマの顔を覗き込むとリョーマに手を掴まれる。

「へ…?」
「いい匂いがする」
「え?あ、ああ。うん。料理できたからね」
「バター?」
「卵にちょっと使ったかな」
「ふーん」

平然とそんな会話をしているが、「あの…そろそろ…」と手を離して貰おうとリョーマの方を見ると、至近距離でパチリと真っ直ぐにこちらを見ているリョーマと目が合う。

「食べていい?」
「え…?」
「料理」
「あ、ああ!うん!」

ようやく手を離してくれたもののは一気に体温が上がる。

「顔赤いけど、なんか想像した?」
「っ!なんでもない!」

の方から飛んできたスプーンを上手くキャッチした後、リョーマはテーブルの上に置く。 「先にカルに餌やるついで手洗ってくる」と言って平然と出て行くリョーマを見て、は安堵したように息を吐いた。

「(やば…軽く寝ぼけてた…)」

ドアを閉めた後で、適当な返しで方向転換させたものの流石に危なかった…と心の中で呟きつつリョーマ自身も息を吐く。

「カル」
「ほあらー」
「まぁ、でもあの反応は悪くないよね」
「ほぁら?」

足下に来たカルピンを抱きかかえ頭を撫でる。 自分の行動に対して、赤くなっていたの反応を思い出すようカルピンに聞かせるようにそう言った。

「どう?味は?」
「…普通」
「もうー!リョーマ!かわいくない!」
「褒めてるじゃん」
「どこがよ!次絶対美味しいって言わせてあげるからね」

悔しがるを前に、平然とリョーマはが作ったオムライスを食べる。
さて、まだ二人だけの休日の時間は終わっていない。 次はどうしてやろうか…と思い、リョーマは小さく口角を釣り上げた。