裏番外編 窓際の夢
シャーロックホームズの短編「黄色い顔」の章のページを開きながらはその台詞に目を移す。
――「ぼくが自分の能力を少々過信したり、事件のために当然の努力を惜しんでいるように思えることがあったら、ぼくの耳許でノーバリーとささやえてくれたまえ。いくらでも恩に着るよ」
ホームズがワトソンに間違った推理を組み立てたことを反省して言ったこの台詞は有名だろう。
カウンターで図書委員の受付の仕事をする渋々とするリョーマをちらりと見て、は小さく微笑む。
図書室の窓際で本を手にしていたの耳に足音が聞こえてくると、は静かに本を閉じた。
「相変わらず好きだよね」
「うん。だって格好いいもの。あ、でも越前リョーマの次にね」
「上手く誤魔化したつもり?」
「そんなつもりじゃないよ」
拗ねたように言ったリョーマに、くすくすとは小さく笑う。
「終わったの?図書委員のお仕事は?」
「ん。ちょっと早いけどね」
「ま、誰もいないしね。部活が休みだとたまにはいいね、こういうのも」
そう言って大きく背伸びをするに、リョーマは息を吐く。
「からかいに来ただけのくせに」
「人聞き悪いんですけどー。彼氏と一緒に帰りたいって言うかわいい彼女の我が儘くらい聞いてくれてもいいじゃない」
「どうだか」
「本当だってば!」
頬を膨らませてリョーマをにらむに対して、リョーマはおかしそうに口角をつり上げる。の頬に手を添え、顔を近づける。
「ちょ、ちょっと、待って!ここで?!」
「誰も見てない」
「そういう問題じゃ…んっ」
リョーマはの唇を強引に奪い取る。
やんわりと拒んで体を堅くしていただったが、徐々に翻弄されるように力が抜けていく。
そんなを見越してか、制服のリボンに手をかけ、ちらりとの背後からのぞく窓を見る。
「えーなにそれ」
「本当だって!」
外には下校途中の学生服をきた男女二人組が会話をしているのが微かに聞こえてくる。
こちらに気づく様子はないが、「はぁ…」と息を吐き、頬を赤らめてリョーマを見るの瞳がリョーマの欲を掻き立てるものだから、 邪魔されたくなくて…この瞳をまだ独り占めしていたくて…。
まだその存在に気づいていないに気付かれる前に、全開だったカーテンに手を伸ばして閉じる。
「リョーマ?」
「なんでもない」
再びの唇を奪い取る。制服の上から、そっとの胸の膨らみに手を触れる。
緊張するように、ピクリとの体が反応する。ゆっくりと唇を離し、互いに見つめ合う。
リョーマが円を描くように優しくの胸をもみ上げる。「んっ」と小さく声がから漏れ、リョーマの制服の裾を掴む。
「…」
の頬にキスを落とし、スカートの裾からのぞく太股にリョーマが撫でるように手を滑らせる。
「く、すぐったい」
「足閉じないでよ」
「ごめっ…」
リョーマは、の足を軽く持ち上げ上履きと靴下を脱がす。の片足を自分の肩に乗せ、太股の内側にキスを落とす。
「手、どけて」
「は、恥ずかしいんだけど」
「触りたい」
「っ!」
真っ赤な顔で自身のスカートを押さえるの手をリョーマが誘導するようにやんわりと退かす。
撫でるように足を這うリョーマの手がの脳内を支配していく。
「リョー、マ」
の呼ぶ声に答えるように「どうかした?」とリョーマが顔を上げてを見ると、優しく微笑む。
「大好きだよ」
そう言って、リョーマに顔を近づけキスを落とすと、リョーマは驚いたように目を見開く。
「なに、突然」
「なんとなく」
クスリと笑うに心を奪われる。もう、だめだ。とまれない。
の長い髪に指を絡め、愛おしさを伝えるように口付けた。
リョーマは、の太ももの内側を這うように手を滑らせ、スカートの中に侵入したその瞬間…。
「…マ、リョーマ!」
「ん…?」
うつ伏せになって図書室のカウンターで眠るリョーマの肩を揺らす。
「何度も呼んだのに。寝てるんだもの」
「え…あ。これ、借りるんだっけ?」
「うん。それより、もう図書委員のお仕事終わりでしょ?早く帰ろう」
「私も読んでた本返してこようっと」と、そう言っては手にしていたシャーロックホームズの本を棚に返しに走っていく。
「ふわぁ…」
「(俺、いつ寝たっけ…?)」と思いつつも大きく欠伸をする。 ずいぶんと変にリアルな夢を見ていた気がする…。 いや、それ以上にに対する罪悪感がリョーマを襲う。
「あ…」
ふと窓際を見ると、夢では確かに閉めたはずだが現に、カーテンは全開になっている。 やはり先ほどのは夢だったのかと思わされる。リョーマは立ち上がり、カーテンを閉じた。
「リョーマ」
「っ!びっくりした」
リョーマの背後から顔を出したにリョーマは胸をなで下ろす。
「どうしたの?さっきから、ぼーっとして」
「…別に」
目線を反らして、の顔を見ようとしないリョーマには首を傾げるも、じっとリョーマを見ているから視線を感じると、 リョーマは仕方ないと言ったように息を吐き、の方に顔を向ける。
「あ。やっとこっち見た」
「ったく…ほんと、って俺の気を引くの上手いよね」
「そう?」
「自覚無いんだ。言っておくけど、どうなっても知らないよ」
「それってどういう…きゃっ!」
の手を自身の方に引き寄せ、倒れそうになるに顔を近づける。 いつもに増して愛おしく感じたのは夢のせい…?
カーテンを閉めた手に思わず力が入った。
あとがき
(2020/05/12)加筆・修正を行い投稿しました。
(2018/01/05)Twitterにて実施したアンケートを基に投稿。
お題―診断メーカー様より「https://shindanmaker.com/590587」より。
「みみへのお題は ・浮気 ・窓際エッチ ・無理矢理に ・口移し です。アンケートでみんなが見たいものを聞いてみましょう」 ―Twitterアンケート投票の結果:「窓際エッチ」に一番多くの投票をいただきました。ちなみに、2位は「口移し」でした。 ご投票ありがとうございました。