20話 合宿最後の朝


皆様、雪女に出会うと精を抜かれてしまうと云われているのはご存じでしょうか?

『寒いのに、大丈夫かい?』

と旅人が問いました。女はその声で振り返り妖艶に微笑む。

『ええ。貴方を待ってたのよ』

女はの旅人に近づき、そっと手を伸ばした。
行き会った旅人に雪女が声をかけ、その美貌に負かされたら最後。谷底から死冷となり発見されるという…。

「ぎゃああああ!!!」

私は、そこで飛び起きるように目を覚ました。
昨日の夜、心配で我が姉が電話してきてくれたのかと思ったら、「ねぇ、今日テレビで面白い話してたんだけどさー」といって話始めた雪女伝説の話。 意外にもそれがなかなか怖くて、夢に鮮明に出てきてしまい、寝付きが最悪というコンディションの状態で最後の一日は幕を開ける。


「しかし我が姉ながら、なんで雪女?」

意味が分からない。あれが合宿中の妹に対する激励だというのなら間違ってると言いたい。 しかしオカルト好きなだけあって話が上手いのが質が悪い。なんて思いながら私は、眠たい目をこすりながら部屋を一歩出た瞬間、悪魔が微笑んだ。



私が意外にも悩まされた元凶の悪魔。椎名翼。

「相変わらず朝っぱらから、冴えない顔して何やってんだよ」
「翼、雪女伝説って知ってる?」
「…は?小泉八雲か?」
「なに?それ?」
「質問に質問で返すなよ」

相も変わらずマイペースなに翼は少し複雑な心境で、を見る。

「しかし、変な顔」
「ひどい!乙女になんてこと言うのさ!」
「誰が乙女だよ」
「私以外居ないでしょ」
、自分の顔も鏡でみたことないの?」
「ねぇ!それ、どう言う意味?!」

遠回しに私がブスだって言ってるようなもんだろ!おい!なんて失礼な奴だ!

「…疲れてんじゃないの?」
「へ?」
「だから、お前が疲れてんじゃないのかって聞いてるんだよ」
「あ。それは大丈夫!全然平気!」

「元気元気!」と私が拳を突き上げると、翼が息を吐く。

「まぁ、それならいいけど」
「まさか翼、心配して様子見に来てくれてたの?」
「そんなわけないだろ。ジョギングした帰りに通っただけだって」
「そっか」

私から背中を背けた翼とのやりとりがいつも通りで、少しだけほっとした自分がいた。

「翼」
「あ、柾輝だ!おはようサンサン太陽だ!」
「…なにやってんだよ?こんなところで」
「スルーって一番痛いよね!」
「冗談だって」

笑いながら言う柾輝をこれほど憎らしいと思ったことはない。

「そろそろ、朝飯行こうぜ」
「ぁあ、五助達は?」
「もう来ると思う」
「え?朝ごはん?今から?早くない?」
「いや、普通だろ」

あれれ?いま何時ですか?
「今くじらー。」とか言うボケはいらないからさー

「もう大体の奴ら食堂行ってると思うぜ」
「…しまった!ドリンク準備まだじゃんか!」

こんなことしてる場合じゃない!また私、玲さんに冷たい視線で黒魔術かけられてしまう!

「翼!柾輝!私、行くから!グッバイ夜の闇黒街ー!」

ドダダダと言う効果音がふさわしい程、は急いで廊下を走っていった。 が遠のいたのを確認したように、柾輝は翼に言う。

「…あんた、俺達が寝てる間にシャワー浴びて部屋戻って来てただろ」
「だから?」
「ジョギング帰りに通ったにしては、随分遠回りだぜ」
「うるさい」
「(相変わらずなのもいいけど、いつ誰に盗られるかなんてわかんないぜ?)」

「馬鹿なこと言ってないで行くぞ」と言い、前を歩く翼の背中に柾輝は心の中で呟いた。


「よし!ひとりで出来たよ!お母さーん!」

…いつもツッコミをくれる人の有り難さがわかります。なんとか仕事を光りの速さで終えた私は、一人でしぶしぶ食堂へ向かう。

、お疲れ様。今日で合宿は最後だから頑張ってね」
「玲さん!」
「いくらでも疲れたでしょう?」
「前方部分に、聞き捨てならない発言が雑じっていたような気がしたんですけど…」
「気のせいよ」

そう言って黒い笑みで私に微笑む玲さんだが、やっぱり美人だ。

「それより、、貴方にお願いしたいことあるって話は覚えてるかしら?」
「あ、はい!勿論!」
ゴメンなさい。わすれました。何のことですか?とは、とてもじゃないが言える雰囲気ではない。

「実はね…」

玲さんの言葉に、私は目を大きく見開いた。 東京選抜の合宿のマネージャーは、今日で最後です。