07話 車中
「…別にもう怒ってねーよ」
宿舎への戻る車の中で、が泉の隣の席に座ると先に口を開いたのは泉だった。 さすがに皆も疲れたようで、行きの時とは相反して静かだ。
「でも…うん。ごめん」
「謝んな。なんか俺が惨めに感じっから」
「…孝ちゃん、私のこと好き?」
「ぶっ…!はぁ?!!」
がそう聞くと驚いたように声を上げた泉は、さっと自身の口を手で覆う。
きょろきょろと車内を見渡し、皆が寝ているのを確認すると泉はホッとしたように息をついてを見て小声で言う。
「突然何聞いてんだよ!お前は!」
「私は、孝ちゃん好きだよ。だからもしも孝ちゃんが他の女の子と連絡先交換してるなんて考えただけでも嫌だったもの…栄口君に言われて気づいたの」
「っ!(栄口の奴…!なに言ったんだ?)」
の言葉で一気に泉の顔に熱が籠もる。
「だから、さっき孝ちゃんもそう思って怒ってくれたんだとしたら、嬉しいなーって…」
「(やべー…ニヤけが止まらねぇ。けど、思い上がるな。落ち着け…)」
が自分のことをただの幼馴染みとしてしか見ていないということは、嫌というほど分かってるのだから…。
「お前さ、自分で何言ってるか分かってて言ってんのか?」
「え?」
言っていることが分からないと言ったように首をかしげるに泉は息をつく。
決意をしたように泉はをまっすぐに見た。
「…好きだよ」
「え…」
「お前が聞いたんだぞ。俺がお前を好きかってさ」
「あ、うん。ちょっとびっくりしただけ…ありがとう、孝ちゃん。いつも私が一方的だからそんな風に言ってくれると思わなかった」
そう言って嬉しそうにクスクス笑うで泉の思惑は確信に変わる。
「(やっぱ分かってねぇか…)」
の手を掴むと、泉は指を絡めての手を握りしめた。
「孝ちゃん?」
「言っとくけど、俺が言ってる好きってのは、こういう意味だぞ」
「え?」
は泉の言葉を考えるように目をぱちくりとさせて、絡められた手を見る。
「…どういう意味?」
の反応にガクリと泉は肩を落とすも、顔を上げてを睨む。
「…この鈍感タラシめ」
「どっ…?!」
「あー…ちげぇ。そういうこと言いたいんじゃねぇや」
泉は息をつき、絡めている手とは反対の手での頬に手を添える。
「いい加減、気付けよな」
静まりかえった車内で自分達の声だけが聞こえていた。
「俺、お前のことただの幼馴染みとして見てねぇから」
「え」
垂れるの横髪に指を絡め、耳に掛けさせる。
「孝ちゃ…」
「が好きだ」
顔を近づけ、チュッという音を立てての頬に口付けた。