08話 告白
「おーい。フリーズしてんぞ」
孝ちゃんの言葉で、はっ!と我に返る。
え?え?今なにされた? というか…今、私…。
好きだと言われ、頬に落とされたキス。
それは、孝ちゃんが私に幼馴染として言っているのではないという意味の証で…。
ぐるぐると廻る思考が私の脳内を揺らし、思い出してしまった出来事に体の温度が一気に上がる。
「おー…。顔、真っ赤だな」
「だ、だって…!」
「まぁ、そういう俺も余裕ねぇけど」
少しだけ私から目線を逸らして照れたように下を向くも、孝ちゃんは息を吐いて再び真っ直ぐに私を見る。
「これでもまだ分かんねぇとか言うなよ?」
「い、わない…けど…。孝ちゃんがそんな風に思ってくれてるなんて思いもしなかったし…私も考えた、こと、なかった、から…」
「いや、知ってるし。つーか、俺もお前に言わされるなんて思わなかったしな」
「…ご、ごめん?」
「謝んなっつーの…。フラれたみたいだろうが」
「え。わ、私、孝ちゃん大好きだよ!た、ただ、そういうこと考えてなかっただけで…!」
「っー!分かってっから!追い打ちかけんじゃねーよ!」
「でも…!」
反論する私の口を、頬を赤く染めた孝ちゃんが手で塞ぐ。
「いいから。俺の話、聞け」
こくこくと私が首を縦に振ると孝ちゃんは「よし」と言って、そっと手を離した。
「別に、今答えが欲しいわけじゃねぇぞ。つーか、さっきも言ったけど俺も今お前に気持ち伝える気なんてなかったし。が俺のこと幼馴染としてしか見てないなんて知ってるしな」
「孝ちゃん…」
「でも言っちまった以上しょうがねぇからな。だから今は、お前が俺の気持ちを分かってるならそれでいい。あとは俺が勝手にやる」
「う、ん?」
「けど、覚悟はしてろよ。嫌って程これからお前に俺のこと考えさせてやるからな」
「え…」
「男として意識させてやるよ。幼馴染としてじゃなくても、大好きって言わせてやる」
孝ちゃんは、ずっと掴んでいた私の手を持ち上げ、私の手首にキスを落とす。
私の体の熱は一気に上昇した。
「あ…や…!ちょ、ちょっと待って…!」
「はぁ?なにを待つんだよ。つーか、お前は気にせず普通にしてろよ。俺が勝手にやってるだけなんだからな」
「(普通にって…いや、無理無理無理!今も心臓爆発しちゃいそうだよ…!)」
孝ちゃんのことは好きだ。昔から大好きだ。
でもそれは幼馴染だからで…側に居るのが当たり前で、家族みたいな…そんな感じだった、から。
だけど、今私の隣に居る孝ちゃんは、ちゃんと高校生の男の子なんだ。
いつも私が何言っても素っ気なくて、孝ちゃんが私のことをそんな風に思ってくれてたなんて、考えたこともなかった…。
だから素直に驚いた。いや、それはもう、めちゃくちゃ驚いた…。
でも…すごく…嬉しい、かな。
「孝ちゃん…」
「なに?」
「ありがとう」
「は…?」
「そういう風に好きって言ってくれて…嬉しかった、から」
「っー!本当なんなんだよ…お前は…」
「え?」
「なんでもねぇよ!ってか、まじで気付けっつーの。バーカ」
「馬鹿?!」
「本当のことだろ。馬鹿」
「さっきからひどくない?!(やっぱ孝ちゃんが私のこと好きだなんて嘘なんじゃない?!)」
「(こんな反応見せられて、自惚れだと思いたくねぇからな。この馬鹿が気付いてねぇだけで、勝算はある。絶対俺が気付かせてやる)」
先ほどの出来事がまるで無かったかのように言い争う。
だけど車が宿舎に到着するまで、孝ちゃんが強く私の手をずっと握りしめていて…無かったことになんてできないと悟った。
「よかったね」
「え?」
「泉と仲直りできたみたいだから」
車を降りる間際に、栄口が私にそう言った。
「えっと…話、聞こえてた?」
「ううん。全然。席離れてたし。(気になってたけど、なんか聞いちゃいけない雰囲気だったしな…)」
「そ、そっか…」
「?また何かあった?」
「う、ううん!ないない!何も…」
先程の車の中での出来事を思い出してしまい、また私の体温が上昇する。
「え!ちゃん、顔真っ赤だよ!」
「ほ、本当になんでもないの!ちょっと暑いだけ!気にしてくれてありがとう。栄口君」
「う、うん。(うわー…絶対嘘だ―。泉の奴、なにやったんだ?)」
でも見ている限り、元気になったようだし…よかったかな。と栄口は胸を撫で下ろすように息を吐いた。