09話 瞑想
世間はGWだと言うのに、四日間の合宿から帰ってくるも次の日も朝から部活だ。
学校への行き帰り…今まで孝ちゃんと一緒で意識なんてしたことなかったけど…。
流石の私でも先日あった出来事の直後にこれは意識しないなんて方が無理だと思う。
「なに突っ立ってんだよ」
「え。えーっと、今日は天気がいいし、歩いて行きたい気分かなぁ…って」
「は?お前だとめちゃくちゃ距離あるっつーの。ほら、馬鹿言ってねぇで早く後ろ乗れ。遅れるぞ」
「ですよねー…」
渋々と私がいつものように孝ちゃんの自転車の荷台に腰掛けると、 その様子を見ていた孝ちゃんが「ふーん…」という声を上げる。
「意識してんの?」
「っ!!」
わざとらしく私の耳元で囁かれた孝ちゃんの言葉で、私の肩がビクッ!と上がる。
そんな私を見た後で息を吐くと孝ちゃんは平然とサドルに跨がり、ゆっくり自転車のペダルを漕ぎ始めた。
「気づくのおせーよ。ったく…いくら家が向かいの幼馴染でも、好きとも何とも思ってない女を毎日、自転車の後ろに乗せて登校できるわけねぇだろ」
誰がそんな面倒なことすると思うんだよ。そこまで優しくねーぞ。とボヤく孝ちゃんに、思わず私は喉を詰まらせる。
「いや…うん。そうだよね。ごめん。気付かなくて本当ごめん。幼馴染の特権だと思ってた」
「分かったなら、今まで通り大人しく俺に送られてろ。こっちは下心あってやってんだよ」
「孝ちゃん…。そんなこと言われたら、私ドキドキしちゃうよ」
「おー。それなら、俺も恥を忍んで言った甲斐あったな」
冗談めかした口調で互いに言う。最初は孝ちゃんがペダルを漕ぐ後ろでクスクスと小さく笑っていた私だったが、 「なに笑ってんだよ」という孝ちゃんの声を合図に大きく声をあげて笑う。
「あはは!おかしいー!」
「はぁ?」
「孝ちゃん、好きだよ」
「っ…!お前それ、俺の気持ち知っててよく言えるな。喧嘩売ってんのか?」
「違うよ。普通にしてろっていうから普通にしてるの。だからいつも通り思ったこと言っただけ」
「確かにそうなんだけどよ」
まぁ、そっちの方がお前らしいか。と付け足して言う孝ちゃんの背中へと回す手に私は少し力を込めた。
学校に着き、いつものように孝ちゃんが自転車を停めて鍵を掛ける。
すると同じようにやってきた水谷君が「おーい」と私達に手を振る。
「おはよう。水谷君」
「はよー。今日も朝から一緒に登校とは、ほんと仲良いねー」
と茶化すようにいう水谷君の存在を華麗に無視して、孝ちゃんが「今日のメニューなんだっけ」と私に尋ねる。 孝ちゃんの質問に答えながらその場を去ろうとする私達に水谷君が後ろから叫ぶ。
「待て待て待て!無視すんな!」
「んだよ、朝からうっせーな」
「俺の扱いひどくない?!」
孝ちゃんと水谷君のやりとりに、私がクスクスと笑っていながらも裏グラに向かって私達が歩いていると「ー!」という声がした瞬間、後ろから抱きつかれてすぐに悠君だと分かる。
「おはよ、悠君」
「おっはよー!泉と水谷も!」
「俺らはついでかよ」
「田島、靴ひも外れてんぞ。あぶねー」
「おっと。ほんとだ」
孝ちゃんの言葉で私から手を離して、靴ひもを結ぶ悠君。
「行くぞ」と言って足を進める孝ちゃんの後ろを私が追いかけると、靴ひもを結んだ悠君も私の横に並んで歩き出す。
「ちゃんだけじゃなくて、泉も慣れたもんだなぁ…」
「ぁあ?なんか言ったか?」
「あ、いや。こっちの話」
どこか不機嫌そうに水谷君を睨む孝ちゃんに、水谷君がたじろいだ。
「おはよーお!今日から練習前に瞑想するよ!」
志賀先生の声で皆が集まる。α派を出す訓練をしてリラックスを条件付けできるようにするというものらしい。
「隣の人と手をつないで。隣の人の手の温度をそれぞれ感じて見てくれ」
偶然、隣にいた巣山君に私が手を差し出すと、少しだけ照れたように優しく私の手を握ってくれた。
そんな優しい巣山君に相反して、なんの戸惑いもなく私の反対の手を強く掴んだのは孝ちゃんだった。
「痛っ~!」
小声で訴えるように孝ちゃんの方を睨むと、馬鹿にしたような表情で私にベッと舌を出す。
言い返したい文句もあるが、志賀先生の指示に従うように目を閉じた。