01話 始まりは効果音
ドゴーン!!
「甘いわ!」
「くっそ…」
「うん?」
「この…クソじじぃ!!」
乱暴にピンク色のピコピコハンマーを振り回す少女。
この少女こそが、この物語のヒロインである……一応。
ドシーン!
隙をついたと思ったのに見事に交され、自らの攻撃の衝撃に耐えきれず尻餅をついた。
「ぃ、痛ったー!」
「ふぉっふぉっ、まだまだ甘いの。」
「手加減してよ!」
「なにを生ぬるいこと言うか」
「無茶して腰壊しても知らないんだから」
「まだまだ若い者には負けん」
「(本当、腹立つ…このじじぃ…)」
初めまして、私の名前は。
さっきまで、このピコピコハンマーを振り回していた14歳の女の子です。
一見おもちゃのようなピコピコハンマー。通称ピコハンだけど、これは決して子供が振り回していいものではない。
ピコハンを置いた時に、ドンという凄まじい音から、重りが入っているということはもうお察しだろう。
だけどこれを作ったのは何を隠そう、さっきから私の目の前に居る白い髭を生やし、飄々とした胡散臭い老人だ。
ハンター協会の会長で、世界で名の通るハンター。アイザック=ネテロ。ネテロ会長と皆がそう呼ぶ。
そう、彼は私の義父であり、師匠なんです。
「しかし、強くなったの」
「何年もおじいちゃんに付き合わされて、強くなってなかったら私、唯の馬鹿だよ」
小さい頃から、修行修行修行…の毎日。 正直、好きでやっているわけじゃない。私だって、女の子らしくしたいことだっていっぱいある。 でも、こうなったのにも理由があるのだ。そう。あれは、私が4歳くらいの時だった…。
私が山の中の珍味特集の放送を見ていたその時、私の横で一緒に見ていた母が突如椅子から立ち上がって言った。
「母さん!旅に出るわ!」
そう言って荷物をまとめ、私がその行動に呆気にとられている最中で、私の父は電脳パソコンを片手に持ちながら部屋から飛び出してきて言った。
「父さんは、実際の目で地球の裏側を見て見たいんだー!」
そうして幼い私を連れて行けるはずもない母と父は、昔に母と父が旅の途中に意気投合したと言われる人に預けられる事になった。
その人こそが、今私の目の前に居るこの"クソじじぃ"である。
「今日は、ここまでじゃ」
「はぁ…疲れた…」
それからと言うもの、私はこうして朝の修行に始まり、夜の修行で終わる生活を送らされる羽目になったのだ。
言いたい文句は山ほどあるが、育てて貰っているのに文句は言えない。
詳細は知らないが、これが私を預かる条件として飲んだというのだから、私に拒否権なんてないのだ。
「お、そうじゃ言い忘れておった」
「なに?」
「明日のテストのことじゃ」
「…テスト?あれ。そんな時期だっけ?」
「毎年恒例のお楽しみじゃろ」
なにが毎年恒例のお楽しみだ…と心の中で毒づく。
毎年恒例のテストとは、ネテロさんが私の誕生日の日に必ず出す試験の事だ。
例えば過去には、グルグル巻きのテープを巻かれたまま大海原にぶち込まれたり、 一文無しで深い谷底に一人でつき落とされ家まで帰ってこいと言われたり…。
誕生日なのに、この異常とも言えるテストを受けさせられてきたのだ。
唯一のお楽しみは、このテストに通過すると、 ネテロさんの知り合いである一流の美食ハンターが振る舞ってくれる手料理を食べられるということくらいだろう。
しかし、今年は一体どんな事をさせられるのだろうか?
「ハンター試験に出る事じゃ」
「…ハンター試験って、今更?」
「そうじゃ。勿論、その試験に合格するのが今回のテストのクリア条件じゃぞ」
「あ、あのさー、おじいちゃん…」
「なんじゃ?」
「ハンター試験って、本当に死ぬかもっていうやつだよね…?」
「ほう。知っておったか。じゃあ、説明は不要じゃな」
や、やっぱりかーー!
「無理無理!絶対無理!」
なんで、明日が誕生日で死に行かなきゃいけないの?!いやだよ!
「準備しとくんじゃぞ」
「おい!聞けよ!こら!」
「朝一に出んと間に合わんぞ」
運命といえる物語が、今始まりを迎えた。