21話 伝える想い


ここに来て数日だけど、本当に良くして貰っているし、 なによりキルアを待たなきゃいけないからいいんだけど…。 もしかしたら私は、ものすごく流されやすい体質なんじゃないだろうか。

「今日はこの本を読むようにと」
「…"暗殺稼業の歴史"」
「その後は、目を通していただきたい書類があるそうです」
「書類?なんですか?それ?」
「さぁ…私にも詳しくは聞かされておりませんので…あとでキキョウ様が来られるのでその時に説明すると伺っております」

女の執事さんが私に淡々と話を進めると、部屋を出て行ってしまった。
今日はカナリアも仕事で居ないし、遊んで貰えないからつまらないなぁ。

「困ったなぁ…。キルア早く来ないかなぁ」

実はキルアからもらった小型爆弾だけは隠し持ってるから、施錠されててもこのドアくらいなら正直、簡単に吹き飛ばせると思うんだよね…。
だけどまだ行動に移すには早いのかな?ただ待つだけってのもつまんないなぁ…。 と私がそんな思考を巡らせながら部屋で息をついていると、ノック音が響き部屋のドアが開いた。

「あ。マジでいた」
「?」

そこに立っていたのは、黒髪でふくよかな男性だった。

「(えーっと確か、ミルキさんだったっけ…)」

立っている私にゆっくり彼が近づいてきて、私に顔を近付ける。

「ふーん。キルの奴、本当変わってるなぁ」
「私に何かご用ですか?」
「別に。近くで見てみたかっただけさ」
「私を?」
「うん。だって、この家に客人なんて滅多に来ないしね」
「そう…なんですか?」
「当たり前じゃん。仕事の依頼以外で殺し屋に客なんて来ないよ。だから、あんたは本当に例外なのさ。ああ、でもゾルディック家繁栄のためって考えればこれもある意味、仕事の内のひとつか。まぁどっちにしろ、ママが気に入ってるなら俺はなにも言うつもりないけどね」

ミルキさんが淡々と言葉を並べながらそういうと、私の部屋に置かれていたお菓子に手を伸ばし、バリバリと食べ始めた。

「それよりあんたさ、本当はなにが目的でこの家きたわけ?金が欲しいなら職種はもっと選んだ方がいいよ。そりゃ羽振りはいいけどね」
「あ、いえ。私はキルアに会いに来ただけです」
「え?まじでそのためだけにこんなとこ来たわけ?キルといい、あんたといい、やっぱ二人とも変だな。ある意味、お似合いかもね」
「(?お似合い?)」

ミルキさんは、ドガッと大きく足を広げて部屋に置かれていたソファに腰掛ける。
するとテーブルの上に置かれていた何かに気付いたらしく、お菓子を食べていた手を止めた。

「あれ。これって…」
「あ。それ以前、キルアから貰ったんです。小型爆弾です」

さっきまで暇だから、それでこの部屋のドアを吹き飛ばそうとしていた…とはとても言えないけど。

「うん。知ってる。作ったの俺だから」
「…ええ?!そうなんですか!」

咄嗟にテーブルの上に私が置いたキルアから貰った小型爆弾。
確かにキルアは"兄貴に貰った"と言っていたが、その製作者がまさかミルキさんだったとは…。

「広域だけど、分散されるから殺傷力はあまり高くないよ。せいぜい壁を壊す程度の玩具さ」
「玩具…これが?」
「今は爆薬の量を調整して、もっと小型で殺傷力を高めた爆弾作ったしね。見たいなら俺の部屋くる?」
「え!いいんですか?!」
「いいよ。なんなら使ってない爆弾もあげるよ。その代わり、実験台になってもらうけど」
「実験台?」
「あんたの体型、ちょうどいいしね。試したい装置があるんだ」

爆弾ちょっと見たい…と思って暇だし、行ってみようかな。と私が了承しようとした瞬間、 ドアが開いたと思ったと同時に、ミルキさんの体がぐらりと倒れた。

「え…」
「この馬鹿!いい加減、危機感持てっつの!豚君に付いていったら、下手すりゃバラされるぞ!」
「キ、キルア!!」

「ゴンといい、お前といい…ちょっとは人を疑えよ」といい、平然と私の前に立っているキルア。 少しの間しか経っていないのに随分会っていなかったように感じる。

「大丈夫。私、強いもん」
「そういう油断が一番危ないんだっつの」

キルアと顔を見合わし、互いに吹き出すように笑う。

「よくわかったね。私がここに居るって」
「親父に聞いた。許可降りたし、さっさとゴンのとこ行こうぜ」
「うん!あ、でも、いいの?」
「なにが?」
「ミルキさん」
「ああ。一時的に気絶させただけだから、少ししたら起きるって」
「そう?」
「ほら、まじで早く行かねぇと、お袋に捕まるぜ」
「あ。お世話になったし挨拶していった方が…」
「アホか!お前、まじで殺されるぞ!」
「そ、それはないと思うけど…」
「殺し屋のアジトだってこと忘れてんじゃねぇよ」

そう言われも、やっぱり私には、キルアが言うようにそれほど悪い家族には思えないなぁと思うも、 キルアにとってはあまりいい思い出がないのかな…?
キルアに急かされ、荷物を持った私は慌てて部屋を出ようとするも、 「あ」と私は自分の格好が全てキキョウさんに用意されたものだということを思い出す。

?どうした?」
「いや、流石に、この格好のまま行くのはちょっと気が引けるというか、なんというか」
「ああ。つか、その趣味悪い服、用意したのお袋だったな。確かに着替えた方がいいかもな。発信器付けられてる可能性もあるし」
「は、発信器?!」
「うちじゃ、あり得ない話じゃねぇよ」
「私の服、どこいったんだろう?せめて、ピコハンだけでも見つけないとおじいちゃんに怒られちゃう」
が試験の時、持ってたあれか。とりあえず、ここは早く出た方がいいな。ちょっと心当たりあるからついて来いよ」
「うん!」

私はキルアの後に続いて部屋を出る。
暫く歩き、行き着いた先は物置のような部屋だった。

「お、ビンゴ!ほら、これだろ」
「あ。私のピコハンとバッグ!よかったぁ!」
「んー…流石に服はねぇか。ここにないってことは、捨てられた可能性が高いな」
「そっかぁ…。試験の時に、ちょっと破れちゃってたし、捨てられてても仕方ないかなぁ」
「とりあえず、俺の服でいいか?」
「え?いいの?」
「その動きにくそうな服よりマシだろ」

「ほら」とキルアに服を手渡される。

「ありがとう!キルア!」
「ドアの外で待っててやるから、終わったら来いよ」
「うん」

キルアはが着替え始めた部屋を出て、壁にもたれ掛かる。

「…なんでこんな時だけ、俺の欲しいものが分かるんだろうな」

今までずっと本当に欲しいものは手に入らなかった。 例え欲しいと願っても、そんなものは不要だと取り上げられた。それなのに…。
親父にもお袋にも全部バレてた…。 確かにが居たら、殺しだってなんだって我慢できる。 正直、それならこの家に居るのも悪くないとさえ少し思えていたことも。


「キル。彼女は、いい子だな」
「え?」
「お前の話を聞いてやれと俺に言ってきたのもあの子だ」
「あの馬鹿…」
「信じてくれている者がいるのなら、応えてやれ」

親父からの言葉を思い出す。ドアがガチャリと開く。

「キルア、お待たせ!」
「おう」

先ほどまで下ろされていた髪を一つに括り、 フリルの付いたピンク色のワンピースから、キルアの黒いズボンと紺色の上着に着替えたがピコハンを背負っている。 服装は違うものの、いつものらしい雰囲気が戻り、思わず口元が緩む。

「やっぱそっちの方がらしいな」
「えへへ。似合う?」
「似合う」

珍しい返しに、私が目をパチクリとさせると「まぁ、俺の服だしな。やっぱセンスいいだろ」とキルアが付け加えてそう言い、 やっぱりいつものキルアだったと思い知らされる。


「なに?」
「悪かったな。変なことに巻き込ませちまって」
「?私、キルアに言われた通り、待ってただけだよ。そもそもキルアを待つって言って押しかけたの私だしね」

今回うまくいったのは、たまたまだ。お袋がの何を気に入ったのかは分からない。 だけど、普段ならきっと…。様々な嫌な想像がキルアの頭に過ぎる。
そんなことなどつゆ知らずに首を傾げて、目の前に居るにキルアは思わず手を伸ばし、抱き寄せた。

「キ、キルア?」
「……俺さ、に言ってなかったことがある」
「え?」
「一緒に居たい…。お前と、これからも一緒に居たい」
「…キルア」

は初めて聞いたキルアからの素直な言葉が嬉しくなる。

「うん!私もキルアと一緒にいたい!」
…」
「キルアから言われたの初めてだからそう思ってたのが私だけじゃなくて、嬉しいなぁ。ゴン達にも会いたくなっちゃった」

好きだという感情と、信頼してくれる人を裏切りたくないと思えた感情を教えてくれたのはだ。 だけど、これ以上の感情をに伝えることは、今では無い気がする。 焦ることでもないかとキルアは、からすっと手を離す。

「そうだな、早くゴン達の所いこうぜ」

このまま自分がこの場所でを独り占めしているのは間違っている気がするから。

「それより、。ゴンがどこにいるか知ってるか?」
「ああ。確かゴン達はね…」

先ほどまでの笑顔がから消えた。

「どうした?」
「しまった…。私、暫くゴン達に連絡取るのを忘れてた!」

というより、一時期携帯も服も盗られていたから連絡の取りようがなかったのも事実だけど…。
連絡入れるって約束だったのに…どうしよう…!!

「そ、そうだ!携帯!」

慌てて携帯を取り出して開くと、発信履歴がクラピカの名前で埋まっていた。 メッセージにも心配する文面と留守電にゴンの心配する声が何件も入っていた。
そんな私の携帯をキルアが横から覗き込む。

「うわ。すげぇ数だな」
「連絡できなかったこと忘れてたの…。ゴン達に連絡取らなきゃ」

私は慌てて携帯を耳に当てる。コールをするも繋がらない。

「うーん…繋がらない。屋敷の中に入るのは確かなんだけど」
「じゃあ、執事室行くか。ゴトーなら知ってるだろ」

前を歩くキルアを追いかけて私達は執事室へと向かうことになった。