Memory of The First Love -続く未来-


「これで邪魔者も居なくなったし…試合、始めるよ」
「いいぜ…。こい!チビスケ!」

リョーマとリョーガ…時間を超えてようやく互いの本気の試合が行われようとしていたその時、 ボイラー室での爆発事故が起こり、船は激しく揺れるのだった。


「きゃああ!」
ちゃん!」

激しく揺れ動く船に耐えられなくなり、 ガクン!との体も後ろに揺れて倒れそうになった時に不二がしっかりとを腕で支えた。

「す、すいません!」
「大丈夫?」
「は、はい!でも、これじゃあ乗客の人達も…」
「そうだね…。手塚!」
「ああ。このままでは危険だ…皆さん!この船から非難して下さい!」

船内中がパニックになる中、手塚部長の冷静な声が響き渡ったのだった。


すっかり誰も居なくなった観客席。激しく揺れ、炎が燃え盛る船内。

「はあっ!」

そんな状況の中でも、リョーマとリョーガの戦いは繰り広げられていた。

スパーン!

リョーマが打ったボールは、鋭くリョーガのコートに決まり動くことができなかった。

「やるようになったじゃねーか!」
「あんたこそ、まだまだなんでしょ!」

ドゴーン!

火災が起ころうとも、二人は幼いの時を懐かしむかのように楽しげに笑ってみせるのだった。


「リョーマ…」

救命ボートで船から脱出していたは、未だ来ないリョーマを心配そうに待っていた。

「大丈夫だって!心配すんな!」
「うん…」

だけど、全員の観客の避難も無事に済み、燃え盛るボートの火災によって巡視艇も来たことで桜吹雪にも逮捕状が出たというのに、 リョーマは一向に帰ってくる様子はない。
だけでなく、英二達をはじめとする皆も心配そうな表情で船を見る。

「やっぱり私、船に…!」
ちゃん!」

が救命ボートを降りて、リョーマを探しに戻ろうとした時、 不二は、そっとの肩を抱いて止める。

「不二先輩…」
「今は待とう。それに今動くと、救助に来てくた大人達にも迷惑が掛かる」
「…は、はい」

お願い。無事で帰ってきて!
は、願うようにリョーマが未だいる船を見上げるのだった。


「はああっ!」

スパーン!!

「くっ!」

リョーガのラケットはリョーマの打球によって弾き返された。

「はぁ…はぁ…」

力尽きたリョーマは、コートに手をつき、肩で息をする。そんなリョーマにリョーガが面白げに笑って言う。

「ゲームアンドマッチ…チビスケ。お前の、勝ちだ」

同じく体力を使い果たして、コートに仰向けになり倒れこんだリョーガは、青い空を見上げるのだった。

「桜吹雪のおっさんが八百長試合の対戦相手を探していた時、用意されたビデオの中にお前がいたんだ」

正直、その時まで昔のことなどリョーガは忘れていた。 だけど、ビデオの中でプレーをするリョーマを見ていて、すっかり昔の懐かしさが溢れ出てきた。 昔の自分に戻ってしまったんだ。

「楽しかったぜ、チビスケ…本当に、楽しかった」

リョーガはこれまでにない程、嬉しそうな笑顔をリョーマに見せるのだった。

「でっけー夢、か…おい、チビスケ」
「…なに?」

リョーガはゆっくりと立ち上がり、未だ肩で息をするリョーマを見る。

「お前があいつに初めて会った時のこと、覚えてるか?」
「あいつって…」

口角を上げてニヤリとした表情を見せるリョーガに、リョーマは息を飲んだ。


「…ん?おい!!」
「え…あ!リョーマ!」

ゴゴー!と鳴るエンジン音と水の音に気がついた桃城が指差す方向には、 ジェットスキーを乗りこなすリョーガの後ろに乗るリョーマ。

「越前!」
「おチビー!」

無事なリョーマを見て、皆が安心したように胸を撫でおろす。

「うわっ!」

リョーガは、急カーブを掛けながら停止させるとリョーマはその反動で海に振り落とされた。

「リョーマ!」

は心配そうに救命ボートからリョーマを覗き込む。

「ぷわっ!…はぁ」

帽子がとれ、怪我ひとつないリョーマの姿を見て、の頬は一気に緩んだ。

「よ、よかったー…あ」
!」

リョーマの帽子を拾い、後ろ向きに帽子をかぶるとリョーガはジェットスキーに乗ったまま、に近づく。

「あの!助けてくれて、ありがとう!」
「ははは!やっぱりお前は、そっちの方が似合ってるぜ!」
「え?」
「俺に敬語なんてお前らしくねーよ」
「あ…」

なぜか思わず出てしまった言葉に、が口元を押さえて目をパチクリとさせると、 リョーガはそんなに顔を近づけ耳元で囁いた。

「チビスケのこと、よろしくな」

そう言ってリョーガはニヤリとした笑みを浮かべ、そのままの頬に軽くキスを落とした。

「はぇっ?!」

目の前でその光景を見ていたリョーマは、目を大きく見開いた。

「じゃーな!チビスケ!でっけー夢、見つけろよ!」

俺も見つけてみせるから…。

リョーガは、そのままジェットスキーで赤く染まる夕日に向かって行ってしまった。
彼がどこへ向かうのかは分からない。 だけど、その表情はとてもまるで小さな子供のように楽しそうだった。


。お前、足捻ったとこちゃんと治療しとけよ」
「うん。でも、歩けるから大丈夫」
「本当かー?」

自宅への帰り道で桃城は、船内で足を捻ったを心配しつつも自転車にまたがる。

「じゃあな、越前!!」
「お疲れっス」
「わざわざ送ってくれてありがとう。桃」
「おう!じゃーな!」

家まで送ってくれた桃城が去ったあと、リョーマはちらりとを見た。

「…あのさ、
「なに?リョーマ」

が家に入ろうドアノブに手を掛けていたのに対して、 リョーマはそれを阻止するかのようにドアノブに掛けていたの手を上から握り、距離を詰める。

「初恋の趣味、悪すぎ」
「え?なに突然…何の話?」

リョーマにそう言われての体は思わず停止する。 するとリョーマは、家の中に入るのを阻止するかのようにドアに左手をついて、 さらにとの距離を縮めた。

「リョー、マ?」

なにやらいつになく真剣で、真っ直ぐに鋭い目線をするリョーマに驚いたは、 今まで力を入れて立っていた足の力が抜けるかのようにその場にへたり込んだ。

「あ…」

ガクン!と腰が抜けた上に、捻った足の痛みのせいで上手く立ち上がれない。 そんなの右手を掴んだリョーマは無理矢理、自分の方へと引き寄せながら立たせると、リョーガにキスをされた頬を、リョーマはペロリと舌で舐める。

「ななっ!なっ!」

が頬を赤く染めて動揺している中でも、 リョーマはお構いなしに反対側のの頬を舌で舐め、強くを抱きしめる。

「リョ、リョーマ!本当にどうしたの?!」
「……」
意味が分からないは、リョーマに抱きしめられた状況でいることに、 頬を赤く染めて目をパチクリと見開く。
リョーマはを抱きしめながら、リョーガに言われたことを思い出す。

「餓鬼の頃、あいつを泣きやましてたのは俺だったんだぜ」

そう…あの時もそうだった。 オレンジの木から下りられなくなった幼いを受け止めたのは自分だったが、 泣きやませることが出来たのは自分の兄であるリョーガだった。

「…それがなに?」

リョーマは、不機嫌そうにリョーガに返事を返す。 するとリョーガは、少しだけ頬笑んでリョーマを見る。

「でも、あいつはやっぱりお前しか映ってねーんだよな」
「…は?」
「なんでもねーよ」

リョーガは、鷲掴むようにリョーマの頭を強引に撫でた。



「リョーマ?」

今のは覚えていないのだろうけど… リョーマは以前、部屋で連続の恋愛ドラマを見ながらとしていた会話が薄っすらと先ほどリョーガに言われた話と自分の記憶と重なるのだ。

「初恋かー。ねぇ、リョーマの初恋はいつ?」
「覚えてない」
「えー!嘘だー!」
「じゃあ、は覚えてるわけ?」
「覚えてるよ」
「…本当に?」
「うん!でも、名前は覚えてないのよね」
「なにそれ」
「だって、まだ小さかったし、一緒にいれたのは一週間だけだったんだもん」
「なにそれ」

その時リョーマは内心、イラつきながらもの話を聞き流していた。

「お父さんに外国のお友達の家に連れてってもらった時にね、その家に年上のお兄ちゃんがいて、すっごくテニスが上手で憧れだったの」
「あ、そう」
「それでね!ここからが本番なの!私の初恋はねー…」


そこからはあまりにも楽しそうにが話すから、 幼い頃のことだとはいえ、イラついて覚えていない。
だけど、そのの話と自分の幼い記憶を結び付けると、 幼いころのが見ていたのは、おそらく自分ではなくリョーガなのだろう。

…」

悔しい思いをしていた幼い頃の記憶がリョーマの中でじわじわと蘇ってくる。 リョーマはを抱きしめる腕にさらに力を込めた。

「…リョーマが変なこと言うから、思い出しちゃったじゃない」
「なにが?」
「私の初恋の人」

は満面の笑みでにっこりとリョーマに微笑んでみせると、飛びつくようにリョーマを抱きしめ返して、リョーマの頬にキスをした。

「助けてくれた、お礼だよ」

優しく微笑むの姿が、 リョーマの中で幼き頃のの姿と重なり、思い出の全てが蘇る。

…今のって…」
「覚えてないの?リョーマがオレンジの木から助けた女の子が言った台詞だよ」
「…
「なぁんてね。本当は、私も覚えてなかったの。でも、さっきリョーマが私のことを受け止めてくれた時に、思い出しちゃったのよね」

あの時、あの瞬間…過去の幼い記憶を思い出したのは、リョーマだけではなかったようだ。 の中でも、脳裏の記憶が一本に繋がっていたんだ。

「ずっと昔から私の王子様は、リョーマだったんだね」
「っ!ほんと、よくそんな台詞恥ずかしげもなく言えるよね」
「本当のことだもん!照れない、照れない!」

クスクスとリョーマの腕の中で笑うに 今までの不安と嫉妬を拭い去られるかのように、リョーマも思わず口元を緩めた。

「…、立てる?」
「うん。大丈夫」

がゆっくりとリョーマの手から離れて、自分の足で立つ。



するとリョーマのいつもより低い透き通ったアルト声に導かれるように、 はそっと目を閉じた。
過去の思い出にはない。これからの未来を誘う様に、リョーマは静かにの唇に触れるのだった。

「ん…りょー、ま?」
「もっと聞きたい」

徐々に深くなる、好きだという気持ちを精一杯伝える様なリョーマのキスに、 翻弄されながらもはゆっくりと目を開けてリョーマの視線をうっすらと捕らえる。

の気持ちを、もっと俺に聞かせてくれない?」

の唇を離してそう言うと、 優しく包み込むようにの頬へ触れるリョーマの手が誘う様に は、リョーマの深いキスで翻弄された体が熱を帯びる。
熱を帯びた体を落ち着かせるように息を整えさせ、 じわじわとはっきりしてくる視界でリョーマの方をみつめた。

「好きだよ。昔も今も、私はリョーマが大好き」
「これからは?」
「勿論…」

貴方だけを、愛しています。


「おばさま!これ、昔のリョーマさんとさんですか?」

菜々子は、広げられたアルバムの中にある一枚の写真を指さす。

「ええ。ちゃんのお父さんが初めてちゃんを家に連れて来てくれたの」
「じゃあ、これはその時の…あら?」

菜々子がもう一枚の写真に目がとまったとき、の元気な声が家に響いた。


「ただいまでーす!」
「リョーマとちゃん、帰ってきたみたいね」
「そうみたいですね」

菜々子と倫子が顔を見合わせて笑う。 倫子は、嬉しそうに立ち上がり玄関へと向かうのだった。

「この写真って…」

菜々子は、一枚の写真を手に取る。 それはオレンジの木の下で、白い帽子を被ったぶっきら棒な少年の頬にキスをする白いワンピースを着た少女の写真だった。

「私の初恋はね、外国で私をオレンジの木から助けてくれた小さな男の子なの」

忘れていた過去の記憶
現代へと繋がる一つの欠片

「あ、そう」

テレビを見たまま、一向にこっちを向こうとしないリョーマ

「ちょっとー!聞いてるの?リョーマ!」
「さぁね」
「えー!ちゃんと聞いてよ!」
「やだ。聞きたくないし」
「あ。もしかして妬いてる?」
「うるさいよ」
「素直じゃないなぁ、リョーマは」


時を超えて、二人の思い出として蘇る。


「また行きたいね、豪華客船」
「二人で?」
「だ、だれもそんなこと言ってないでしょ!」
「ふーん。じゃあ、行きたくないんだ」
「嘘!行きたい!」
「そう思ってるなら、いつか行けるんじゃない?…俺と、で」
「あ…うん!」

二人の出会いは偶然ではない。必然とも呼べる時を超えた運命だったのだから…。



あとがき(管理人の作成裏話やお礼)
庭球連載 Laurelの番外編「Memory of The First Love」をご愛読頂きありがとうございました。
こちらは、以前のモバイルサイト時代に、30万打記念の際に書かせて頂いた作品です。 以下はその当時の作成裏話となります。ご興味のある方のみ、拝読頂ければと思います。

今回は、劇場版沿い「二人のサムライThe First Game」からお送りさせて頂いたのですが、 私なりにイメージソングとして松雪泰子様の 「時を超えて」と松田聖子様の「明日へと駆け出してゆこう」を何度も聞きながら連想させて書かせて頂きました。
この「時を超えて」と「明日へと駆け出してゆこう」という歌はどちらも、実は某アニメの主題歌です。
私と同年代の方…お分かりの方はいらっしゃいますでしょうか?そう。「怪盗セイント・テール」の主題歌です。
管理人が、90年代の少女漫画脳のせいで、すいません…!
そして、なぜこんな話をしたかと申しますと…
これは、リョーマの好きなタイプが「ポニーテールが似合う女の子」だと知った時から、つまり私が夢小説を書く以前から考えていたものだったからです。
幼い私のなかで「怪盗セイント・テール」という大好きな作品の影響をうけ「ポニーテール=セイント・テール」っていうのが数式が確立してしまっているので、 未だにぬけず、リョーマの好きな女の子のタイプを知った時に思わず、セイント・テールだ!と連想してしまったのです。

なので庭球連載を書き始めた時から、ポニーテールの女の子ネタはずっとやりたかった為、今回、その念願をかなえさせて頂きました。
でも、ただポニーテールネタにしたんじゃ、「ポニーテールが似合う女の子が好きだ」と言うリョーマの設定の重要さが伝わらない。
どうしても作中のなかで「ヒロインがポニーテールにする意味」を強調させたかったので、今回、「リョーマの元へ戻る!」と決心した時は、 ヒロインをポニーテールにしてリョーマの元まで走らせました。
しかし、過去の幼いヒロインは髪を括っていなかったので、過去を連想させなければならないと思い最終的には、髪をほどかせてしまったんですけどね。

実は、「髪をほどくと女の子の正体がばれる」というようなネタも「怪盗セイント・テール」を意識させて頂いた感じで、 どうしても庭球連載でもいつかやりたってみたい!と思っていたため、我が庭球連載ヒロインの髪型を、設定にも記載してありますが、他の連載ヒロインと違い、 気分や状況によってポニーテールにしたり、ツインテールにしたり、はたまたストレートヘアで下ろしたりする設定に最初からしていました。

でも庭球連載の作中だと、原作沿いでなるべく忠実でいたい気持ちが強かった為、 やっぱりこういう別の作品をリスペクトして、ネタだとはいえ、少しでも混合というか、意識させるような形は、 私のやっている庭球連載では、向かないし、絶対にさせたくなかったので…まさか本当に書ける機会がくるとは思いませんでした。

小説だとリョーマとリョーガの試合の展開が違っていたりしたので、劇場版と小説。どちらの合わせようかと考えながらも 劇場版沿いになるべく忠実になるようにしようと考えてからは実は、かなり厳しかったです…!
でも何度も最初から見返し、映画を再生と停止の作業を繰り返しながらだったので大変でしたが、すごく楽しかったです。
改めて、素敵な機会をいただき、そして、ここまでご愛読いただきまして本当にありがとうございました!