04話 隠された気持ち


拝啓 おばあちゃんへ

早いもので気がつけば、
最近まで、冷たい風が吹きつけていたはずなのに、
もう日差しが暖かく、桜が咲く季節になりました。
時間が経つのは早いと改めて感じさせられます。
出会いがあれば、別れもある。
だけど、それからまた再び出会ったのならば
これはもはや運命なのかもしれません…。


翼と再会してから殴られ、蹴られ、最終的にはパシリかよ!!って事もしばしばある毎日を過ごしています。 そんな、可哀想なシンデレラのような生活を続けてきた私ですが、時が経つのは早いものであれから一年が経ちました。

そして、私達はもう三年生。卒業を意識する学年になり、サッカー部には新しい新入生が入って来て…。 えー…ト音記号?…じゃなくて!えーっと、あ!フラット!!

フラット3とかなんとか言うやつ。サッカーの知恵等ないに等しい私にはどれくらい凄いか判らないけど、翼達は毎日、もちろん今でもその練習を続けています。
翼と出会ってから練習や試合を重ねるにつれ、とうとう、私達は夏の大会にでる事になり、順調に進んでるサッカー部なんだけど…

「い、痛ったぁあ!!」
「この馬鹿!」

私は本当、毎日毎日マネージャーという仕事に励んでいるのにも関わらず、あれから何の進歩もなくあのまま翼に怒られています。 現に今も翼に首を絞められ、お花畑が見える寸前です。おばあちゃん…もうそっちに行ってもいいですか?

「お前ら、イチャつくなら他でやれよ」
「ちょっと待って!柾輝!あんた、これをどう見たら!痛い痛い!翼!」

首を絞めてくる翼に思わず、待ったをかける。私と翼がそんな攻防を繰り広げているのを余所目に、五助達が円になって何かを話している。

「しかし、あれだけ一緒にいて、全く気がつかねぇのもすげぇよな」
「俺、翼に会った直後にはなんとなく分かってたけどなぁ」
「ホンマ見てる方からしたら、簡単に分かるんやけど」
「いつか口滑らしてしまいそうでこっちが怖ぇよ」

ちらりと私の方を見ていいる四人の視線など知らずに、私は…。

「ちょ、翼!絞まってる!絞まってる!こらぁ!そこの四人組!助けなさい!」

私は大声で救助を求めた。

「「はぁ~」」

いかにもダルそう柾輝達がため息をついて立ち上がると、なだめるように翼を私から離してくれた。

「し、死ぬかと思った…!」

私はその場でしゃがみ込み、肩で息をする。

「いっその事死んで見る?」
「ご遠慮させて頂きます!」
「翼、ちょっといい?」
「なに?玲」

玲さんに呼ばれると、翼は私に背を向け去って行った。

「痛っー!ほんと容赦ないんだから…」
「大丈夫か?
「柾輝ー!もう意味わかんない!翼の奴!!」
「今度は何やねん?」
「私はただ、人助けをしただけよ!」
「はぁ?」

四人は、一体なんのこっちゃ。と言いたそうな目で私見る。

「いや、だからー。さっき、野球部の男の子が一人で片付けしてたからあまりにも大変かなぁ?と思って…」
「手伝いに行ったんか?」
「うん。新入生みたいだったし」
「で?。その間、こっちの仕事は?」
「…してません」
「おい」
「で!でも、ほんの数分だったし!仕事だってサボったわけじゃ…ご、ごめん!翼!!」

翼の姿が見えなくなった後で思いっきり、叫んだ。

「遅いっーの」
「まぁ、ホンマに翼が怒ってるんのは、それや無いんやろうけどな」
「っていうか、絶対そうだろ。わかってねーのだけだって」
「でも、にはそれで良いんじゃねーの。これであいつが謝れば、ひとまず収まるんだろ」

一年の間に何度も重ねたこういった会話に、四人は顔を見合わせてため息をついた。

「翼、ごめん。私が悪かったです!」

さっきの事を甚く反省した私は、戻ってきた翼に頭を下げる。

「…お前、何で俺が怒ったか分かってるの?」
「仕事の事考えずに行ったからでしょ」
「…ま、いいか。それで」

呆れたように翼は大きなため息をついた。

「え?違うの?」
「さぁな。もうなんでもいいよ」
「いや、おかしくね?あんなに怒ってたのに」

何よ!爽やかグリーンじゃあるまいし。人を馬鹿にしたようにしやがって。

「怒るのに疲れた」
「え。なんかごめん」

こうして私の翼への謝罪が完了しました。


「お祭り?」

部活が終わった通学路で話をする私達。突如、直樹が言いだしたことに五助と六助もその話に乗るように喋り出した。

「そこの神社であるらしいな」
「行こうぜ!翼!」
「次の試合の願掛けも兼ねてさ」

ぁあー、大会も近いからねー。 そういえば、お祭りなんてこの学校にきてから行ってないな…。 実家に居た時に近所の子と行って以来か…と思い返すと急に切なくなってきた。

「俺は良いけど、どうする?翼」

柾輝はちらりと翼の方を見る。

「いいけど。ただ、お前らにそんな体力が残ってたらの話だけどな」
「ひどいわ!翼!!」
「何がだよ。大会前なんだから当然だろ」
「確かになー」
「こら!五助!そこ納得すな!って、どないしてん?急に黙りこんで」
?」
「あ!ごめん!うん!良いと思う!すっごく良いと思うよ!」

柄にもなくセンチメンタルになってたよ!私!!
話を聞いてもいないのに返事したのが分かったのか、四人が顔を見合わせる。

「「…ぷ。アハハハ!」」

五助達が笑いだしたのに対して、翼は呆れたように私を見ていた。

「なによー。そんなに笑わなくてもいいでしょー」

そういって拗ねる私に近づいてきた翼が私に耳打ちをする。

「お前どうかしたの?」
「え?大丈夫、大丈夫!なんでもないって!ただ、お祭りなんて久しぶりだなぁって思って」
「…ま、お前がぼーっとするのはいつもの事か」
「ひっどい!」

こいつは!突然、優しくなったと思ったら何さ!!
意味わかんないよ、このやろー! 本当、翼は昔から意味が分からないんだ。 暴力は毎日で私への扱いも酷いのに、本当にたまにすごく優しいから、嫌いになれない。 でも、それは幼馴染という関係だからこそ、今でも成り立つのだろう。



「だから、痛いってば!」
「馬鹿!!」

毎日毎日この光景が繰り返し行われている。サッカー部員はそれを見る度に思う。

「またやってるぜ。あの二人」
「ほんま、ええ加減にして欲しいわ」
「翼も、ほんと素直じゃねぇのな」
「絶対、あいつら卒業するまでああだろ。どうするつもりなんだよ?翼の奴」
「でも、そのために祭りに行くんだろ?」
「ホンマの主旨はな。翼には言ってへんけど」
「行ったら怒りそうだもんなぁ」
「まぁ…行っても意味ないかもな」
「言えとる」
「でも、そこは翼次第だろ」
「そうだけど、うちのキャプテン…」
「「(素直じゃないからなー…マネージャーは馬鹿だし…)」」

サッカー部員全員の気持ちが一致した瞬間だった。

「いい加減にしろよ!」

素直じゃない、やきもち妬きのキャプテンと

「私は、なにもしていない!!」

鈍感でなにも理解出来ていないだろうマネージャー。

しかし、二人の間に入っていつも被害を被り、一番大変なのはサッカー部員だ。



「わ、わっ!痛っ!」

翼との攻防を繰り広げている間に、ドテッと私は自分の足を引っ掛けて思いっきりこけてしまいまった。

「何やってんだよ馬鹿」

と言いながらも翼は私に手を差し出す。

「あ、ありがとう」
「貸しにしてやろうか?」
「はぁ?!何でこんな事で貸しにされなきゃいけないのよ!」

ぺいっ!と翼の手を払う私。
その光景を見てサッカー部員は再び深いため息をついた。
まだまだこの二人の間にときめきは存在しそうにない…。