07話 夜空に咲く花
皆さん、こんにちわ。昨日部活をサボってしまったです。
「「?!」」
「なによ、皆して。確かに、私はだけど?」
実は、今日は試合でございます。 そしてそんな試合前日に部活から飛び出した私が、当たり前のようにきたことに部員の皆は、驚き声を上げた。
「いや、だってお前…」
「なんでおんねん!」
「いちゃ悪いのか?!私に帰れってか!」
私がじろりと直樹を睨むと、なぜか焦ったような表情を全員がする。一番初めに反応をしたのは五助だった。
「ま、まてまて!!」
「何言ってるねん!」
「お前は大事だ。ここにいろ」
そうして私にすぐさま折りたたみの椅子を出し、私は五助達に無理矢理座らされる。いつもの皆の扱いの差に私はゾクリと鳥肌がたつ。
「いや、なに?!気持ち悪い!」
「いいから、いいから!」
「お前はなんにも気にしなくていいぞ。そこに大人しく座ってろ」
「はぁ?」
私は首をかしげてそういう五助と六助を見たあと、直樹と柾輝の方も見るが二人は苦笑いの表情で私を見ている。
「でも、まぁ本当にがいつも通りで良かったぜ」
「え?いつも通りかわいいって?」
「誰もそんな事言ってねぇだろ」
「六ちゃんひっどーい!」
「その呼び方、止めろ!」
なんて試合前なのにくだらない冗談を言っていると…。
「お前ら、さっさと準備しろよ!」
我等がキャプテンに怒られてしまいますのでご注意を!!
そうはいいつつも、試合が終わりを迎えると再び私のテンションは最上級になる。
「おめでとう!勝ったよ!勝った!」
「お前ちょっとうるさい!黙れ!」
私は嬉しくてその場でピョンピョンと飛び跳ねていると、翼はピョンピョン飛び跳ねていた私を、まるで目覚まし時計でも止めるかの様にバシッ!と手際よく私の頭を殴る。
「痛っ!!」
これが、結構痛いという事実…。
「酷い翼!折角人が喜んであげたのに!!」
「煩い。馬鹿」
「何だって?!」
私がちょうど言い終わるところで柾輝が私に声をかける。
「そろそろ良いか?」
「へ?」
「仕事」
「ああ!忘れてた!ゴメン!そこどいてー!」
私は大慌てでその場を抜けだし仕事に取り掛かった。
「あの馬鹿!」
「でも、翼は嫌いじゃないだろ?」
「殴られたいの?柾輝?」
「流石に、それは勘弁」
鋭く睨む翼に柾輝は喉を鳴らして笑いながらも、軽く後ろに身を引いた。
それから二日後の日曜日。試合で勝利を迎えた私達は軽い足取りで神社を歩く。
「ついに、きたでぇえ!お祭りやぁあ!」
「たこやき、たいやき!りんご飴だぁ!」
「!こっちこいや!」
「うん!」
直樹に呼ばれて私は、金魚すくいの屋台の前に座る。
「餓鬼じゃあるまいし、そんなにはしゃぐな」
「餓鬼だもん!」
「えばるなよ」
「五助!久しぶりのお祭りだよー!はしゃがなくてどうするのよ!」
「毎年やってるだろ?。去年来なかったのか?」
柾輝は、私が頼んでいた綿菓子を手渡しながら尋ねる。
「ありがと。私、去年のこの時期には実家に帰ってたから行けなかったんだよね」
「実家?」
「あ。私、今お姉ちゃんと二人暮らしなんだ」
「「はぁ?!」」
四人とも一斉に声をあげて、綿菓子を食べる私を見る。
「親は?」
「やだな、二人とも生きてるよー。ただ神戸に住んでるから、そこからこっちの学校に通うのは無理でしょ」
「なんでまた?神戸の学校に通えばよかったじゃねーか」
「…ま、まー。どうでもいいじゃない!私の事なんて!」
「なんか、動揺してねぇ?」
「そんな事ないよ。六ちゃん!さー!早く行こう!」
私は無理矢理、皆の背中を押して歩き進める。
「あんたは知ってたのか?」
「朝、あいつを迎えに行った時に聞きだした」
柾輝からの質問に答えた後、翼は深いため息をついた。本当、嫌になる。何か隠してるあいつから、何も聞けない自分が情けない…。
「ほら!何してんの、二人とも?早く行くよ!」
「、分かったからそんなに引っ張るなよ」
そう言う柾輝を無視して二人の手を引きながら進んでいたら、私はふとあることに気がつく。
「あれ?」
「何?」
「直樹達が居ない」
「はぁ?」
「さっきまでいたのに…」
「あ…」
柾輝は何かを思い出したように小さく声を上げると、急いで手で自分の口を塞ぐ。
「直樹達いた?」
「あー、いや…居ねぇけどさ」
「何よ、人騒がせねー」
「よりかはましだと思うけど?」
「くそー、言い返せない!」
「とりあえず俺が電話して来るから、お前ら二人で一緒に居ろよ。見つけたら連絡すっから」
そう言うと私達が返事をする前に柾輝は人気のない方に走って行ってしまった。
「えっ?!ちょっ!柾輝?」
「ったく、あいつら…」
「どうしよう。翼」
「はぁ…。こっちこい」
「え、わわっ!なに?!」
急に翼に腕を引っ張られた私は、体制を少し崩しながらも無理やり手を引かれる。一体どこに連れて行かれるのだろうか…。
「ちょっ!翼!こける!こけるから!」
「うるさい。速く歩け」
「速くってあんたねー!ってか、何処行くの?」
「いいから黙って歩け」
「い、イェッサー…」
私は翼の言われるままに黙ると、無言のまま何処かへと手を引かれていく。 そして、たどり着いた場所は、さっきまで人が溢れて居たところではなく人通りが少ないだろうと思われる神社の裏。
「何?こんなところ連れて来てさー」
「ここ座れ」
翼は自分が座っている石段の隣を指した。私は言われるままに座ると翼に尋ねる。
「翼、ここに何かあるの?お店も何もないよ」
「お前、少しは黙るとか出来ないわけ?」
「悪かったわねー」
「ま、別に良いけどさ。らしくて」
「褒めてんのか貶してるのか判らないような褒め方しないでよ」
「別に褒めてない」
「ひどいなー。それで?此処がなに?」
「ああ。空、見てたら分かるんじゃない?そろそろだろうし」
「はぁ?」
そう言ってどこか楽しげに微笑む翼が指差した空の方向を見ると、私の目の前は一瞬にして明るくなる。
ドーン!
と音をたてて夜空の星にまぎれながら大きな花が咲く。
「花火だ!」
ここは人通りが少ないせいか、花火がとっても大きくてはっきりと見える。
「ただあの馬鹿どもを待ってても時間の無駄だしね」
「翼よく知ってたね!此処から花火が見えるって」
「まぁ、なにも考えてないとは違うからね」
「すごい嫌味!最悪!さっき褒めた時間を返せ!」
「そんなこと言ってるうちに花火終わるんじゃない?」
「え!ヤダヤダ!!」
私は再び空を見上げて咲き続ける花火をみる。やっぱり、綺麗だなぁ。 花火なんて小さい頃から見慣れているはずなのに何度見ても綺麗で、心にはっきりと残る思い出になるから好き。
「たーまやー!って言いたくなるよね?!」
「お前、本当昔からこういうの好きだよな」
花火に夢中のだったが、その言葉でふと思い出したように翼の方を見る。
「ねぇ翼、まかさの将門君だと思うけど」
「なんだよ。その言い回しは」
意味不明な言葉を言うに呆れながら尋ねる。
「いや、あの…翼…まさか私に花火見せるために此処に連れて来てくれたのかなぁ、なぁんて思って…あはは!そんなわけないよね」
「…」
「…」
あのー…と切り出したくても切り出せない空気。 そして、沈黙!!な、なんだ?!この雰囲気!聞いちゃいけないことだった?! え…ええ?!私が耐え切れなくなりそうな時に、翼はゆっくりと口を開く。
「の為じゃないよ。多分、俺の為」
「翼って花火見て喜ぶような可愛い人だった?」
そういった矢先、翼にじろりと睨まれてる
「ごめんなさい!言いすぎました!」
その場で土下座をする私にため息をついて翼は言う。
「ま、正解だけど。俺が見たかったのは、花火じゃないし」
「え?」
花火じゃない?じゃあ、なんで?ここって他に何かあったっけ?
「うーん…」
は手を組んで考え込む仕草をした後、ポン!と何かを思いついたように手をたたく。
「なんだよ」
「わかったー!」
そうか!花火はついでで、きっと別の物が見たかったのね!えーっと、ここら辺にあったやつって確か…。
「伝説の一本だけ妙にでかい松の木でしょ!!」
「…はぁ?」
翼は全くの予想外のの答えに驚く。もはや言っている意味がわからない。
「あれ?違うの?絶対にそうだと思ったのに」
「ところでなんだ、それは」
「知らないの?一本だけ妙にでかい松の木があって、それを切ると災いが起こるという伝説の松の木の事よ!」
お姉ちゃんに聞いた古くから伝わる伝説らしい。この辺りに確かあるって言っていた。 はきょろきょろと探して指をさす。
「あ!ほら、あれだ!あれ!噂に聞いてた通り、目立ってるよねー」
が松の木を指差した後、翼は今までの我慢を全てはき出すように喋り出す。
「なんで僕が、本当かどうかも分からない伝説信じてボロい松の木をわざわざ、お前を連れて見に来なきゃいけないわけ?意味わかんないんだけど?お前の頭は飾りか?!」
「だ、だって、他に翼が見たがるようなものなんてないし…。絶対そうだど思ったんだけどな…」
私はそう呟くと、翼は呆れたように深くため息を吐く。 は翼の言葉に反論を返し、翼はの言葉を冷たくあしらう。 キリがないいつも通りの口喧嘩が始まるも翼は、そんな口論を自ら中断させて息を飲む。 何かを決意するかのようにゆっくりと優しく私の名前を口にした。
「」
「なに?」
「だから、」
「だから何よ!」
「お前、まだ分からないの?!」
「分かるも分からないも翼、私の名前しか呼んでないじゃない!」
「それが答えだからだよ」
「はい?」
意味不明な翼の答えに私はない知恵を使って考えたけど分からない。私が首をかしげると翼は何かを言いたげな様子を見せる。
「俺は、お前が…っ!」
「?」
「やっぱいいや」
「え?!なんで?!」
「また今度教えてやるよ」
「ええー!今じゃないの?!」
「そんなに気になるなら自分で当ててみなよ。まぁ、程度の頭じゃ無理ないか」
「よーし!分かった!当てたらもう馬鹿って言うの禁止だからね!」
売り言葉に買い言葉でそう言った私は立ち上がり再び腕を組み考える。
「まぁ、無理だろうけど」
皮肉しかでない自分にため息をつきながら翼は、を見る。
でも、もう答えだろ?俺はが見たかったんだよ。 花火を見て、餓鬼みたいに喜ぶの笑顔が見たかった。 本当、俺は一体どこまでこの馬鹿に惚れてるんだろうって考えさせられる。 だけど、今、俺がこの言葉を口にして思いを伝えると、きっとこいつから笑顔は消えると分かっているから…。 まだ言えない。翼は少しだけ目を細めて優しげにを見る。
「あ!そうだ、翼!」
「なんだよ、突然」
突如、合った視線に翼は思わず体を後ろにそらすもそんなことをお構いなしには翼に詰め寄る。
「答えは分かんないけど…ありがとう!」
「…え?」
「だって、翼の見たい物のおかげで私が綺麗な花火が見れたし、すっごく楽しかったから!」
の言葉で翼は、驚き目を開く。 こみあげてくる欲望に従うように、翼はの手を引き寄せると、そのまま無言で抱きしめた。
「うぇ?!」
思わずは自分がされている行為に目を丸くする。
「つ、つばさ…?どうかした?」
「別に…なんでもない」
「なんでもないって…」
無言の翼に自分の胸が高鳴り始めるのに気がつく。
ドクン!
心臓が、可笑しい。煩い煩い煩い。 馬鹿みたいに鼓動が速くなっているのがはっきり分かる。
「」
翼の声に反応するかのようにまたさっきより胸が大きく跳ね上がる。
「は、はい!!」
突然呼ばれた名前に思わず声が裏返ってしまう。
「なんだよ、その返事は?」
の反応に翼は小さく笑う。
「だ、だって」
「何?」
「突然話かけるから…」
「そっち?」
「え?」
「お前に期待した俺が馬鹿だった」
翼は、ぱっと私から手を離す。 今でもまだ心臓がドクドクしている。一生懸命にその理由を考える。 どうしよう…。不整脈かもしれない…!!
「お前、どうかした?」
下を向いて珍しく静かなに翼は疑問に思う。
「ちょっと…考え事」
「に考え事なんて出来るわけないだろ」
「翼、最低!」
「お!おったおった!探したで!」
耳に届いた聞きなれた声に私と翼は言い争いをやめて聞こえてくる声の方向に目をやる。
「直樹!」
「こんな所にいたのか。もっと分かりやすい場所にいろよ」
「そもそも、五助達が突然いなくなるからでしょ!」
私がそう言うと途端に四人はなぜか肩をビクつかせて翼の方を見る。
「ま、まーいいじゃねぇか。ほら、明日も早いから帰るぞ」
「そーそー!帰ろうなー!」
なんかぎこちない態度の四人が気になった私だったが、皆に背中を押されながらその場を後にする。
「?」
「お前ら、どういう事か明日ゆっくり話聞かして貰おうか?」
「「(やっぱり、ばれてる!)」」
その後四人は、部活でみっちりと翼に扱かれたのはいうまでもなかった。