08話 フットサルでご対面
とうとう我等がキャプテン、椎名翼率いるサッカー部は順調に勝ち進み、私が愛しの将がいる桜上水との試合が目前に迫っていました。
「もうすぐか…」
ついにこの時が来てしまった。まぁ、お互いに順調に勝ち進めばそうなるのは分かってたんだけど…。
「どうかしたの?ため息なんてらしくないじゃない」
「玲さん。実は、桜上水に気になる子がいまして…」
「あら、がそんな事言うなんて珍しいわね。その子はそんなに格好いい子なのかしら?」
「逆ですよ!凄く可愛いんです!翼と正反対な性格な上にあんなに可愛くて素直な…って、玲さん!」
「本当、相変わらずノリが良いわね」
「止めてくださいよ!からかうなんて!」
「あら、ゴメンなさい。それでなにを悩んでるの?」
「悩んでるというか…。どっちにも負けて欲しく無いな、って思っちゃって」
なにより私が飛葉中のサッカー部のマネージャーだなんて言ってないから、桜上水の皆が吃驚しそうだし…。分かってもらえるのか自信がない。
「ふふ、らしい発想ね。勝敗はさておき、私は桜上水との試合が楽しみよ。もそうでしょ?」
「玲さん…。そう、ですね。はい!楽しみです!」
私が笑顔で答えると、玲さんは私に手をふりその場を離れていった。
私は小さい頃から翼のサッカーを見てきた。だけど私が学習能力がないせいか、サッカーに関しての知識はない。 それでも、あの時、私が将に感じたものは一目惚れだとかそう言う次元じゃなくてもっと暖かく込上がってくる…いうなれば母性本能が私をわき立てたのだ。 素直に人に応援したいと思わせる何かを将は持っている。
玲さんの言うとおりだ。 その後のことを深く考えるのはやめだ。だって純粋に、試合が楽しみなんだから。
「」
「うぁい?!ってなんだ翼」
廊下を歩いていると、後ろから翼が私にかけてくる。
「玲と何喋ってたんだよ?」
「ん?あーいや、次の試合がたのしみだねって話」
「ふーん…あ。そうだ。今からフットサルやるんだけども来るだろ?」
「え?!テスト期間中だよ?!」
「なに、優等生みたいなこと言ってるのさ。馬鹿な癖に」
「むっ!これでも、学校のテストで、まだ赤点は取った事はありません!」
たしかに、点数はいつも擦れ擦れで危ないラインにいるけども!!
「威張る程のことじゃないだろ」
「ごめんなさいね!普通が自慢なもので!」
「それより、来るだろ?フットサル。むしろ来ないなんてありえないよな」
「…はい」
最初から拒否権なんて存在しなかった。 そして私は、一緒に行く相手がこいつらだと言うことを忘れていた。
「見てるだけでいいって言ったのにー!」
何故か私までフットサルに参加させられています。
「フットサル場に来てフットサルやらずに帰る馬鹿が何処に居るんだよ」
「ここにいるじゃない!」
「まぁ、たまには運動出来てよかったんじゃねぇか?」
「うっ…そ、そりゃあ、皆に比べたら運動不足かもしれないけどさ…」
柾輝に痛いところを付かれて返す言葉が無い。私は逃げるようにその場を立ちあがる。
「私、何か飲み物買ってくる!」
「俺、サイダーな!」
「はぁ?なんで私が直樹の分まで?」
「じゃぁ、俺はコーラ」
「俺はー…」
「おいこら!お前ら、ちょっとまて!」
なんて私がいうのも聞かず何故か私の言い分を無視して次々と皆で好き放題注文を出してきた。 しまいには、「腹減ったから、何か食う物も買ってきてくれ」とまで言われました。 あいつら私をなんだと思ってるんだ?!私はもはや諦めのように深いため息をつく。 それでも、結局買いに行っている私ってなんて優しいんでしょうか…。
「…しゃーない。コンビニ行くか」
しかし一方、フットサル場では、が居ない間に波乱が起きていた。
「あんたらの事知ってる。桜上水だろ?僕らの事偵察に来たの?」
ちょうど桜上水の将たちがやって来た上に、この前、飛葉中が試合をして倒した国部二中の天城を含めゲームをすることになったのだ。 そんなことになっていると知らないは、コンビニのレジで並んでいたのだった。
「え~っと、翼達何処に居るのかな?」
買物を終えてビニール袋を提げたが戻ってきて目にしたのは、驚くべき光景だった。
「あれ?将?!」
なんで私の可愛い将が翼達とフットサルやってんの?!
あれ?竜達も?!それにあれは…この前うちが倒した国部の天城君!背が高くて殺人的シュート打つ子じゃない?!
「It's ミラクル!」
って、こんなことしてる場合じゃないでしょ!私が此処に居たら将たちにバレて…。
「あ。でも、どうせ試合当日になったらバレるんだよね?」
よし!こうなったら堂々と翼達の所に戻ろう!
私が決意をして皆の所へと戻ろうとした時、聞きなれた嫌な声に私は動きを止めた。
「こらぁ!お前達!そこで何をやってる!?試験期間中は部活禁止だぞ!」
「うげ…」
遠くのフェンスから凝視してみて見ると、あれはうちの学校の教師のキューピー下山だ。 おいおいおい…。学校以外で怒られるなんて流石にごめんだ。
めんどくさいことになるのが目に見えている。翼達もなんとか逃げたみたいだし、私もこっそり裏に回るとしよう。 将たち…大丈夫だよね?
「あ!つば…さ?」
ビシ!
やっと見つけて翼達を呼ぼうとしたちょうどその土岐翼の蹴ったボールが下山の顔面直撃。
翼さん…それは流石にどうかと思いますよ?嫌な奴とはいえど一応、相手は教師なんですけど?
私が暫く固まって見て居ると翼に見つかり目が合う。
「遅い!ノロマ!」
「あ…ゴメン!翼!」
翼と私の声に反応した将達と目が合う。
「え?さん?」
「将、やっほー」
「なんでこんなところに…」
「竜ちゃん、ゴメン。言ってなかったけど私、飛葉中のマネージャーなの」
「ぇ…」
チクタクチク
暫くの間、私達の周りの空気が停止した。
「「ぇえー!!!」」
うん。吃驚するよね、普通。
「あ、安心して!桜上水の事は何にも言ってないし、私は愛らしい将しか見てなかったから!」
「…将?」
翼がピクリとの言葉に反応をするも、 は自慢げに力説を繰り広げる。 将達は、多分、全部本当なんだろうなーと感じると共に、桜上水の監督は笑って、 そもそもうちの学校に隠そうという秘密といえる秘密はないので大丈夫だよ。と言われ、 ま、良いか。と言う雰囲気に流れ込んでしまった。
「吃驚しましたよ。言ってくれればよかったのに…」
「ゴメンね、将!試合当日は応援してあげられないけど私、将のこと好きだよ!」
「わわっ!」
そう言いながらは力強く将を抱きしめる。 そしてそんな達の様子をじっと凄まじいオーラで睨んでいる人物が居た。
「つ、翼?」
「…あれが将、ね」
不敵な笑みでそう呟く翼に柾輝達は思わず距離をとった。
「本当、さんにはいつも驚かされるな」
「アハハ、本当ゴメンね。あ!他の桜上水の皆にも謝っといて。もう隠し事はないから」
多分、私が試合前に桜上水に行ったら今度こそスパイだと思われちゃそうだし、翼が許してくれるわけないと思う。 そんな中、翼のオーラに耐えられなくなった様子の直樹が思わぬ言葉を発した。
「せやせや、お前らんとこ佐藤成樹っちゅうやつおるやろ?」
佐藤成樹ってシゲのことだよね?なんで直樹が…私が疑問に持ちつつも直樹は話を進めていく。
「井上直樹があんじょうよろしゅう言っとったって伝えてや。首洗って待ってろってな!」
「直樹?」
なにやら直樹とシゲには、私が知らない関係があるようだ。軽く後で問いただしてみるか…。
こうして桜上水の皆と別れたあと、私は翼に詰め寄られることになる。
「どう言うことだよ」
「な、なんのことかしら?翼さん?」
「今更、誤魔化せるとでも思ってるの?」
「冗談冗談!ちゃんと話すってばー!」
私は買ってきたジュースを一口飲み、翼達に桜上水と私の関係を話すと納得したように翼は私を見る。
「あの時、様子が可笑しかったわけだ。」
「まぁ、敵の視察行ったくせに敵チームと仲良くなるなんてらしいよな」
関心したように、五助と六助が私の方を見て頷く。
「らしいで済むか!馬鹿!言っとくけど桜上水にはもう行くなよ!」
「分かってるけど、将が可愛かったんだもん!」
「理由になってないんだよ!馬鹿!あとお前、友達とかなんとかいってたけど、そいつのことだろ?家に上がり込んでないだろうな?」
「いいでしょー!別に、私が将達と仲良くなって何が悪いのよ!そもそもそんなことまで翼に関係ないし!」
「!」
「何よ、柾輝?」
柾輝は頭を抱えてため息をつく。
「馬鹿、言い過ぎだ」
「え?」
柾輝のそんな言葉で私が再び翼の方を見ると、先ほど以上にもの凄く黒いオーラで怒っている翼。
「つ、つばさ、さん?」
「…」
「は、はぃ!」
「お前が、馬鹿でいつも無防備な上にドジで鈍いのは知ってる」
「す、すみません」
ちょっと、その言い方酷すぎませんか?とは思ったがそんな事を言う勇気は私にはない。
「だから…最低限でいい」
「…?」
「俺の目が届く範囲に居ろ」
「は、はい?」
「いくらお前が馬鹿やっても大丈夫なように」
「えーっと…」
拍子抜けの声が出てしまった。 私はマシンガントーク並の怒りを覚悟していたのにも関わらず、 予想外にも冷静にそういう翼に私は一体どうしていいのか分からず他の四人の方を横目で見ると何故か皆はにやついた表情で私の方を見ている。
「ほら。、返事」
「あ!は…は、い!」
で、いいのか?うん? 私がそう返事を返した後で首を傾げて翼を見ていると翼は何かを察したように私に尋ねる。
「お前、本当に分かってんのか?」
「全然!」
そう言うと、翼に私は本日二発目となるグーパンチをくらわされた。
「いったーい!!」
「その馬鹿な頭どっかの工場で取り換えてこい!」
「私、どこかのパンのヒーローじゃないからそれは無理かなぁ?!」
「なら一度死んでくれば?!」
「ひっどーい!!」
いつもながらの二人に戻ってしまった光景を目の当たりにし、柾輝達は深いため息をついた。
「「はぁ…」」