10話 死闘の始まり
「初めまして!東京選抜マネージャーのです!」
コーチ達から歓迎の拍手が送られる中で私は、満面の笑みを繕っていた。
皆さん、今回、私は東京選抜のマネージャーとして仕事をする事になりました。 はっきり言って…はぁ?!何で私が?めんどくさいんですけど。
以外の何者でも御座いませんが、私がこの仕事をする事になった事は三日前まで遡ります。
「。翼達が東京選抜の合宿に選ばれたのは知ってるわよね?」
「はい。それがどうかしたんですか?玲さん」
「じゃあ…よろしくね!」
「…はい?」
よろしくね?何が?
ねぇねぇ、今のどこらへんに私が宜しくする要素があったのかな?!
「あの、玲さん?よろしくって…一体何の事でしょうか?」
私は恐る恐ると言った表情で玲さんに尋ねる。
「あら。勿論、東京選抜のマネージャーやってくれるんでしょ?」
「は、はい?!」
なんで私が?!WHAT?!私、一回もそんな…。
私、東京選抜のマネージャーやりたいです!
なんてこと言った覚えないですけど?!むしろ、ゲームして家でごろごろしたい派ですけど、なにか?
「もしかして何にも関係ないとか思ってたの?」
「当たり前ですよ!」
逆に私は、私と東京選抜がどう関係しているのかを知りたい!一体なにがどう絡み合って、こうなった!教えてくれ!!
「大丈夫よ。上には私の推薦で通すから。他の人に口を挟ませる余地を作りたくないのも理由の一つだけど、面倒じゃない?いちいち選ぶのも。その点、のことは良く知ってるし」
「そんな理由で私を巻き込まないでくださいよー!」
「お願いよ。。それに、貴女にとってもいいことなんじゃないかしら?」
「な、なにがですか?」
不敵に笑う玲さんが少し怖い!
玲さんって美人なだけにこういう時は、翼とはなんかちょっと違った迫力の怖さがある。
「桜上水の9番」
「…え?」
桜上水の9番…将のことだ。
「選抜に来るわよ。結構過酷だけど、彼は大丈夫かしら?」
「!!玲さん、私、東京選抜のマネージャーやります!やらせていただきます!」
「あら。ありがとう」
こうして、東京選抜のマネージャーをやることになってしまったのだけども…。 そんなことは、もはや今の私にはどうでもいい。 だって、この選抜には、私の将がいるんだもの! 行かない理由がないでしょう!
「遅いぞ!時間の10分前に集まるのが原則だ」
そんなコーチの言葉から私は、ドアの方を振り返る。将達だ!!あ。翼達も居る。って!私の将を怒らないでよね! 心の中で毒づきながら、声のした方を振り返ってみると…。
「…え?」
なんでこんなところに火星人?ここは地球だよ?
彼は、星を間違えたのかな?
「この選抜の監督をつとめる尾花沢だ」
偉そうに言ってのける監督に、私は写真でも撮ってテレビ局に売りつけてやろうかという殺意が生まれてくる。
「やる気のない者見込みがないと判断したものは片っ端から落としていくから心して励むように」
いやー見事なほど人間離れ!やっぱり目的は火星人の地球制服!ってやつですかい?!
あっはっは!許せることじゃないよね?
「特に西園寺コーチ推薦のBグループ。俺の中ではお前らは補欠だ」
いやいや、そんなの困る!
私、まだ先の長い人生を楽しく…って、はぁ?!確か、Bって将が居たよね? そうそう、さっき男の人が翼達もBとか何とかって言ってたよね。聞いてたよ。一応。
…こいつ、なに偉そうに!この言葉で、私の我慢の限界がやってきたようだ。
「…偉そうに。バカみたい」
「!」
「あっ」
しまった。心の声が思わずそのまま口に出た…!
「い、いえ…だれも火星人とかおもって…!ふごっ!」
どうやら思ったことを口に出していしまう性格である私は、玲さんに急遽口を塞がれた。
「玲君。その子はどうかしたのか?」
「いいえ。お気になさらず。なにもないので、話を続けてください」
「そうか?」
「(た、助かったー!)」
話の進行はされていたが、の事を初めてみた選手達の心は一つになる。
「「(何なんだ、このマネージャー…!)」」
「(ぶはは!ちゃんってやっぱオモシレー!!)」
「(あの馬鹿…!)」
誠二が爆笑するのを横目に翼は呆れた様に息を吐いた。
「…あなたって子は…!」
「ごめんなさい。玲さん…気をつけます」
「全く素直と言うか…。裏表がないのはの長所だけども、もう少し大人の生き方を覚えなさい」
「は、はい…すいません」
「まぁ、でも貴女が私と同じ意見なのだと分かって嬉しいわ」
「…え?」
「任せて頂戴。大人の生き方のお手本を見せてあげる」
そういう玲さんは優しく私の頭を撫でてくれたが…なぜだろう。物凄く黒い闇のオーラを感じるのは…!!
でも、やっぱり火星人反対!!なんて思いつつも仕事は仕事。 頼まれた自分の仕事はきちんとこなさなければならない。玲さん曰くこれから技術テストをするらしい。
「、記録よろしくね」
「はい!」
コーチの人によってタイムが測られているのを私はその隣で順次記録していく。
「6秒00!」
「えっと、あ!この前、試合で会った…確か誰だっけかな?」
番号と一緒に記載されている名前を確認して、タイムを書き込もうと思ったその時だった。
「誠二!藤代誠二だよ!ちゃん!」
「うわっ!」
突然、私の前に現れた藤代誠二くん。
「よ、よろしくね。誠二、君?」
「誠二で良いって!ねーねー!って呼んでいい?」
私の手を握りキラキラと輝いた瞳で私を見つめる誠二君。もはやこれは、おっきな人懐っこいワンコだ…。
「ど、どうぞ!でもでも、何でもよんで下さい!えっと…誠二?」
「やったー!ん?何?」
「私まだ仕事中だから、手を離して頂ければ嬉しいなー。なぁんて」
「あ!ゴメンゴメン!じゃ、後でねー!!」
誠二は大きく手を振り私の元から去って行った。
「(た、助かった!!)」
気を取り直して記録を進めて行くと…次の種目は、ボールコントロールだ。
書かれたプリントの上の種目を目にした後、行われている技術テストを横目でみていると、一際目を引くプレーをする者に私は目を奪われる。
あの3人組、皆上手…!
うわ、ボールってこんなに綺麗にコントロール出来るものなんだ…。レベル高いなぁ。
まるでボールが足に吸い付いて、手品でも見ているかのようだ。
「わー!凄い綺麗!」
「ありがとう、」
「え?」
私が褒めたばかりの3人組の一人が声をかけてきた。名前は…なんて言うんだろう?
「郭英士。英士でいいよ」
へー英士ねー英士…って!
「まさか心読みました?!」
「そんな訳ないでしょ。首かしげてぽかんとしてるから。って何考えてるかわかりやすいね」
「いやいやいや!そりゃ私は馬鹿で分かりやすいかもだけど!」
「そんな卑屈なこと言ってないよ。ほんと、って変わってるね」
「って言うかなんで私の名前を知ってるんですか?」
「何言ってるの。今朝、皆の前で自分で名乗ってたじゃない」
あ。今朝の全体の自己紹介の時か…。 よくもまぁ、こんな影の薄いマネージャーの名前なんて覚えてくれている人がいたもんだ。
「英士、何してんだよ?って、あ!あの変なマネージャー!」
「今、変って言った?!初対面の人に変だなんて言われたくないですよ!」
「だれがどうみても変だって」
「ところで、あんた達一体何者よ!名を名乗れ!華麗なボールコントロールをして見せた英士の他2名!」
「なんだよ!偉そうに!俺は若菜結人」
「あら、失礼。結人ね、結人。そして、そっちは?」
「…真田一馬」
「じゃあ、一馬でいいかな?私の事もでいいから」
「わ、分かった」
あらまー顔が真っ赤。これは、弄りがいのありそうな純情ボーイと見た。
「一馬。私の美貌に惚れちゃった?」
「な!そそそんな訳ないだろ!」
「普通に考えてありえねぇだろって、一馬、なに真っ赤になってんだよ?」
「…まさか、ねぇ」
「あるか!」
「あらら、残念」
「気持ちわりーよ!!」
「あら、結人その言い方は乙女には禁句よ!」
「乙女って何処にいるの?」
「英士、最低!!」
どうやら、それが結人のツボに入ったらしくずっと私を指差して笑い転げる。
「初対面なのに、私の扱い酷くない?!」
そうして私が三人と話していた時、事件は起ころうとしていた。
「おい下手くそ!」
「椎名さん」
翼が将に何か話しかけている。そんな彼らに気付いたついさっき私が仲良くなって話していた英士達がその光景を鼻で笑う。
「何かの手違いだろ」
結人の言葉に続き
「でなきゃ女コーチの気まぐれってやつ?」
「とにかくいい迷惑だよなBグループは」
「レベルの低いやつら相手にしてっとこっちのレベルまで下がっちまうんだよ」
英士も一馬も罵倒な言葉を放つ。
「気をつけないと」
「ほら。も行こうぜ」
結人が私に手を差し出すも、私はその手を取ることはできない。
「…ば…な…」
落ちつけ、私。我慢だ、我慢。 さっきだって玲さんから大人の生き方を学べと言われたばかりだろう…。折角仲良くなったのに…
「え?なんて?」
落ち着け。落ち…つけないよね!やっぱそんなの私じゃない!
「英士と結人と一馬の馬鹿!!」
「!」
「、なに怒ってるの?」
「Bが迷惑?レベルが低い?私からしたらそんな事言って見下してるほうがよっぽどレベルが低いと思うんですけど?」
「「っ!」」
驚いたように三人は何か言おうとするが口が止まらない。
「玲さんのことも翼や将のことも、なにも知らないのに偉そうなこと言わないで!」
「、落ち着けよ!」
さっきまで将と話していた翼は私が怒ってるのに気がつき、翼は、私を抑えこむように後ろから私の首に手を回す。
「翼…」
「なにそんなにムキになってるんだよ」
「あ…ごめん。でも皆良い人だったからそんな風に言って貰いたくなかったんだもん。ちゃんと仲良くなりたいよ…私」
「…お前…」
「私、仕事まだあるから行くね」
なんとなくその場が居ずらくなってしまい私は直ぐに離れた。
が去った後、翼は息を吐いて英士達の方を見る。
「…止めてくれない?勝手にあいつに手出すの」
「別に僕から手を出したつもりはないよ。の方から僕達に興味を示してくれたんだから」
「勝手に言ってれば。そんな簡単に扱える奴じゃないんだよ。あいつは」
「随分詳しい口ぶりだけど」
「一応ね」
二人の間に静かな沈黙の空気が流れる。
将をはじめ周りで見ていたものは、息を飲んだ。
「あー…ドジッたぁあ。なんでも思ったこと言っちゃうの悪い癖だなぁ…」
私は自分のしたことに後悔をしつつ、記録を続けていると玲さんが私の元へやってきてプリントを何枚か私に手渡す。
「。悪いんだけど、新しく出た記録をデータに纏めて貰えるかしら?」
「あ、はい!」
「私の部屋にあるパソコン、勝手に使っていいから」
「はーい」
玲さんにそう言われた私は、さっそく記録を纏めに部屋に戻る。
部屋でパソコンに向かった10分後
「…」
カチカチ
30分後
「…」
カチカチカチ
1時間後
カチカチカ…
「ぐぬぁあ!もう無理ー!!どんだけあるのよ!」
一人で静かに机に向かうということに耐え切れなくなった私は全てを丸投げするかのように机の上に倒れ込んだ。
「つかれたー!それにお腹すいたー!」
え?まだ1時間?そんな馬鹿な!
そう、これは…火星人による時間偽装よ!
「…って、そんな馬鹿な事言ってる場合じゃないんだってば。あと2種目だけだし、早く終わらせて昼食にしよう」
私は、再びしぶしぶと机に向かった。
「あれ?椎名、は?」
昼食に向かう途中で突然、藤代に声を掛けられ、その言葉に翼は眉間に皺を寄せる。
「はぁ?なんで?」
「居ると面白いからさ!一緒に昼飯食おうって誘いたくて。椎名達、同じ学校で仲良いいんだろ?」
「さぁね…。さっきまで玲と話してたけど」
「じゃあ、きっとまだ仕事があるんだろう」
隣で二人の会話を聞いていた渋沢が、不機嫌そうな翼の代わりにそう答えると藤代は残念そうな表情を見せる。
「えー!俺、居ないとつまんないっすよ!」
聞こえてくる藤代の言葉を無視するように、不機嫌なオーラ全開で翼は足早に進む。
そんな翼を柾輝が後ろから追いかけて、声を掛ける。
「大丈夫か?翼?」
心配そうな言葉とは裏腹に、柾輝は少し笑いをこらえていた。
「うるさい。余計なお世話だよ」
「終わったー!」
さー!次は、お昼だ!お昼!!
そんな会話など知らず、作業を終えたは軽快な足取りで食堂へと向かった。