11話 食堂戦争


「ありがとう、。助かったわ」
「いえいえ!失礼しました!」

玲さんに頼まれた資料の作成を終え、届けに行った私はようやく作業がひと段落して、ゆっくりと廊下を歩く。

グー

「…お腹すいたなぁ」

私は透き通るように青い空を部屋の窓から見上げたのだった。
ほら、昔から腹が減っては大根は出来ぬ!って言うじゃない?
あれ?何か白菜だっけ?…まぁー細かい事は気にしない!
私はお昼ごはんを食べるために、食堂へと急いだ。

「うーむ。普通だ」

東京選抜の食堂というくらいだから、 もっとアメリカンでジューシーな食べ物がドン!と出てくるのかと思ってました。

「猪とかマンモスの肉とか期待してたのに…」
「一体どんな想像してるんですか?」

聞きなれた声に、私はくるりと後ろを振り向く。

「あ。竜也!お久しぶりの照り焼きが食べたい!」
「それ返事になってないですけど」
「こら。今のは会話に乗るところだよ?」
さんと話してると疲れる…」

竜也は思わず頭を抱えた。

「あ。翼達発見!竜也、選抜頑張ってね!それじゃ、また後で!」
さんもほどほどに」
「ありがとう!」

そうしては竜也に手を振り急いで翼達の方へと向かう。
あれ?でも、翼に怒られそうな気がするのはなぜだろう?
そう思いつつも翼達の方へ向かっていく途中でまた誰かが私を呼ぶ声がする。

!」

私は足を止めて、その声のする方をきょろきょろと捜す。

「だれか呼んだ?…って、あ!英士!」

私の目の前には、仲良し3人組が食事をしているところが目に入った。

「あー!!居た!」
「何?結人、どうかした?」
「いや、なんて言うか…」
「あ!分かった!ご飯一緒に食べようって言うんでしょ?うん。私は別に良いよ!」
「そ、そうじゃなくて…」

呆れたように何かを言いたげな表情の一馬が私に言う。

「ってか何勝手に話進めてんだ!!」
「それに、さっき怒ってたんじゃないの?」
「ノンノン。英士。私、いつまでも引きずるタイプの女じゃないのよ」

ニッコリ笑ってみせると三人は驚いたように私を見た。

「お前、絶対変!」
「口悪いとモテないよー。結人」
「は?!誰がだよ!」

平然と結人と会話をする私を見て、 英士が驚いたように目をぱちくりとさせるも切り替えるように私に話掛ける。

「それより…」
「うん?なに?」
「うるさいな」

賑やかな周りの声から英士の声を拾おうと私が耳を傾けようとした時、一馬がすこし気に食わない様子で叫んだ。

「新チームを編成するための強化合宿中だぞ。お遊び気分のやつらと一緒にされちゃたまんねぇぜ」
「(あ!将!将がご飯食べてる!しかも牛乳で!わー!今すぐ抱き付きたいよ!)」

一馬の視線の方を見た瞬間に、食事中の将を見つけてしまい、私はもはや会話どころではない。

「僕が選ばれたのは実力だよ。そんなのもわかんないバカなのか?あんた」
「なに!?」
「(やぁあ!やっと将が見れたー!って、ん?この聞きなれた声…)うわっ!翼?!」

私は翼がいる事に全然気がつかなかったが、翼はあからさまに私の事を睨んでいた。
私なにかしたかな?!
いや、むしろ心当たりがありすぎてわからない!
が頭を抱えて葛藤をしていたその時、もはや全てを戦闘不能とする攻撃を第三者から食らうことになった。

グチャグチャ

ん?…えーっと、ダイアモンドは硬いんですよ!

って!そうじゃなくて!!
目の前の少年がしているこの行動は…

「ははぁ…これが噂のプリンに醤油をかけるとウニの味ってやつですか」

翼と一馬が何かを話していた間で、間宮君がプリンに醤油を掛けてまぜるという異様な光景と音が響き渡った。 色がグロい…
私も冷静を装っているが流石にこれはどうかと思う。

「…やりあう気力がなえた」
「俺も」

そう言うと同時に翼はトレイを片手で持ち、もう一方の空いた手で軽く私の腕を引っ張った。

「え?」
「早く食べろよ!馬鹿!」
「え、だから今から英士達と食べようと…」
「大人しく此処で、食べるよな?」

それは一瞬だった。私の方にヒンヤリとした空気が全身から流れこんできたのだ。

「わー!おいしそう!」

翼に飛葉の皆の所へ無理やり連れてこられた私は大人しく座り、急いでフォークを手に持った。

「俺、の事すげぇなって思う」
「よく初対面のやつとあれだけ仲良くなるもんだよ」
「一種の才能って言うのか?」

相も変わらずのメンバーでそんな話を柾輝達が横でしているのにも関わらず、私は完全に食事へと意識が集中している。

「ふむ、やや固めだね。このスパゲティー」

すると何故か翼は私の方を見てため息を吐いて言う。

「…ほんと疲れる」
「翼!何言ってんのよ!まだまだ始まったばかりでしょ!」
「大半がお前のせいなんだよ!」
「ふえ?」

東京選抜はまだまだ始まったばかり…。


一方の仲良し三人組はというと、が翼に連れて行かれた直後からは勿論、の話になる。

「一馬、どうしてくれるのさ。僕のが連れて行かれちゃったんだけど?」
「え…」

いつもと様子が違う英士に一馬は思わず体を後ろに引いた。

「俺も一緒でもよかったけどな。あいつ変だけどさ」
「僕は、一緒でも、じゃなくて一緒に、食べるつもりだったんだけど?」
「あ、いや。その…」

何だ?!俺が悪いのか?!って言うか英士、可笑しいぞ!
一馬は心の中で助けを求めるも、頼みの結人さえ英士の肩を持っているようで、そんな助けなどあるはずがない。

「…一馬、向こうにいる呼んで来いよ」
「いや、無理だろ…椎名達いるのに」

呆れたような表情をしながらも、こっそりと一馬に言う結人。
それに対して、こちらをにらんでいる英士が怖い…
そもそもいつの間には英士の物になったんだよ?!
だれかつっこめよ!!と一馬は心の中で叫ぶ。

「誰かが僕の言葉をあの時、うるさい!とか遮らなければ、とあのまま一緒に食べれたのに。誰かが…」
「も、もうやめてくれ!悪かったよ!俺が!!」

食事は楽しいに限る。


「うー、食べた食べたー!」

満腹になったはごちそうさまでした!と手を合わせる。

「遅いんだよ」
「味わって食べてたんですよーだ!」

子供のようにアッカンベー!と翼に向かって舌を出す。

「…お前はそんなに殴られたいのか?」
「滅相もございません!」

椅子の上に座り、土下座をする私。そんな私を馬鹿にしたような視線でみる翼。
まだまだ、長い長い合宿は終わりません。

次は、絶対将に会ってやる!そしてこの地獄を天国に変える!!
は癒しを求めて強い覚悟を決めたのだった。