12話 恵みの瞬間
「やっば!ドリンク準備してない!!」
玲さんに怒られてしまうと思いながらドタドタと大きな音を立て、 は急いでトレイをしまい食堂を出た。
「ちょっとは大人しくできないのかよ。は」
柾輝が呆れたように息をつくと、五助が面白そうに笑っていう。
「あのにそれを求めるのは無謀ってもんだろ?なぁ、翼?」
「逆にキモい」
「そりゃ言えてる」
飛葉中おなじみのメンバーで笑っていると、 思いもしなかった藤代の言葉と声に翼はピクリと肩を揺らす。
「は元気だから可愛いんじゃん!」
「はぁ?」
藤代の「が可愛い」と言う発言に一同唖然とした表情で藤代を見上げる。
「え。椎名はが可愛いって思ってねぇの?!」
俺は可愛いと思うけどなーと付け加え腕を組み、 藤代は翼に納得がいかないと言った表情をする。
「藤代、お前まさかさんの事が好きなのか?」
当然の疑問を近くに居た渋沢が藤城に投げかける。
「そりゃ好きっすよ!オモシレーし」
「恋愛対象としてか?」
「うーん、それはまだ分かんないですけど。なら良いかなって思うかな」
そんな会話に聞き耳を立てていた3人組は、ゆっくりと立ち上がる。
「(藤代もか…。)さぁ結人、一馬。そろそろ行こうか?」
「え、英士が何か怖ぇえ!」
「(に会ってから変な事ばっか…)」
一馬は深くため息をついた。
「ふぁ、クシュん!!」
うー…風邪かな?それとも何か、皆で私の悪口でも言ってるのか?
飛葉中の皆ならありえそうだから、なんか嫌だなー。
なんて思いながら私は、ドリンクとタオルの準備をすすめる。
「よーし!完成!」
どうだ!ぴったり時間通りだ!
なんて余裕をブッコいていると危ないということを実感するべきだった。
「へ…?わ、わぁあああ!!」
ガッ…
バタン!!
「い、痛っ!…って、ぁあ!折角のタオルが!ドリンクは?!良かったー無事だよ!って私が無事じゃねぇんだよ!」
床の小さな段差に躓き、前進が前のめりになりせっかく選択したタオルを全てぶちまけてしまった。
かろうじて、隣に置いていたドリンクには当たっていなかったようでほっと胸をなで下ろす。
まだタオルはあったからそっちを使って…。
と、急いで落ちたタオルを拾い上げて、また新たに準備を整える。
「よし!今度こそ大丈夫!…ああ!!時間がない!」
そのまま立ち上がって急いで向かおうとしたその時、掛けられた声に思わず動作を止める。
「ではないか?」
「ん?ああ!不破大地君じゃないか!」
大地とは桜上水に行った時に知り合った。うん、凄くユーモアがある天才GKだよね!
「何をしている?」
「いやー、実は躓いちゃって…」
「なるほど。それで急いでるわけか」
周りを見渡すと大地君はゆっくりと口を開く。
「それを持って行くのか。手伝ってやる」
「え…あ、ありがとう!」
大地って見た目は怖そうに見えるけど本当は凄く優しいんだよね…。
「気にするな」
「でも、どうして大地が此処に?」
今はまだ練習中の筈じゃ…。と尋ねると、大地がきょとんとした顔をする。
「いや、もう休憩に入っているが…」
「え…うっそ!ほら!大地!なにしてるの?!急ぐのよ!」
私は大地に手伝ってもらい、急いで玲さんに怒られる事を既に心に止めて皆の所へと向かった。
「、次はないものと思いなさい」
「は、はい…」
微かに微笑む美人の玲さんは怖かった!とっても怖かった!
「おぉ、神よ。私は可哀想な子羊です」
空を見上げて祈りながら、遠くの空を少し眺める。 すると天使の声が私の耳に届く。
「あっ虹!?」
…
神はこの可哀想な子羊に祝福を与えて下さった
「しょ、将が目の前に…!」
私が此処に来てから一回も拝める事ができなかった将が、今まさにここに君臨している。
「将、将、将!!」
は、100m程の離れていた将ちゃんに全力疾走中!
「あれ?さん!お久しぶりですね」
「将!うん!そうだね!そうだよね!!」
皆、どうしよう?
将が可愛い!
私は、あまりの将の可愛さに少し芝生に寝転がっていた将をガバッと抱きしめた。
「わっ!さん、苦しいですよ」
可愛い!可愛い!どうしよう!
たまんない!と、すっかり自分の世界に入ってしまう。
これこそ、まさに恵み!
「…はっ!ゴメン!」
「さん」と呼ぶ将の言葉で我に返り、パッと手を離す。
「あ、そうだ!さんも見てください」
「え?」
私の方を見てなにかを思い出したように、目の前の光景を指差した後で将は、軽くまた寝転がる。
「虹がいっぱいなんです。きれーだなー」
「本当だ!綺麗だねー」
芝生の水やりで小さな虹がいくつも出来ている。 しかし将に癒やされるように幸せを感じていた憩いの時間も一瞬の出来事にすぎなかった…。
べちゃ!
「何のん気にダレてんだよ!」
突然後ろからスタスタを歩いて来た翼が芝生で寝転んでいる将を思いっきり足で蹴り踏んだ。
「翼!」
私が思わずそう叫んだら、何故か翼に思いっきり睨まれました。
「翼さん!」
「これで練習が終わったなんて思うなよ」
「え」
「早く来い!」
「はい!」
満面の笑顔を向けて、将は立ち上がる。
やっぱり将は今日も可愛いです…。ああ…と手をあわせているとそれに気付いた翼が私の方を見る。
「、お前も早く来い」
「え?!あ、はい!」
翼は後方からついてきたを確認すると、不機嫌そうに前を睨みつけた。
「……」
歩きながらも、ふつふつと湧き上がる気持ちを抑えるように翼は拳を握る。
「(この馬鹿!)」
ただでさえ変な敵が増えそうなのにウロウロしてたと思うと突然居なくなる。 それに、いくらが抱きついてたのが将だと言ってもやっぱりムカつくことには変わりない。
「はぁ…」
でも、こんな事考えてイラついてる俺も俺か…と翼は自分の思考に思わずため息を吐いた。
「翼、最近ため息多いよ」
「誰のせいだよ!」
「えー!?私?!」
「お前以外いないと思うけど?」
「私、何にもしてないし!」
「よく言うよ」
「え?」
いや、だから私本当に何にもしてないですって!
「アハハ…」
「そんな君も可愛いよ!」
私達を見て困った様な表情をする将に私が再び将に抱きつこうとする直前で、 後ろから首元に圧力がかかる。
「ぐえっ!」
「それが止めろって言ってんの!」
翼は、無理やり私の首根っこを掴んだ。
ちょ!ぐるじい!首しまってる!!
「い、いわれだごどないですけど?!」
苦しいながらにもやっと出す声で反論する。
翼は、突如突き放すかのように私を掴んでいた手を離した。
「わっ!はぁー、苦しかったぁ!…翼、嫌い」
「へー…もう一回言ってみろよ」
笑顔で軽く拳を握り締める翼
「翼大好き!」
「…気持ち悪い」
「言わせといてそれはないでしょ?!」
「だれも言えなんて言ってない」
「御尤もでございます!」
ビシッと翼に敬礼をすると、再び翼の呆れたようなため息が聞こえたのだった。
「貴方達、何やってるの?早く来なさい!」
「あ、はーい!」
私は足早に玲さんの呼ぶ方へ足早で向かう。
「玲さん。今から何をするんですか?」
「いいから、も見てなさい。面白いわよ」
玲さんのその笑顔に背筋にゾクリとした冷気がする。
その上、楽しそうに笑う玲さんはなぜかいつもの倍くらい怖い。
「此処は特等席だから」
いや、将とか将とか将を見れるのは嬉しいですけど、今は玲さんの真横で一緒に見るのはなんか怖い!!
の人間の本能が危険だという信号を体中に放っていた。
「これから5対5のミニゲームをします」
玲さんが発した言葉に私も含め、その場に居た全員が息を飲んだ。