13話 沸き立つ感情


うん?この見慣れない皆の配置。
なぜか違和感がします…。

「始めて」

玲さんは、的確に試合開始の合図を出す。 うーん…。始めはスペースやら攻守やらポジションやら、何が何か意味が分からなかったけど要約すると…。

「普段はFWの将がGKをやるってことだね!」
「馬鹿だなー、お前!マネージャーだろ?」

なにぉおお?!失礼な!!
そんなことを言う不届き者は、私が成敗してくれる…って、あれ?

「あんた誰?」
「おい、仮にもマネージャーなら選手の名前くらい覚えてろよ」
「じゃあ、君は同じ学校で同学年だからって全員の名前を言えるの?」

私は言えないぞ!
クラスの子の名前でさえ、フルネームはキツイと思ってるくらいなのに…。

「…ぷっ」
「?」
「お前、かなり変だって言われるだろ?」

本当に、誰なんだ?
突然、人のことを笑うし初対面なのに変だと言われ、ちょっと…いや、かなり傷付きます。

「俺、桜庭雄一郎。ちゃんと覚えろよ」
「ふーん。私は…」
、でしょ?」

私が名前を言おうとした途端、遮るように後ろから別の声が聞こえた。
…次はだれだよ。おい。
しかも、なぜ見ず知らずの君が私の名前を知っているの?

「俺は上原淳。宜しく」
「なんで、その淳君が私の名前を知ってるのかなー?」

嫌味っぽく言う私に対してきょとんとした顔をする。

「えー、だってって有名だし」

…そうか、知らなかった。
私って可愛いって有名だったんだ!

「誰もそこまで言ってねぇからな!」
「それに、最初の時皆の前で自己紹介してたしね」
「あ、そっかー。って、さっきのは心読みは禁止だよ。桜ちゃん」
「自分で大声で言ってたからな!それに、その呼び方は止めろ!」
「そんじゃ、サクちゃんでいいや」
「お前な!」
って噂通りだね」

噂って…いつのまに流れてるんだ?っていうか私の噂?
え。そんな…。私、別にトイレくらい一人で行けるし、この歳でお箸持てないくらい馬鹿じゃないよ!

「「そんな噂流れてないって」」

サクちゃんと淳の二人が見事にハモった。

「またまた二人とも心読み禁止だよ。プライメシだよー!」
「だからお前、全部声に出してるんだよ!」
「それにプライメシじゃなくてプライバシーだしね」
「細かいことは気にしちゃいけない!」

私がそう言い放った瞬間、聞き慣れた大きな声が響き渡る。

「タコ!GKなんだから手使え!」
「え?」

翼が怒鳴る声に思わず反応してしまう。
将、大丈夫…な訳が無さそうだ…。

「どこ目ェつけてんだよ!素人か!お前は!?ただつっ立ってりゃいーってもんじゃないんだよ!攻撃も予測しろよ!その頭はカボチャか?!」
「はい!」

はい!って将。素直すぎるよ!
私だったら絶対今頃、翼ともめるにもめてるね。うん!

「じゃ、僕達いくね
「あ、うん」
「仕事さぼって砂遊びなんてするんじゃねーぞ」
「流石にそれはないと思うな!うん!」

敦達と別れた後も、私は試合を見るのに熱中していた。 そんな時、何人かで試合を分析する声が聞こえてくる。

「ボールが来ると分かっていても捕るのはなかなか難しい。とくにリーチの差はでかい」

うーん。流石渋沢キャプだ。向こうで、難しそうなこと言ってるよ。 ちらりと将の心配をしつつ、渋沢さん達の方を見たのに気がついたのか…。

「おーい!!」

誠二が大きく手を振ってきたので笑顔で軽く手を振り返して、再びゲームを見ることに集中する。

「…やっぱ心配だな。将」

詳しいことはよく分かんないけど、玲さんがやらせているこのゲームの中でのポジションチェンジ。 それが、いかに難しいかサッカー無知な私が見てても分かる。

「こらこらこらー!」
「うん?」

将の方ばかりに気をとられていた私は、 ふと翼の声がする方を見ると大地が一人でサッカーをしている様子が目に入った。

「何のために11人でやってると思ってんだ?」
「!」

大地は翼の言葉に納得したようにポン!と手を叩いた。 うん…大地も心配だ!!
でもこんな中でも翼は余裕そうなのがなんか…。

「むかつく!」

はっ!いけない!思わず声に!!
こんなこと翼に聞かれたら私は今晩、狩られると思います。骨すら残るかわかんないよ? 私が恐怖に体を震わせるなか、一筋の光が私を導いてくれた。

「とれた!」

なんと、今まで全然ボールに上手に反応できなかった将が、最後はきちんとGKとして上手くいったのだ。 しかもこの笑顔!!光だよ!癒しだよ!将!!

ピピ!

そこでちょうどいいタイミングで笛の鳴る音が聞こえた。

「GK交代!他も位置変わって!」

そっか。そうだ…。

「私なんかが心配することないじゃん!」

だって将だもん!うん!

「将はかわいい!素直!プリティーカザ!!」
「…。それは、どこをつっこんで欲しいの?」
「えー、別の本心だしー…っていやぁあ!英士!」

いつのまにか私の横に英士がいた。

「そんなに驚かなくてもいいと思うけど…」
「お、驚くよ!うん!」

だって突然、英士がマイワールドの中に入ってきたんだもん!

「それより。前から聞こうと思ってたことが幾つかあるんだけどさ」
「何?」

突然、英士は少しさっきより真剣な目で私の方を見た。

「椎名とさ、どういう関係なの?」
「…はぁ?」
「いや、妙に仲良さそうだから」
「そんなに気になるほど仲良くないと思うけど。まぁ、言うなら幼馴染?」

だよねー?いや…正直言うなら、超金持ちの家のわがまま息子とその息子に飼われて虐待を受けてる犬の方が正しい気がします。

「なんだ。付き合ってるんじゃないの?」
「…え」
?」
「あ、あははは!全然面白くない!私と翼が?何処をどう見たらそんな風に見えるかな?!」

っていうか、翼にこんなの聞かれたら…

「は?俺とが?気持ち悪い冗談やめてくれない?」

とか言いながら、私を天国へ誘ってくれそうなほど首を絞められそうです。

「そうかな?」
「そうだよそうだよ!遭難だよ!」
、最後のは漢字違うよ」
「ええぃ!そこは、遭難とそうなんをかけている私の親父ギャグでしょ!」
「…流石に無理あるよ」
「そこはツッコミナッシング!」
「あー。じゃぁ、もう1つ質問」
「?」

英士は、これ以上のペースにハマらないよう本来の話題へと話を戻す。

「付き合ってる人とかいるの?」
「な!なんでそんなこと聞くかなぁ?!」
「ちょっと気になったから。で、いるの?」

強く聞いてくる英士は、私を押すように顔を近づける。

「い、いるわけないでしょ!むしろ、いるように見える?!」

生まれて一回もそんな経験ないですけど何か問題でも?!

「いや、別にないよ」
「今のは私、声に出してないぞー!心を読むなー!」
、性格が分かりやすいからだよ」
「えー?そうかなー…って、しまった!タオル準備まだだった!ゴメン!英士また後で!!」
「あ。う…」

猛ダッシュ!
英士が言葉を言い終わる前に私は、疾風のごとく走り去った。

「…そうか。ふーん。まだチャンスはあるね」

でも問題は、が相当鈍そうだって言うことなんだよね…。 どうしたものかと英士は、首をひねった。


「はぁ、はぁ…つ、疲れた…」

英士が変なこと聞くから、ちょっと久しぶりに恋に悩む可愛らしい乙女になった気分だよ!! いや、常に私は乙女ですけどね。

「よっこら…せっと!」

掛け声と共に大量のタオル持ち上げ、皆の所へ戻った。

「お疲れ様です!」