15話 荒れる合宿模様


は部屋の窓を開けると、気持ちいい風が肌に当たり吹き込んでくる。 とうとう合宿二日目がやってきました。
東京選抜マネージャである私は、昨日の数々の失敗を胸に埋め込み! あれ?埋め込むんだったっけ?刻み込むんだったっけ?それとも、射込むの?
……。
まぁ、細かいことは気にしない!今日も一日頑張ります!

「うーん!快晴だ!」

今日は何かいいことがありそうな予感がする。 うん。まぁ、ただ勝手にそう思うだけだけど…。

「おー!はよ!!」
「結人!おはよう。珍しく一人だね」
「ちょっと早く目覚めたからな。朝の散歩」
「そっか!…って、何?結人?」

何故か結人はじーっと私の方を見て、何か考え込んでいる様子だった。

「うーん?いや、ちょっとなー」
「……」

もう!やだ!そんなに見られると…。

「照れちゃう訳じゃないけどなくはない!」
「何が言いたいんだよ。お前は」
「ええぃ!まどろっこしぃ!何?そんなに見ないでよ!照れちゃうじゃない!って、意味だったんだけど」
「絶対、今のは誰もわかんないからな」
「それで何?私の顔になんか付いてる?」

そりゃ、普通の人間が持ってる目とかはあるよ。珍しい三つ目なんか私、もってないからね。

「いや、別に何もないけど」

の事となるとムキになる英士を見ると、どうもに目がいくんだよ。 …とはに言えずにただを見つめていた。

「(ってか今、俺がと二人で喋っている時点でかなりやばいんじゃ…)」

言ったら、英士に何されるか分かったもんじゃない。考えた末に行き着いた自分の思考により結人は、ぶるっと体を震わせた。

「一気に寒気が!!」
「結人、風邪?」
「いや、ちょっとお前のせいでな」
「はぁ?」

なんのこっちゃ?あれ?私、そういえば何してたんだっけ…とは思考を巡らせる。

「あ!ドリンクまだやってないんだった!じゃあ、朝の散歩を結人は楽しんでね!バイバイ!」

そういうと、はものすごい勢いで去って行く。

「…って何かと忙しいやつだよな」

結人は、風のように去って行ったの後ろ姿を呆然と立ち尽くした。


「何とか間に合った!」

まだ皆は練習中みたいだし、珍しく早く終わったと一息ついた時、ブーブーと上着ポケットの中で携帯が震える。

「うぎゃああ!」

自分の携帯のバイブにビビるってどうなんだ。って、そんなことより…。

「電話?誰だろう?」

とりあえず携帯を開けてみると私の見覚えのある名前が表示されている。その名前を確認した後、私は、急いで電話に出た。

「はいはい!こちら皆のアイドルちゃんです!何かご用かな?」
『その性格は相変わらずやな、

そう電話の相手は桜上水で仲良くなった。佐藤成樹だった。

「シゲも元気そうだね」
『まぁ、元気って言えば元気やな』

「うん?シゲ、なんかあった?」

私はシゲの様子を窺うように尋ねる。

『ハハッ。ホンマ、は変な所で勘ええな』

その勘を普段もうちょっと、回してくれたらいいのだけども…とシゲは心の中で思ったのは無理もない。

「なーに言ってんの!私の勘はいつも名探偵並に冴え渡ってるよ!」
『相変わらず、ツッコミどころ多いなぁ』

ハハっとまた軽く電話越しで笑うシゲの声が聞こえた。

「それで?どうかしたの?シゲが電話くれるのなんて珍しいね」
『いや、特に何もないねんけど…今、合宿やろ?』
「うん。そうだよ」
『合宿、終わった後やねんけど少し時間ある?』
「あー、うん。大丈夫だと思う」
『お好み焼き奢ったるって前言ったからな。奢ったるで』

その言葉で、はピクリと体を反応させる。

「お好み焼き?!本当?!」
『シゲちゃんは、嘘言わへんで』
「うんうん!」

やった!と右手の拳を大きく天井に突き上げる。

『ほんなら、また合宿終わった頃に電話して』
「了解!…あ!シゲ!」

やっぱり、シゲの様子が可笑しいのが気になるが、かける言葉は見当たらない。

『なんや?』
「あー、うん。早く怪我、治してシゲもサッカー頑張って」
『…当たり前や』
「そだよね!うん!そうだ!クリームソーダー!じゃあ、終わったら電話するから」

私は静かに電話を切った。そうだよね。当たり前だよ。 シゲの様子がなんとなく可笑しかったかもって思ったけど心配は要らなさそうだ。

「よっし!お好み焼きパワーで頑張るぞ!」

私は、意気込んで仕事が終わり次第来るようにと言われた玲さんの所へタオルとドリンクを持って向かうのだった。


「あっきーらーさん!」
「あら、…どうかしたの?偉くご機嫌ね」
「あ!分かります?!」
「まぁ、いいわ。それよりこれ見て欲しいんだけど…」
「はい!」

資料を元に次の練習方法やデータの取り纏めについて玲さんと話している時に、 私に喧嘩売ってるのか!この野郎!出てきやがれ!と、言うような現場を目撃してしまった。

「あの、玲さん」
「何?
「どこからどうみても不審者…。いや、不審珍獣のショウジョウ科の類人猿のような分際が、私の天使のように可愛い将に肘鉄をくらわせたんですけど、どういうことですか?!」

よし。一回も噛まずに言えた!

「あら、あれは…」
「?」

何動物だよと思いながらも突然思いだしたように歩き出した玲さんに、私もとりあえず将が心配だったので後ろからついて行く。

「なに騒いでるの?」
「あ!!」
「誰あれ?」
「西園寺コーチだよ。Bグループ担当の」

誠二が動物に説明するのを他所に、私はきょろきょろと将を見た。

「なに!?B?おれは?」
「お前はAだよ」
「なにぃ~~っ!?」

こんな会話は、私にとってどうでもいい。

「将!大丈…ぶぇっ?!」

私が、大丈夫?!と、言って将に近づこうとした瞬間に何故か背後から誰かに首根っこを掴まれる。

「おれBでいーや!コーチー!」

どうやらその犯人は玲さんだったようで…。
あからさま玲さんの方に向かってきていたのに、私はその玲さんに無理やり引っ張られて盾にされてしまった。

「あああ玲さん?!」

私は、将の所に行きたいのに!しかも玲さん、力が強い…!

「貴女はまだ若い!」
「意味が分かりません!!」

なんて悠長にツッコミを入れている場合じゃない!
その間にも世にも珍しい喋る不審珍獣のショウジョウ科の類人猿のようなやつがこっちに向かってきている。

思わず、私は怖さに目を閉じる。そして、未だに襲って来ない衝撃を疑問に持ち私は、ゆっくりと目を開けた。

「…つ、翼?」

私の目の前に立つ翼に思わず胸を撫で下ろす。 しかし同時に、私の脳内で、その背中が昔の光景と重なった。

「調子にのんなよデカブツ」

つい考えこんじゃった私は、そこから暫く周りの声なんか聞こえない。 そうだ。その光景は小学生の時の微かな記憶。今より少しだけ小さい翼の背中を見たことがあったんだ…。

「……」
?」
「……」
!」

ゴン!

「っ!い、痛ったー!」

突然の衝撃で私は完全に意識を取り戻した。

「翼!あんた!女の子グーで頭殴るってどうよ!」
「お前が意識飛ばしてるからだろ!」
「あ!そうだ!あの、あら世にも珍しい!喋る不審動物のショウジョウ科の類人猿のようなやつは?!」
「…それって、こいつのこと?」
「え?」

またお前は意味の分からないことを…と言いたげな表情をしつうも翼は、自分の真後ろのリュックを背負った人物を指さす。 すると私の声に反応するかの様に、そいつが振り返ってこっちに来る。

「ああ?…女?」
「う、わ!っと!」

ちょっと、吃驚したが負けじと私はそいつをじっと睨む。

「…あ!さっきあの女コーチの前に、居たような、居なかったような?」
「居たよ!思いっきり居た!」

そりゃあ玲さんの方が綺麗だし大人だし目立つだろうけど、私そんなに陰薄くないよ!

「冗談だって!怒らない怒らない…ふーん。まぁまぁ可愛いじゃん」
「え…」
「おれ鳴海貴志!よろしくな!それで?名前は?」
「えーっと、

戸惑いながらも私が言うと、そっと鳴海は私の方へ何故か手を差し出して私の手を掴む。

「…はい?」
「握手!握手!よろしく!」
「はぁ?!」

…いや、無理。よろしくできない。 だって私の将に肘鉄食らわせた奴だよ? こいつのペースに乗らされちゃいけない。というように私が言い返そうとしたその瞬間…。

「ちょっと…って、え?」

全てを言い終わる前に私は、後ろから翼に引っ張られ両耳を翼に塞がれた。

「          」
「  」

…うん。なにも聞こえないよね。 翼が何かをあの鳴海とかいう奴と喋ってるみたいだけど、私は、翼に両耳を塞がれて聞きとる事が出来ない。 翼を見上げていると、暫く経って翼が私の両耳から手を放した。

「…なにか言ったの?」
「何でもない」

いやいや、翼さん。なんかさっき以上にあいつに見られてるんですけど、私!

「あ、あのさちゃん、ちょっと聞きたいんだけど」
「気安くちゃん呼ぶな!」

私は、鳴海が何か言い終わる前にさっきから溜め込んでいた事を吐き出してやる気で言ってやった。 そこで、何故か翼が少し面白そうに笑っていたことに私は気がつかない。

「え」
「今度、将にその汚い手をあげてみなさい…」

は静かに冷たく微笑む。

「てめぇの心臓握りつぶして、息の根を止めてやるよ」

その瞬間、周りの温度が一気に下がった感覚に陥ったのは言うまでもない。

「えっと……」
「あれ?いつから居たの?誠二!」

誠二の方を振り向くと、目の前にはいつもと同じ暖かい笑顔の

「いや、風祭とずっと居たって!」
「え、あ、はい」
「じゃあ、さっき翼達が何言ってたか知ってるの?」
「言うなよ!藤代!将!」

私は言い終わる前に私が聞くのを黒いオーラの翼によって阻止しされた。

「「は、はい…」」

あまりのその翼のオーラに二人は、従うしかなかった。

「お前も余計なこと聞いてんじゃねぇよ!」
「え?なんで?!」

でも、気になるじゃんか!人として!!

「…なんだよ、こいつら」

そう思ったのは、鳴海だけじゃないだろう。