17話 水面下のミニゲーム
将が心配で心配でたまらないです。
前回に引き続きミニゲームが行われています。
そしてなんと将とあの鳴海という奴が同じチームで試合をするというハラハラな展開に、私は正直居ても立っても居られない…。 翼は何か起こるかもというような思わせぶりな事を言っていたけど、今の所は何も変化はありません。 このまま終わってくれるのを願うばかりです…。
ガッ!!
だけどそう簡単な訳ないということは頭の中では分かっていた。
私は今、目の前で起こった出来事に衝撃を受け、目の前が真っ暗になりそうだった。
「将!!」
鳴海は、将が受け取るはずだったボールを無理やり奪う為に、将を強力な力で弾き飛ばしたのだ。 その上、鳴海はそんな事をお構いなしに無理矢理シュートを決めてみせる。
「甘えな…チームワーク?何寝ぼけた事言ってんだ?おまえら」
鳴海は私の愛しい将を弾き飛ばしたにもか変わらず、偉そうにいかにも自分が正しい。というような俺様口調で喋り続けた。
「言うなりゃ自分以外は皆敵!特に同じFWは手加減しねーよ!」
…うん。スッゲーむかつくのは私だけなのかな?
「死ねばいいのに…」
「だから!聞こえてんだよ!つか、てめぇマネージャーだろ!やけにあのチビの肩を持ちやがって!ふざけんじゃねぇぞ!」
「将!大丈夫?!」
「無視かよ!おい!」
そんな鳴海を私はわざと無視する。
「(ちっ…まぁ、あの女が何を言おうと一人脱落。ザコ相手にちょっと大人げなかったか)」
私は勝ち誇ったような表情をする鳴海を無言で睨みつける。 いや、だけど将ならまだ大丈夫。私は願うように将へと視線を移した。すると…。
パン!
将が自分の頬を両手で叩く。
「将!」
ここからでも分かる。さっき以上の集中力だ。
「見てなさい!ショウジョウ科!今日の晩御飯のおかずにしてやるわ!」
「お前なー…」
隣に居た翼は、呆れたように頭を抱える。
「!俺、鍋がいいな!」
「よっしゃ!誠二!私に任せなさい!」
「この馬鹿の話に乗るな藤代。話がややこしくなる」
「まずい」
そんな時、竜也がぼそりとつぶやいたのを私は聞き逃さなかった。
え?あー、たしかに…。
「たしかに、食べてもおいしくなさそうだね!竜也!」
「違う!ボールが、鳴海って奴に集まってきたんだ!」
竜也の言葉で再び試合の状況を見てみると、確かにボールが将ではなく鳴海のもとへと集まりだした。 本当だ…。
「どうして?」
「鳴海の方がポジションがいいからさ」
ポジション?と首を傾げる私の質問に翼が答える。
「だからパスが出しやすい。DFがはりついていても、ボールをキープできる突破力もある」
キープ?突破力?
「何が何でも、俺が決めてやるっていう強引さ…日本のFWにはない。FWらしいFWだね彼は」
うん!…ゴメン。
説明してくれてるんだけど、何言ってるかサッパリわかんない。
「??」
「風祭にとって鳴海と同じFWを争うのは厳しいな」
渋沢キャプが言うんだからやっぱりそうなんだろうけど…。 将なら大丈夫だもん…。
体育座りをして、鳴海が有利だという周りの声に少しムッとしたように頬を膨らませて試合を眺めていると、 誠二がそんな私に気付いたのか私の肩に優しく手を置き、笑いかける。
「だからって、諦める奴でもないけどね。そうだろ??」
「うん!将なら絶対!」
誠二に私がそう言うと、翼が口角を釣り上げる。
「鳴海にはない風祭にあるもの。FWとしてその存在価値を皆に示すことができればいいんだ」
「翼…。存在価値?」
「そう。存在価値。あいつが自分の利点に気づけばやれるはずだよ」
翼は面白げにそう言いながら、座りこんでいる私の頭に軽く手を置く。
心配と期待…。そんな表裏一体の感情を持ち合わせたまま祈る様に将を見つめた。
「俺からボール奪うってか!甘えよ!」
自分の前へと立ち向かってきた将に対して、鳴海が面白げに笑い余裕をかまして叫ぶ。
「将!」
私が叫んだと同時に将が、あの鳴海を軽く抜いて見せる。 鳴海だけじゃなく、周りに見ていた私達も息を飲む。
「なに?!」
惜しくも将が放ったシュートはゴールが決まらなかったものの、 今一瞬、簡単に将があの鳴海を抜いたように見えた。
「将すごい!」
「やったな、!」
「わっ!」
突然、私の背中が重くなる。その重さで後ろを振り返ると、誠二が全体重を掛けて私に抱きついていた。
「ちょっ!誠二!重いよー!」
「だって、ずっと心配そうに風祭みてたからさー。ちょっと妬いちゃったじゃん」
「また冗談ばっかり…」
本当、誠二は口が上手い。 そこらへんの女の子ならコロリと落ちるんだろう台詞をさらりといつも言ってみせる。
「えー!本当だって!」
「藤代。もう、止めとけ」
「なんでですか?キャプテン。今、いいとこ…」
「後ろ見てみろ」
「え?…ゲッ!」
そう言うと、あれだけくっついていた誠二が急に離れた。 何かあったのかな?と思い、誠二が離れて私も後ろを見ると…。
「…っ!!」
怖くて言葉が出ませんでした!
ちなみにその正体とは、何故かもの凄くドスのきいた黒いオーラを放つ翼と英士。そして…。
「。あなた、何か忘れてない?」
「あー!洗濯物ほっとらかしだ!!」
私が仕事をすっかり忘れていた為、怒る玲さんでした。
「あれ?」
でも、何であの二人まであんなに怒ってたんだろう?
「ま、いっか!そもそも、それどころじゃないし!」
私はバタバタと慌ててその場を走り抜けた。
「行くよ。柾輝」
「おい、待てよ。翼」
「…俺は知らねぇぜ」
「まぁ、後はの問題だよな!」
「「(でも、巻き込まれるんだろうなぁ…)」」
翼の嫉妬の炎の矢先が自分達に飛んでこないように願う、飛葉中サッカー部員達と…
「今晩はもうちょっと体を動かさないとね」
「俺、今日英士と一緒に練習すんの止めようかな?」
「…俺はパス」
「あ!ずりーぞ!一馬!」
「何してるの。二人とも。行くよ」
「「(っ!…明日の最終日まで命あるかな…?))」」
顔は怒ってないけど、怖い英士とそのオーラにたじたじの結人と一馬だった。
皆、思うことは唯一つ…。
「「(に関わると、碌な事がない…)」」
その場に居た全員が、何度目か分からない深いため息をついた。