18話 とある夜の序章
「終わったぁ!」
やっと洗濯物が片付き、これで2日目の仕事も全部終了。 皆さん、私が何にもしてないように見えますか? 何もしていないように見えて、特にお洗濯。結構大変なんですよ…これが…。
「さて、ご飯食べにいくか」
仕事をしているうちに結構遅くなってしまった。 まだ食べてない人いるかな?と思いつつも少し急ぎ足で食堂へと向かっていると聞きなれた声に足を止めた。
「おー!!」
「うん?」
その声で後ろを振り返ると、手を上げる結人と英士がいた。
「あれ、二人?一馬は?」
「あいつは部屋でイメージトレーニング中」
「イメージ……トレイ?」
なんじゃそりゃ?と私が首を傾げると英士が呆れるように息を吐き、説明してれる。
「トレイじゃなくて、トレーニングだよ。イメージトレーニング。 実際に体を動かすんじゃなくて、動いてる自分や相手をイメージして、実際の試合でも動けるように特訓してるんだよ」
「なるほど!で?二人は明日に備えて練習?」
「まぁ、そんなとこだな」
そっかー。もう明日でこの合宿も終わりなんだと思うと少し寂しいと柄にもなく思ってしまう。
「安心しなよ。」
「え?何が?」
「僕はと会える日を簡単に終わらせるつもりなんてないから」
「あ、ありがと、う…?」
私を元気づけてくれたのだろうか? だけど私、時々、英士がなんの話をしているかわからない時があるからなぁ…。 そんなことを思いながらも、笑顔を返すと、そんな私の心を察したように結人が話題を変える。
「、飯は?」
「今からだよ」
「だったら一馬も連れてくるからさ、一緒に食おうぜ!俺らもまだだし!な!英士!」
「そうだね。行こうか、」
「あ、うん」
しかしやっぱり皆、明日の事が心配なんだろう。 そりゃそうだよねー。明日の紅白戦で決まるんだもん。 私が危惧しながらも、英士達と歩いて食堂に向かっていると、練習をしていた男の子達の声が聞こえてくる。
「練習するならわかるが、何遊んでんだあいつら?」
「…?」
私が疑問に持ってその子達の会話を聞いていると、 「どうした?」と直接結人が尋ねる。すると、彼から帰ってきた言葉は思わぬ答えだった。
「鬼ごっこやってんのよ」
「「鬼ごっこー?」」
私と結人の声が見事にハモる。その男の子が指を指した方向を見て見ると、あまりにも見たこのある人たちで…。
「つ、翼?!」
柾輝達は勿論、それに加えて、あれは…将?!
何故か将はガムテープを体に張られて、翼達を上手く交していた。
「…これが、鬼ごっこ?」
ここから様子を見てる限りだと、将の体についているガムテープが全部はがされた駄目。みたいなルールなのかな? よく分かんないけど、また翼が何かを企んでやっているんだ。ってことは直ぐに理解できた。
「遊びになに真剣になってんだか」
「明日の紅白戦、もしかして捨ててるとか?」
うん。だれか分からない人から馬鹿にされるのってかなりむかつくよね。
「真剣にやっちゃいけないの?!それにそういうあなた達だって余裕ないでしょ!」
出てしまった言葉に私は「はっ!」と気づき後悔する。またやってしまった!と…。
男の子達の視線が痛い…!
でも、むかつくものは仕方がない。それに私は伊達に翼と幼馴染をしてはいない。 将を見て面白げな表情をしている翼の顔を見ただけで、この鬼ごっこに何かあることくらい分かる。
一生懸命な将のこともなにも知らない人たちに馬鹿にされるのはやっぱり許せない…。
グッと手の拳に力を込める私の肩に英士が手を乗せる。
「目クソ鼻クソを笑うってね。ほっときなよ、」
「英士…」
「それより飯、食おうぜ!!」
「結人…」
それ以外なにも言わずにそっと私の隣にきて頬笑みかけてくれる二人にそっと力が抜けるのが分かる。
「うん。なんかありがとう。二人とも」
「ありがとうの意味がわかんねぇ!」
少し頬を赤く染めながら結人がぶっきら棒にそう言う。
「またまた!結人ったら照れちゃって!」
「はぁあ?!照れてねぇよ!」
「そうだね。結人が照れるなんて、いつのまにそんなに偉くなったんだか」
なぜか英士の視線が、すごく怖いです…。
「え、英士…」
「さ、結人なんか放っておいて二人で行こう。」
「え」
「いや、待て待て!」
こうして私は、一馬を部屋からつれて来てくれた英士達と一緒に食堂へと向かった。
「大丈夫かな?」
食事をしながら、呟いた私に英士達三人の視線が集まる。 やっぱり明日の紅白戦が気になる。それに、将のことも気がかりだ。
「って意外と心配性だよね」
「え。そうかな?」
「だって、さっきからそればっかだし」
一馬に痛いところをつかれる。
「しょ、しょうがないじゃん!心配なんだから」
「が出るんじゃあるまいし、今からそんなんでどうするんだよ」
「あ。いや、まぁ…そうなんだけどー!」
私って心配性なのかな?確かに、私が今から皆の心配をしてもなにも変わらない。それにあの将のことだ。きっと大丈夫。
「…そうだよね。私が信じてあげなきゃ、駄目だよね!」
「わっ!び、吃驚した」
「あ、ゴメン。一馬」
意気込んで立ち上がる私に驚いた一馬が肩を揺らす。 そうだ。食べ終わったら後でまた翼達の所に行ってみよう。
「そうと決まれば!早くたーべよっと!」
「勝手に納得すんなよな!」
「ええぃ!結人!どっちが早く食べるか競争よ!」
「はぁ?!」
「負けたほうがジュース奢りだからねー!」
「あ!ちょ!、せけぇよ!フライングだろ!」
うん。いい子たちだ! 一緒にいると、すごく楽しい。 出会わせてくれた東京選抜には感謝だなぁ…。
「じゃ、おやすみ」
「早く部屋戻れよ」
「はいはい」
こうして無事に食事を終えた私は、食堂を出たところで英士達に手を振り別れる。
さて、翼達を探そうかと思い数分歩き回ったところで気付く…あれ?
「此処はどこ?!」
やってしまった…これは、完全に迷子…。
「いや、私が馬鹿なわけじゃないよね!無駄に広すぎなんだよ!此処!」
私の家なんか、迷子になりたくてもなれない広さなんだぞ!こらー!! 言ってて虚しくなんてないもん!
「どうしよう…」
分からない道にぼーっと立ち往生していた。その時…。
「あれ、?なにしてんの?こんな所で」
私は、掛けられた言葉のする方に目を向ける。 前方約5mあたりの所に後光が差している!神様は、私を見放しはしなかった!!
「せ、誠二ー!」
私は迷子から脱出できたこと。 そして、一人じゃなくなったことがあまりにも嬉しくて、凄い勢いで誠二の所へ向かっていきそのままの勢いで抱きついた。
「うわっ!?!」
「怖かったー!!」
「え。何?どうしたの?」
「実は…」
ぽんぽんと誠二から背中を擦られて少し落ち着いた私は誠二に迷子になった事のあらすじを伝える。
「あーなるほど。椎名達探してるんなら、とりあえず部屋に行って見たらいいんじゃねーの?」
「それが、どこかわかんなくて…」
「えー!じゃあ駄目じゃん!!」
「面目ない!」
分かってる!痛いほどよくわかってる!自分でも! マネージャーの癖して、部屋の場所も知らないなんて情けない。
「まぁ、でもそういう事もあるって!よし!俺が連れてってあげる」
「本当?!」
「まじまじ!……多分」
「…誠二?多分って?」
突然、誠二が固まってその場に立っていた。
「ゴメン!。俺、椎名達の部屋しらねぇわ」
「…はぁー!」
じゃあ何か!私はまだ迷子のままだと?!
「誠二ー!」
「本当にゴメンって!」
私の喜んだ時間を返してよ!っていうかぬか喜びだったわけ?!
…あれ?ぬかだったっけ?ゆかだったっけ?ゆか喜び?ぬか喜び?どっちかわからなくなった!って…。
「思考の主旨がずれてるって私…」
「、ごめん」
少ししょんぼりとした誠二。
「え!違う!誠二のせいじゃないよ!私のせいだよ!」
「でも、帰れねーじゃん」
「あ…」
忘れてた!
「でも今は一人じゃないし!誠二がいると思ったら安心したよ!」
流石に一人は寂しかった。あのままじゃ私、どうなってたんだろう?なんて思うと、ぞっとする。
「」
「ん?」
私が振り返ると、今度は私ではなく、誠二が抱きついてきた。
「ちょ!誠二?!」
まぁ、誠二が抱きついてくるのはいつものことなんだけど、どうにもまだ耐性がついていないようだ。
「やっぱ、かわいー!」
「…はい?」
誠二から出た言葉に私は自分の耳を疑った。パードゥンミー?ごめんねー!発音悪くて!
「ごめん。誠二、今なんて?」
「だから!が可愛いって」
「…あり得ない」
「な、何で?!」
「お世辞でも言いすぎだよ。誠二」
「えー。別に俺、お世辞言ってるわけじゃないって」
そういわれても、もう、さっきから鳥肌がたって仕方がない。翼にこんなの聞かれたら…私、生きてく自信ありません。
「なにやってんだよ。そこの馬鹿二人」
ほらほら、こんな風に馬鹿にされるのが似合ってる…って、あれ?
「……」
私は恐る恐ると誠二越しに声のした方に顔を向ける。 どうしよう…。目の前に立っている人物から黒いオーラが背後からはっきりと見える!!
「つ、翼…」
「どうでも良いけど、人の部屋の前でイチャつかないでくれない?」
「べつにそんなんじゃ…って、え?」
"人の部屋の前"?ってことは、ここは翼の部屋の前?
「ぇ…えー!」
翼の部屋って、此処?!なんだ!じゃあ迷子じゃなかったよ!!
「よかったな!!」
「うん!ありがとう!誠二!」
目標を遂げた私は、ガシッと強く誠二と握手を交す。
「…はぁ」
その時、その様子を見ながらも、翼が未だにどす黒いオーラを放ちながら 私達をにらんでいたことに私は気づいては居なかった。
「本当にありがとう!誠二!」
あ!ひとつ言っておくけど、お前ら部屋の名前プレート見ろよ!っていうツッコミはいらないから!
「いいって別に。じゃ、俺も部屋に帰るよ」
「うん。おやすみ!誠二!」
「おう!じゃーなー!椎名も!」
私も誠二に手を振り、笑顔で帰るのを見届けたのだけど… 私は、この後徐々に近づいてくる黒いオーラの餌食になる。