12話 乾のメニュー


レギュラー陣の練習が今日から始まり、顧問の竜崎先生も来て本格的に全国大会へむけての練習が開始した。 ちなみにレギュラー陣の練習メニューは、乾先輩が組んでくれいるので、私もそのお手伝いをすることになった。

「全国大会までの今後の長い試合を乗りきるには、まず足腰の強化からだ。、準備はいいかな」
「はい!乾先輩」
「さぁ、みんなこれを足につけて」

私は、乾先輩が持ってきたいくつかのパワーアンクルのうちの一つを手にもち、乾先輩に渡す。

「250gの鉛の板を二枚差し込んであります」
「両足で1kgの負荷がかかるよ」
「ふーん。そんなにたいした重さじゃないっスね」

桃の言うとおり、皆も軽そうにパワーアンクルを付ける。その間に私は、赤と青と黄のカラーコーンを並べる。

「赤・青・黄のカラーコーンと同様にボールの溝にも塗り分けた」
「にゃるほどね!」

菊丸先輩は、瞬時にやることを理解してラケットを構える。

「乾先輩」
「うん」

私が乾先輩にボールを渡すと、乾先輩は菊丸先輩にめがけてラケットでボールを打つ。

パアン!

「黄!」

菊丸先輩は、見事にボールと同じ色のカラーコーンに瞬時に判断して当てて見せた。

「流石だな。動体視力に関して、英二の右に出るものは…」
「いるよ、ほら」
「リョーマも流石ですね」

不二先輩と大石先輩と私は、リョーマと菊丸先輩の動体視力に感心する。私は、ちらりと時計を見て、乾先輩に伝える。

「乾先輩、そろそろ時間です」
「ああ。1kgを実感する頃だ」

リョーマと英二は、つけたパワーアンクルに足の重さを感じる。

「体力が落ちると、判断力も鈍る」
「なるほど…こりゃ、きついかも。あ、赤!」
「…菊丸。それ、青じゃない?」
「え?あれ?嘘!…わー!!」

菊丸先輩は、乾先輩の言葉に翻弄されてボールを空振りする。

「乾ひでー!やっぱ赤でいいんじゃん!!」

乾先輩は、なかなかスパルタなようです。

「思ったより動けたね」

流石のレギュラー皆も、そうとう疲れたようだ。皆、コートの上に倒れこんでしまっている。

「お疲れ様です。河村先輩」
「ありがとう。ちゃん」
「いえ!」

私は、乾先輩が個々の皆に鍛えるべきアドバイスをしている間に、疲れ切って汗をかくレギュラーの皆にタオルを渡す。

「はい、リョーマ」
「ん」

ひょいとリョーマは体を起こし私からタオルを受け取る。

「そして、越前」

乾先輩の声に、思わず私もリョーマもそちらの方に耳を傾けた。

「毎日、二本ずついこう」
「牛乳…」

たしかに、リョーマの今の一番の弱点と言えば身長だもんね。私はうんうんと頷く。

「いくら牛乳飲んだって10日間でデカくなるわけ」
「「飲めよ!」」
「…」

レギュラー陣の先輩全員に、リョーマはそう言われてしまい返す言葉がない。

「乾が言うんだ。間違いないだろう」
「そうですね」

手塚部長の言葉にクスクスと私は笑う。

「じゃあ、そろそろ本題に戻って、鉛の枚数を一枚追加…」
「待てよ、乾」
「五枚でいい」
「お前と同じ枚数だろ?」

皆、乾先輩がジャージの下につけていたパワーアンクルに気付いていたようだ。

「乾先輩、どうせ五枚までやるんでしょ?」
「六枚でもいーけどね」

どうやら、皆相当な負けず嫌いらしい。でも、一番の上手は…。

「いや。レギュラーは、十枚まで」

乾先輩のようだ

「きゃっ!」

さすがのこの言葉に、レギュラーの皆から乾先輩に怒りのボールが飛んできてしまった。私は、逃げるように乾先輩の隣から離れた。

「よくもこれだけ負けず嫌いが揃ったもんだよ」
「そうですね」
「お前さんもね」
「皆に比べれば、私なんて可愛いものです」
「よく言うよ」

これから、青学テニス部は中学ナンバーワンを目指す



「あ!不二先輩!」
「やあ、ちゃん」
「お疲れ様です!」

部活が終わった帰り道を一人で歩いていると、不二先輩が前方を歩いているのを見かけた。

「あれ?ちゃんの家ってこっちだったっけ?」
「今、知り合いの家でお世話になってるんです!」
「へー。そうなんだ」
「今日からの練習、大変そうですね」
「うん。でも、テニスが好きだから」

不二先輩だけじゃなくて、レギュラーの皆、練習しててすごく楽しそう。だからこそ、私も応援のし甲斐があるんだ。

「ところで、ちゃん」
「はい」
ちゃんって、以前から越前と知り合いなんだって?」
「え。あ、はい。まぁ、親が知り合いで」
「桃に聞いたんだ」
「そ、そうなんですか」

私は、思わず不二先輩から目線をそらしてしまう。別にやましいことなどないのだけれど…。

ちゃん、最近ちょっと変わったよね」
「…え?」

不二先輩の言葉に、驚いて私は顔を上げる。

「僕の気のせいかも知れないけど、可愛くなったよね」
「なっ!不二先輩!からかわないで下さい!」
「ほら、その反応とかも」

不二先輩は、そう言いながら私の方を指す。
私は、思わず動きが止まり、返す言葉も出てこない。不二先輩は、いつもそうだ…と、私が拗ねていると不二先輩は不敵な笑みで笑う。

「大切な人が出来たのかな?」
「…はい?!」
「あはは、違ったらごめんね」
「もう!怒りますよ!不二先輩!」

その後も、私は不二先輩にからかわれながらも家へとたどり着いた。



「はぁ…疲れたわ」
「おかえり」

どうやら、リョーマもちょうど今、帰ってきたところのようだ。リョーマが、玄関で靴を脱いる様子を私は目にする。

「リョーマ…」
「なに?」

リョーマはの方は見ずに、返事だけをする。

「やっぱり、リョーマが一番落ち着くー!」
「は?ちょっ!」

私が玄関で座って靴を脱いでいたリョーマに思いっきり抱きつくと、驚いたリョーマは、支え切らずにに押し倒される。

「昨日、誰かのせいで頭打ったばっかりなんだけど…」
「そう!私、その時から思ってたのよね!」
「なにを?」

自分の言いたいこととは、違う反応を見せるにリョーマは呆れながらも耳を貸す。

「リョーマの体温は、落ち着く!」
「…だからって、急に抱きついて来ないでくれない?」
「やだー!」
「やだって…」
「あら、賑やかだと思ったらなにやってるの?二人とも」
「倫子さん!ただいまです!」
「おかえりなさい」

は、倫子を目にするとリョーマの上から退いて、倫子に笑顔で話しかける。

「早く靴脱いで、二人とも上がりなさい」
「はーい!」

は、何事もなかったかの様に急いで靴を脱いで家に上がった。

「…はぁ」

そんなマイペースで何を考えているのか分からないにため息をつき、リョーマも脱ぎかけの靴を脱いで家に上がった。 リビングにくると、新聞を持ってニヤリと笑いながら南次郎はリョーマに詰め寄る。

「おう。青少年」
「…」

リョーマは、いつも以上にどこか楽しそうに笑う父に嫌な予感がして無視をして通り過ぎようとするが、父の言葉に思わず一度足を止めてしまった。

「面白いこと教えてやろうか?」
「別にいい」
「まぁ!聞いてけって!」

リョーマは、南次郎に無理矢理その場に座らされる。

「一体なに?」
「お前が知らないちゃんの父親の話をしてやろうって言ってんだよ」
「は?」
ちゃんの親父とは、小学校からの付き合いなんだが、昔からスポーツも勉強もこなしちまうムカつくやつだったよ」
「…」

なんで俺にそんな話を…。とリョーマは思いながらも、悔しげに話をする南次郎に息を吐く。

「それなのに、全部どこかやることが危なっかしくてな。お陰で、こんな長い付き合いになっちまったが…」

リョーマは興味なさ気にテーブルに肘をつく。

「それでも今は、あいつも小児科医だ。大病院から研究の声がかかるって言うんだからすげーんだろうよ」

リョーマは一体、南次郎がなにを自分に言いたいのかが全く理解できない。 このの父親の話のどこが、リョーマにとって“面白いこと”なんだかと疑問にすら思う。

「つまり、ちゃんはそんな医者の父親を持つ娘ってことだ」
「だからなにが言いたいわけ?」
ちゃん見てたらわかるだろ」
「なにが?」
「どう見ても、父親譲りじゃねーか。あの危なっかしい性格」
「…なるほどね」

南次郎はいつもは、なんの根拠もない話をするが、今回ばかりは南次郎自身がの父親と小学校からのつきあいなだけあって、どこか説得力がある。 あのの何をするにでも真っ直ぐで、お節介焼きですぐに他人の心配をしたり、人一倍真面目な性格もおそらく父親譲りだろうとリョーマは思った。

「そこで、ひとつ忠告しといてやるよ」
「忠告?」
「ちょっとでもちゃんから気を抜いて目を離すと、えらい目みるぞ」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。あいつがそうだったからな。勝手に消えて勝手に戻ってきやがるんだよなー。全くむかつく奴だぜ」

南次郎はぶつぶつと不満を呟きながら、新聞を手に持ってどこかにいってしまった。

「変な親父…」

リョーマは、南次郎に疑問を持ちながらも、立ち上がり自分の部屋に向かおうと立ち上がったその瞬間、悲鳴が響いた。

「きゃっ!わっ!」

倫子の手伝いで洗濯物を運んでいたが、廊下で躓きドシーン!と倒れる音をたてるのがリョーマの耳に入る。

ちゃん!大丈夫?!」
「ごめんなさい!つまずいちゃって!」

どうやら洗濯物はが腕に抱えておりなんとか無事のようだが、 洗濯物のかわりに、痛そうに廊下で尻もちをついて倒れているを見ているとこっちが可笑しくなりそうだ。

「…確かにね」

危なっかしい。という南次郎の言葉に改めて納得するように呟く。リョーマは、静かにの方へと足を進めると、それに気付いたがパッと顔を上げる。

「なにやってんのさ、ドジ」
「なっ!」

座り込んで洗濯物を抱えているの腕を引っ張り上げて立たせると、リョーマは得意げに言い放った。

「まだまだだね」