14話 地区予選開始
「越前と桃がダブルス!?」
「二人の希望だそうだ」
地区予選会場で、青学の一同はざわめきを見せた。
「いやぁ、俺も吃驚したぜ」
「なんで桃が吃驚するのよ」
「お前の家のことに決まってんじゃねーか!」
「あはは…そっちね」
「あいつらしいよ」
「今日は、お願いね」
「任せとけって!」
本当、やることが全部リョーマらしい。 桃にばらした理由も本人は、あれ以上何にも言ってくれなかったけど、私のことを心配してくれたにちがいない。 ちょっとこの前は、桜乃ちゃんを家まで送っていって遅くなっただけなのに…。
「(まったく…優しい癖に不器用よね)」
「なるほどなー、そういう訳か!」
「言っておくけど、皆には言わないでよ」
「俺は別にいいけどね」
「リョーマは良くても、やっぱり良くないよ!」
自分が住んでいることで、リョーマがまた噂になる可能性があるなんて絶対に嫌だ。
「別に言わねーって。その方が、おもしれーし」
「桃先輩…性格悪いっスよ」
「ちゃんと応援してやるから安心しろって!」
「それはいらないっス」
「応援ってなんの?」
「あー!なんでもねーよ!」
「はぁ…」
「?」
は首をかしげて二人をみた。
「5試合中、3勝した方が勝ち進めます」
試合前の審判のルール説明時に、私はおとといリョーマと桃がダブルスで負けたという相手を目にする。
「(なるほど、あの人達か)」
「第1試合ダブルス2前へ!」
「さて…」
竜崎先生は、不安そうに桃とリョーマを見る。そりゃあそうだろう…正直、私だって心配だ。
「お前らが天下の青学だったとはなぁ」
「ユカイだぜ!」
「シングルスなら、お前らに分があったのにな」
玉林中の二人は、リョーマと桃を馬鹿にするかのように笑う。
「だろうね…でもさぁ」
そんな時、リョーマが発する声に玉林中の二人の動きが止まる。
「相手の土俵でたたきのめした方が、ユカイだからね」
私は、どうもケンカっぱやいリョーマと桃に頭を抱えた。
「もめてるね」
「…みたいですね」
「なるほど、あれが原因ね」
不二先輩はクスクスと楽しそうにしているけど、正直言って笑い事じゃない…
「よし越前!阿吽戦法いくぞ!」
「ウイース」
「本当にやるんだ…」
全国大会にむけての第一歩が始まった。
「阿ー!」
「吽ー!!」
ただ、真ん中をどちらが返すかの合図だが、これ以外思いつかなかったのだろうかとつくづくは思う。
「息あってるし、本人達がいいなら良いけど…」
「なんか恥ずかしいね」
「(全くもって、その通り!)」
隣で一緒に試合を観戦しているカチロー君達の言葉に思わず同意する。 しかし、それでも一時はその阿吽戦法でリョーマと桃のペースで進んでいた試合だったが…。
「あ!だめ!!」
ガチっ!
「あーあ…」
「やりおったな…」
「真ん中以外は、意志の疎通ゼロだな」
リョーマと桃が縦にならび、コートががら空きになったスペースに球を出したが、二人が二人ともそのボールに反応してしまい、ミス。
「…大丈夫かな?」
「うーん、難しいな」
乾先輩も複雑そうな顔をするが、試合はどんどん青学が不利な状況へと追いつめられていく。その上…
ガン!
「わ、わりぃ!越前!」
「…」
ゴン!
桃の次は、リョーマが放ったボールが桃の頭に直撃した。
「桃先輩!そっちは!」
「あーあ…」
「ゲームカウント!2-0!玉林リード!」
お互いの攻撃で自滅ラッシュが続いている。一体これからどうするんだろうと思ったその矢先だった。
「え?」
ザザッ
ザァー
リョーマ達は、ラケットで線を縦に引いてコートを半分に割った。
「なーんだ桃先輩、同じこと考えてたんだ」
「ああ。ややこしいのは、もう抜きにしよーぜ!」
「この線からこっちの球は全て俺が取るんで」
そこからお互いがシングルスをやり出した二人は、もう完全に青学のペース。
「ダブルスだっつーのに、もう…」
桃のダンクスマッシュも見事に決まる。
「泉!ウオッチだ!その高さはアウトだぜ!」
「残念…入ってるよ」
ビシッ!
「ラインぎりぎり!」
リョーマも、いつものプレーが完全に戻った。
「けっこう楽しいね、ダブルス!」
真ん中だけ、ダブルス…
「ゲームセット!ウォンバイ青学!」
はらはらしたが、こんな勝ち方も二人らしいと思った。
「やっぱ男は…」
「ダブルスでしょ!」
その後、青学の最強のレギュラー陣により、5勝0敗で青学の勝ちとなったんだけど…
「あれ越前、どこ行くんだ?」
「ファンタ飲んでくる」
「あ!私も行く!」
試合には勝ったものの、リョーマは次の試合、桃はその次の試合が謹慎と竜崎先生に言い渡された。
「…」
リョーマは相当、スネているみたいだ。
「リョーマ!」
「…」
「リョーマってば!」
「…なに?」
「そんなに拗ねないでよ」
「拗ねてない」
「さっきの試合も、良かったよ!」
「…どこが」
「私、リョーマのシングルスデビュー戦、楽しみにしてるんだから!」
は、ゴトンと自販機でファンタを2本買うと、一本をリョーマに笑顔で渡してどこかに行ってしまった。
「本当…上手いよね」
リョーマは、から渡されたジュースを開けて一口飲んだ。