11話 反応の違い
「へー、阿部君って武蔵野の榛名さんのボール捕ってたんだ」
「そう言ってたけど。誰かさんが居ない時に」
ちょっとどこか棘がある言い方をしながらも、部活からの帰り道。
いつもの如く自転車のペダルを漕ぎながら孝ちゃんが教えてくれた。
「…やっぱ思い出すと腹立つな」
「え?何?」
孝ちゃんはぼそりと呟くと、突然、ガンッ!と足で勢いよくペダルを踏み込み、速度を上げて自転車を漕ぎはじめた。
自転車は前のめりに凄まじい速度で加速している。
「きゃっ!こ、孝ちゃん!スピード!!スピード出し過ぎ!」
「つかまってろ!」
「え!えええ!」
こ、こわかった…!
自転車ってこんなにスピードが出るものなのかということを改めて思わされた。
なんとか無事に家までたどり着けたことに、心から感謝したい。
私は、くらくらとする頭で孝ちゃんの自転車から降りた。
「」
「ふぇ?」
孝ちゃんに名前を呼ばれて振り返ろうとした瞬間、後ろから強く抱きしめられた。
最初は、頭がぼーっとしていた私だったが、次第に脳内が正常に活性しだし、今の状況が理解できると私の体は一気に熱くなった。
「な、ななっ!こっ!」
「三橋か。お前は。何言ってるかわかんねーよ」
私の体を抱きしめる孝ちゃんの腕の力がさらに強くなる。
孝ちゃんの息が私の首元に掛り、耳元で囁かれた「」という声が熱く私の脳内を麻痺させる。
「またフリーズしてんぞ」
「だ、って…」
「隙ありすぎなんだよ。お前は」
そういうと孝ちゃんは私の頬に手を添え、先日、私の頬に口付けた時と同じように私の横髪を指で私の耳に掛ける。
これは、わざとだ。ということがはっきりと私にも分かる。だって次にされる行為を予想出来てしまうから。
「…顔真っ赤だな」
「そ、そりゃあ、孝ちゃんが、触る…から」
「っ!」
一瞬、再び腕の力を強めた孝ちゃんだったが、「…ふーん」と言うとそっと抱きしめていた腕を緩めて私を解放した後で、私の手に自身の指を絡める。
孝ちゃんは、真っ赤に頬を染めたままの私を、真っ直ぐに食い入るように見ている。
「…」
その次に、何かを試すように、孝ちゃんは私の頭に手を添えた。
私が、孝ちゃんの手に反応するようにピクッと肩を震わせると孝ちゃんは目を大きく見開いた後、満足げな表情で口角を釣り上げる。
「俺が触る方が反応いいな」
「ん。…え?」
「(俺も単純だな。こいつの反応の違いに気付いただけでどうでも良くなっちまった。つか、こんな反応…自惚れしそうになる)」
私が首をかしげて孝ちゃんを見ていると、 それに気付いた孝ちゃんが続きの様に、先程、指で私の横髪を掛けた耳に手を触れた後で、顔を近づけ私の頬に口付ける。
「お前、早く自分の気持ちに気付けよ。そしたら…」
孝ちゃんの指が私の唇に触れ、ニヤリとした笑みで私を見下ろす。
「こっちも俺が奪ってやれるから」
ビリビリと電気が走るように孝ちゃんの言葉と仕草に反応してしまう。
だめだ…。今の状況がとても恥ずかしいのに…だけど、だけど、そんなこと以前に…。
孝ちゃんが、めちゃくちゃ格好いい…!
いや、前から格好いいのは知ってる。だって、だって…私は幼馴染だから。
だけど、こんな孝ちゃんは…知らない。
孝ちゃんへの大好きが、幼馴染としてなのか、何なのか。
まだ私には分からない。
でも、でも…やっぱり私は孝ちゃんが大好きだ。