13話 田島の事情


思えば最初から、いつも俺じゃない方を見てた。
幼馴染、名前呼び、登下校。
それを、ずりーなーって思うようになったのは、いつからだろう。

「悠君!レン君!起きて!次、移動教室だよ!」
「おーい。起きれっかー?」
「んん…?」

聞きなれた二人の声で目が覚める。
そうだ、ここは教室だった。そして次は、化学室だったということを思い出す。

「そうだった!!三橋!起きろ!」
「うう…」

三橋の肩をゆすり、目を覚まさせ、自分も急いで机から教科書を出す。

「ってかお前、いつから三橋のこと下の名前で呼んでんの?」
「昨日から。だって同じクラスで孝ちゃんも悠君も名前呼びなのに、三橋君だけ名前呼びじゃないのも変かなって」
「ふーん…まぁ、いいや」
「あれ、孝ちゃん。嫉妬?」
「…調子乗んなよ」
「冗談だよ!怖いよ!孝ちゃん!」

俺と三橋が準備を急いで進めている合間に、泉とが立ってそんな話をしている。

「お待たせ!」
「俺、も!」

「じゃあ行くか」と四人で教室を出る。
俺と三橋の前を歩く泉との背中をじっと見る。

「やっぱずりーなー」
「なに、が?」
「なぁ、三橋もそう思わねぇ?最初に会った時からさ、は泉の方見てんだもん」
「幼馴染、って」
「いや、そうなんだけどさ。そもそもそれがさ、ずりーよ」
「田島、君。ちゃんの、こと…」
「好きだよ。すっげー好き」
「おお俺も!ちゃん、好き、だよ!」
「!!だよなー!」
「うん!」

三橋と俺が手を握り合っていると、その様子を見た泉が眉を寄せる。

「お前ら、気持ち悪ぃな。なんの話してんだ?」
「俺も三橋ものこと好きって話!」
「はぁ?」
「あはは、嬉しい!私も好き」
「おい。絶対どっか噛み合ってねぇのに、お前まで入んな。ややこしい」

面倒くさそうにいう泉が息を吐くのを、が笑って見ている。
そんな時、「ちゃん!」とクラスメイトの女子がを呼びにきて、 は俺らに「先行くね」と笑いかけて、そちらの方に掛けて行った。

そうだ。思えば、打球を放った時に「すごい!」と笑顔をみせたの表情がまた見たいって思うようになったのが始まりだったんだ。

やっぱり見たい。そしてその笑顔は、自分に向けて欲しい。

「んんんー!ぜって―負けねぇ!がんばろうな!三橋!」

「う、うん?」と頷く三橋の肩を組んで、俺は泉に詰め寄る。

「だから、お前ら噛み合ってねぇんだっつーの」
「泉、逃げんのか?」
「は?逃げるわけねぇだろ」

そうだ。そうじゃなきゃ面白くない。
奪うなら、とことん。ゲンミツだ!