20話 データ分析


「孝ちゃん!私、ちょっとだけ千代ちゃん手伝って行くから先に行ってて」
「(…どうもはぐらかされるんだよな)」

この頃、様子が少しおかしいことを問い詰めたいところだが、どうも上手くいかない。 どうしたものかと考え込みながら泉がを見つめていると、が首をかしげる。

「孝ちゃん?」
「あ…いや、篠岡?」
「うん。桐青のデータ分析してくれてるの。だから今日は他の仕事は全部私がやるつもりなんだけど、それでもギリギリみたいだから」
「篠岡もだけど、お前も無理すんなよ」
「大丈夫!ありがとう」
「っ!はぁ…」

いつものように微笑むの視線が時々、すごく愛おしく感じてしまう。
そんなことを思いつつも泉が、何気なくの右手を握ると、の顔が少し赤くなった。

「ど、どうしたの?孝ちゃん」
「いや…なんとなく…」
「あ、の、孝ちゃん。嬉しいんだけど私、そろそろ行かなきゃだし…」
「わ、わりぃ」

予想以上の反応に驚いて思わず手を離してしまった。 から気持ちを聞き出す前に、自分の方がどうにかなってしまいそうだ…。


「千代ちゃん、此処までで大丈夫?」
「ありがとー!ちゃん!」

が頼まれていた分の桐青のデータを手渡すと、 眠たそうな眼をこすりながら、千代が受け取る。
きっと家でも遅くまでやっていたに違いない。

「それじゃ、私先に行ってるね」
「ごめんね。本当にありがとう。他の作業も任せっきりなのに、こっちも手伝って貰っちゃって…」
「全然大丈夫だよ!千代ちゃん、こんなに頑張ってくれてるんだもの。これくらい何ともないよ」
「ううん。普段から朝も夜もちゃんに準備や片付け全部やってもらってるもの。だから、こっちは私に任せて!」
「千代ちゃん、家遠いもの。それに私は、孝ちゃんに時間合わせてるだけだから気にしなくていいのに」

千代ちゃんのデータ分析は凄い。私じゃ、きっとここまで出来なかったと思う。
見習わなきゃ。だけど、出来ないことを意気消沈していても仕方がない。私は私にできることをしよう。

「がんばってね!」と視聴覚室でデータ分析を再開させた千代に手を振り、も部活へと急いだ。


「あ!ー!やっと来た!」
「ごめんね。遅くなっちゃって」

が着替えを終えてから部活に行くと、田島に抱きつかれながら出迎えられる。
それに気付いた百枝が笑顔でに近づく。

「こっちのことは気にしなくても良かったのに」
「いえ、そう言うわけには。それにデータは千代ちゃんが頑張ってくれてますから。私はこっちで頑張ります!」

がそう答えると、「とっても助かるよー!」と百枝から両手を強く握られた。


「ごめん!ちゃん、氷あるー?」
「あ、ちょっと待ってー!」

水谷の声ではベンチの方へと走った。

「(本当に助かるわ―…。正直自転車の二人乗りは違反だから禁止させなきゃいけない立場なんだけど、ちゃんが泉君と一緒に居てくれるメリットの方が多いから下手に登下校のスタイルを変えさせたくないのよね。むしろ困る…!)」

泉君がいないと、ちゃんにも早上がりして貰わなきゃいけない距離だし、朝も来て貰えなくなっちゃう。 自転車持ってないみたいだし…という危惧を巡らせながら百枝は、自分が気付いていて見て見ぬをふりしている現状にため息をついた。

「(大丈夫だと思うけど、念の為に泉君には運転気をつけるように釘指しといて、あとくれぐれもバレずに上手くやるようお願いしておこう…)」

なんとも変な指導だが現状では仕方ない…と割り切るように、泉に声を掛けた。


「え?監督にバレてた?二人乗りしてるのが?」

部活終わりの帰り道で二人になった時、泉がに百枝から言われたことを話す。

「怒られちゃった?」
「いや。むしろバレないように気をつけてやれってお願いされたな」
「…わざわざお願いされるのもなんか変な感じだね」
「朝晩、お前が居ない方が困るからだろ。あ。そういえば花井にも前、似たようなこと言われたな。篠岡早めに帰らせられるから助かるって」
「私、自転車持ってないもんなぁ」
「そもそも、まともに家まで乗れねぇだろ」
「乗れるよー!今も部活で水運ぶのに使ってるじゃん!」
「それ見てても危なっかしいから却下だっつてんだよ。あ。部活の時は貸してやってるけど、他では使うなよ。お前に自転車での長距離移動は無理だ」
「そんな全否定しなくても…」
「別にいいだろ。これからも送ってやれるんだから。監督もいいって言ってるし」

そこまで全否定されてしまっては仕方がない。
は渋々了解したように、「…ありがと」と答えた。

「じゃあ三年間、ここ私の席ね」
「そもそもお前以外乗せてねぇよ」
「そうだっけ?」
「そうなんだよ!」

少しムッとしたように言う泉に対して、 はきょとんとした表情を見せた後で、泉の背中に抱きつく腕を強める。

「やった!なんか嬉しい!」
「…お前は俺をどうしたいんだよ。まじで」

の気持ちを問い詰めてやりたい衝動を抑えながら、自転車を漕いだ。