24話 関係の変化


。ちょっといいか?」
「なに?タカヤ君」
「この前の練習試合のスコア見てぇんだけど。三橋じゃなくて、沖と花井が投げた方」
「ちょっと待ってね」

パタパタと掛けて行くを目にしている阿部の様子を、遠くから泉が不機嫌そうに睨みつけていた。
そんな泉を気に掛けるように水谷が泉に声を掛ける。

「なにそんな怒ってんの。泉」
「…事故でも許せることと許せないことがあるんだよ」
「なにが?」
「パンツだよ!」
「え!まじでなんの話?!ちょっ!泉!」

それ以上は言おうとはせず、阿部とに近づき、阿部と話をしているの首を後ろから絞める。
苛々する。先日の喧嘩で走っていったの手を掴めなかったことや、 偶然にも泣いていると阿部を出会わせてしまったこともそこで事故とは言え、 パンツを見られたと聞いた時にはどうしてやろうかと思った。ひとつの自分の失態がここまで最悪なことになるなんて泉自身思いもしなかっただけに余計腹が立っていた。

「いつも隙だらけ過ぎるんだよ!お前は!」
「こ、孝ちゃん?!苦しい…!」

「首しまってるよー!」とが泉の腕から逃れようとジタバタとしているのを他所に、泉が顔を上げた瞬間、ぱちりと阿部と目が合う。

「距離がちけぇよ」
「泉が俺にそれを言うか?」
「阿部は信用ならねぇからな」
「あれ?二人とも何かあった?」

の言葉で、泉と阿部が気まずそうに息を飲む。

「だめだよ。喧嘩は」
「してねーよ。それにお前が言うな」
「あはは、本当だね」

勘違いで昨日、盛大に泉とやらかした後だっただけに泉の言葉に可笑しそうに笑う。 嬉しそうに自分の首に回っている泉の腕をきゅっと掴む。
そんなに二人の視線が集まり、 阿部も泉も互いにに対して同じことを思い、心臓が大きく鼓動するも、 決してこの場で口に出しては言えず熱を帯びた頬を隠すようにから視線をそらした。

「(くっそ…。やっぱ可愛いな…)」

泉はの首に回す腕に思わず力が入り、の肩に顔を埋める。
するとの首筋に泉の髪が掛り、くすぐったそうに身構えたに気付くも、 これ以上ここで攻め立てるわけにもいかずに、ようやく泉がから手を離した。

阿部が息を吐いて、の頭を撫でると、 「これ、借りるぜ」と言ってスコア表が書かれたノートを手にして花井の方に足を進めた。


「なに?あ。そういえば孝ちゃんも何か用があったんだっけ?」
「なかったけど今、用が出来た」
「え」

泉は向き合うように、の頬に両手を添えて額を合わせるように顔を近づけるとの顔が一気に赤くなる。
その反応に泉が噴き出すように笑った。

「相変わらず真っ赤だな。お前は」
「だ、だって…!ってか孝ちゃんの用は?!」
「だから今その用を済ませてんだよ」
「へ?」
「さっきから苛々してしょうがなかったからな」
「苛々って…。孝ちゃん、なにかあった?」
「ちょっとな。まだ許してねぇけど…まぁ、その反応見れたからいいや」
「どういうこと?やっぱタカヤ君となにか…」
「なにもねぇって。つーか、そもそも別にいいんだよ。お前は気にしなくて」

泉にそう言われるも、まだ心配そうな目をしているの頬を撫でて顔を自分の方に向かせる。

「お前、今なに考えてる?」
「え。なにって…」
「俺のことじゃねぇのかよ」

拗ねたようにそういう泉にの心臓がドクン!と高鳴る。

「こ、孝ちゃんのことだよ!苛々してるって言ってたから心配してたんだよ!」
「…ならいい。他の奴のこと考えてんなら、許せねぇけど」
「よくないよ。私、本当に心配してるのに…」
「心配いらねぇよ。でもちょっと嬉しいかもな」
「嬉しい?」
「お前が俺のこと考えてんのは嬉しい」

真っ赤な顔で驚いたような表情をしつつもなにか言いたげなを見て、泉は可笑しそうに笑う。

「ぷっ…くく。なんだよ。そんな顔でなにが言いたいんだよ」
「あっ、や、なんでも…ない。吃驚しただけ。私も…嬉しいから」
「え?」
「私もね、孝ちゃんが私のこと考えてくれるのは嬉しい。だから一緒だね」

嬉しそうに言うのその言葉で泉の動きがピタリと止まる。

「(これはどっちだ?普段から言いそうだし、脈ありかどうかわかんねぇ…)」

「そろそろ休憩おわるよー!」という監督の声で、泉は我に返り、から手を離した。

「(もっと聞きてぇとこだけど、流石に時間ねぇか)」

この間の嫉妬といい、最近、前以上によくなったの反応に加えて、はぐらかそうとした言葉の真相。 まだから聞けてないことがいっぱいある…。
「あー!くそっ」といいながら頭を掻いた後、泉は顔を上げてを真っ直ぐに見る

「絶対逃がさねぇからな。ふざけんじゃねぇっつーの!誰にもやらねぇよ!バーカ!」

そう言ってから手を離してグラウンドに急ぐ泉の背中を見送り、 は未だに熱がこもる顔を隠すように自分の手で頬を覆う。

「(え、え。今の何?!まさか私の気持ち、孝ちゃんにバレちゃってるのかな?!)」

どうしよう、どうしよう…。でもまだ認めたばっかりで私も心の整理についていけてない…。 とぐるぐると回る思考を振り払うように、パン!とは手で頬を叩く。

「(考えるのはあと!今は部活!まだやらなきゃいけないこといっぱいあるんだから…!)」

「千代ちゃん!」といつものように篠岡に声を掛け、も自身の仕事に取りかかった。