35話 球技大会二日目②
「あれ?は?」
「浜田とどっか行ったよ」
「はぁー?」
部活がない今日くらい、帰りにどこか連れて行ってやろうと思った矢先にこれか。と泉は息を吐く。 頭では分かっているが、こういう不安は何一つ変わらないものだと改めて思わされる。
「しかも、あいつ電話でねぇし…」
「なに??」
「おー…」
三橋と喋っていた田島が泉の元に近づき、泉の携帯を覗き込む。
泉が携帯を片手に教室でどうしたものかと思っていると、暫くして泉の携帯が振動する。
「…おい。」
不機嫌そうに泉が通話ボタンを押した瞬間、「ごめん!孝ちゃん!」というの声が電話越しに聞こえてくる。
「ごめんじゃねぇよ。浜田とどこいるか知んねぇけど。俺に言ってから行け」
少し怒ったようににそう言うと、「だって言っちゃだめって言われてたから…」と返す。
「よくわかんねぇけど、後で言い訳聞いてやるよ」
電話越しにそういって電話を切る泉を、じっと田島が見る。
「泉さ、に告るまで何年かかった?」
「えっと4年ちょい…って、は?!なんで!」
田島にはに告白したことなどなにも言っていない。 なのに、告白したことを分かっているかのような口調で尋ねた田島に泉は驚いたように目を見開く。
「そりゃ分かるよ。だって俺、のこと毎日見てるんだしさ」
「…だったら何だよ」
「今、俺がに告ったら困らせるだけかなって考えてんの」
「な…っ!は?!」
驚く泉に対して、「もう返事貰った?」と平然と尋ねる田島に、 「いや、まぁ、貰うには貰ったけど。まだ保留…」と詳細は言わずに簡潔に答える。
「ふーん。そっか」
「…なに」
「別に。随分余裕だなって思って」
「え」
「ごめん!孝ちゃん!」
ガラリと教室のドアが開き、の声が響く。
「!」
「わっ!悠君?!」
突然正面から抱き着いてきた田島に驚いたが手をバタバタとさせている。
いつも通りの二人のやり取りなのだが、先ほどの言葉が気がかりに感じてしまう上、妙に苛立ちを感じてしまう。
そんな苛立ちを振り払い、と田島に近づく。
「何してんだよ。帰るぞ」
「あ、うん」
田島からそっと離れて、パタパタと自分の机に鞄を取りに行くに泉は息をつく。
隣にいた田島とパチリと目が合うも、いつものようにニッとした笑顔を向けた後「三橋ー!俺らも帰ろうぜー!」と言って三橋の方に駆け寄っていく。
「ごめん。お待たせ…って、孝ちゃん?どうかした?」
「ん。いや…なんでもねぇよ」
「?」
少し様子がおかしい泉に違和感を感じながらも、教室を出る泉の後ろを追いかける。
「ねぇ、孝ちゃん」
パタパタと後ろから走って追いかけるが泉に話しかける。
「チアガール好き?」
「まぁ、見る分には…って、は?」
先ほどの田島との会話が頭の中を占めていたので、の話を適当に受け流しかけていたというのもあるが、 いつも田島がAVを貸す時に聞いてくるような内容で、反射的にそのまま返しそうになってしまった。
しかしその質問をしてきたのがだということに気付き、泉は慌てて言葉を止める。
「……」
「孝ちゃん?」
じっとを見つめる泉には、きょとんとした表情を見せる。
「唐突になんだよ。その質問は。浜田と一緒に居なくなったことと言い、お前また変なこと考えてんじゃ…」
「ちがうよ!ただチアガールって可愛いなぁっていう純粋な考えだよ!」
「だからその発想がどこから出たんだよ。そもそもお前、運動音痴だろうが」
「はっ!そうだった!スタンドに居る時は、私も何かしたいって思ったけど足引っ張っちゃうだけかぁ」
「いや、そもそもなんでチアガールだよ」
「あ。それはね…」
応援団でチアガールをやりたいと言っている篠岡の知り合いがいて、 人がいる教室では恥ずかしいからという理由で浜田にこっそり仲介をしてきた話をから聞かされる。
「運動音痴じゃないなら、私もできたんだけどなぁ」
残念そうな声をあげるに対して、泉は安堵したように息を吐く。
「(こいつが運動音痴で良かったって思っちまった…)」
ただでさえ、今は野球部が注目されているだけに困るというのに、 そんなものをマネージャーであるが着た日には注目を浴びるどころじゃないということが分かっているのかと問いただしたくなる。
残念がるが、少し頬を膨らませながら泉の方を見る。
「…見る分には好きなの?」
「え?」
「孝ちゃん、さっきそう言いかけた?」
そう問いかけるに泉は目を逸らす。
「早く帰るぞ。そうだ。バッセン行くか。久々に」
「え!行きたい!…けど今、誤魔化した!絶対!」
不服だというようには泉の腕を引っ張る。
「ねぇ、ねぇ。孝ちゃんってばー!」
「……」
下手なことをいうと勘違いされかねないと思い、 黙り込む泉には「もうー!孝ちゃん!」と少し怒ったような声が大きく響いた。