44話 永遠の片思い
「」
「あ。悠君」
「これ、奥に仕舞うね」
「うん。ありがとう」
部活が終わり、倉庫でが道具の片付けをしていると田島がそんなを手伝うようにボールの籠を奥に仕舞い込む。
「篠岡、もう帰ったの?」
「さっきね。片付けも終わりだし」
笑顔でいつものようには田島と会話をする。 そんなを見て、田島が突如言葉を発するのを止めた。
「悠君?どうかした?」
「…あのさ、」
「うん?」
田島はボールの籠から手を離し、真っ直ぐにの方を振り返って見る。
いつに無く真剣な表情をする田島には疑問に思う。
「悠、君…?」
が不安げに首を傾げた直後、田島がいつものようにニカッと笑う。
「。俺、のこと好きだよ」
「えっ…」
田島の言葉には目を見開く。いつも向けられている言葉と笑顔なのに、どこか空気が違うとはっきり分かった。
「言っておくけど、彼女になって欲しいの好きだから!」
「……へ?」
「あ!でも返事はいらない!むしろ言わないで!貰うつもりで言ったんじゃないし!」
「え?!あの…返事って…つまり、これは…」
驚いた表情をみせた後で、言葉を詰まらせるに、田島が得意げに口角を釣り上げる。
「そうだよ!俺、に告白してんの!」
「!!(だ、だよねー…!悠君があまりにもストレートすぎて、逆に疑っちゃった…!)」
が顔を赤らめはじめると、動揺したようにあわあわと手を動かす。
そんなを見て、田島が少し嬉しそうに笑う。
「やっと俺のこと意識してくれた」
「そ、そりゃあ…するよ…あんなこと言われたら…それに私、あんな風に男の子から言われたことないもん…」
「泉は?」
「え?!」
「に言わねぇの?」
「……言ってくれないわけじゃないけど、悠君とはまた違うかな」
そういえば最近、好きと言ってくれなくなった気がする。
いや、でも別に付き合ってるわけじゃないし、幼馴染みだし…。
また告白してくれるとは言ってくれたって、例えその前に他の人を好きになっても幼馴染みの自分には止める権利もなにもないんだと悟る。
「(わがままだなぁ…私…)」
幼馴染みから抜け出すことはまだ怖いのに、他のだれかに盗られるのはいやだなんて我が儘すぎる。
「は、泉のこと好きだよね?」
悠君の言葉に驚くも、悠君から聞かれている"好き"という意味が特別なものであると分からないほど、馬鹿じゃ無い。
こくんとが首を縦に振ると、田島はその答えが分かっていたかのように、「そっか」といいニカッとした笑顔をに向けた。
「あーあ!泉より俺の方が先にに会ってたら、絶対に俺を好きになってもらった自信あるのになぁ」
田島は冗談めかした口調だが、少し悔しげな表情をに向ける。
「悠君…私ね、ずっと孝ちゃんの野球を追いかけてたんだ」
「それって中学の時の話?」
「ううん。それより前から、今もずっと。でも全然敵わないの。いつも私を置いて遠くに行っちゃう…。私の永遠の片思いなの」
例え、幼馴染みという関係から、恋人という関係に発展したとしても、きっとこれは敵わない。
「悠君だってそうだよ。マネージャーの私は、選手の皆に片思いしてるんだ。だから部活も頑張れるの。私じゃあ、甲子園には立てないから」
「っ~!そんなこと言われたら、俺、勝ち目ないじゃん!」
「あはは!そうだよ。私の片思いは敵わないからこそ、いいんだから」
きっとにとっての野球は、恋の対象そのもので、そのきっかけも、全部泉なのだと知る。
「悔しいけどさ、泉はが好きだよ」
「え…」
「でも俺もが好き。だから、やっぱり俺は返事いらない」
「悠君…」
田島は、そう言って照れた表情を見せるの手を握る。
「。俺、が笑ってるのが好きなんだ」
「ゆ、悠君…。あ、ありがとう!」
「俺もと一緒!今は片思いでいいや!あ。そうはいっても、泉には負ける気ないけど!俺、にはいつも笑ってて欲しいからさ」
そういって向けてくれる笑顔がいつもの田島でも安心したように微笑んだ。