07話 死の入ファミリー試験


「ふぁ~。ねむい…」

ツナが大きな欠伸をした後、眼を擦っていると後ろから聞こえてきた声に、思わず肩を揺らす。

「よおツナ、
「あ。山本」
「おはよう!武!」

山本は、ツナの方を見て何かに気がついたように、「ん?」と首を傾げる。

「なんだツナ、寝不足か?」
「え!あ、うん。ちょっとね」
「昨日色々あったもんね」
「半分はのせいだろ!」
「え!なんで?!私、なにもしてないよ!」
「あー…ごめん。こっちの話だった…」
「え?」

少し様子が可笑しいツナに、は疑問に思うも、 昨日やってきたランボのことでツナが疲れきっているのは明白なだけに、問いただすのをやめる。

「ま、勉強で寝不足でねーならいいんだけどな」
「え?」
「落ちこぼれ仲間がへっちまうだろ?」

山本はツナの肩を組んで冗談めかしたように笑う。

「そういえば、って意外と勉強できんのなぁ」
「そういわれたら…」
「出来るっていう程じゃないけど…まだ補習は受けたことないよ」

クスクスと笑うに、思わずツナは昨日の出来事が頭に浮かぶ。 大人になったランボとが親しげに会話をする姿が、 今、目の前で自分のことをよそに山本とが楽しげに話をしている姿に重なる。 寝不足の原因の一つでもある、もやっとした胸の内を振り払うように、ツナは首を振った。

「それにしてもお前ら、一緒に登校してたのな。本当仲いいのな」
「武、前にもそんなこと言ってたよね?」
「ぁあ、だってお前ら見てると大抵一緒にいるだろ?」
「そ、それは!」
「ツナの家と隣だから、私が勝手にツナを迎えに行ってるだけだよー」
「え?」

いつもと違って、少し棘のある言い方を返す。 ツナは、そんなの変化に心当たりがあることに気がつく。

「…、まさか昨日の事まだ怒ってんのか?」
「怒ってるんじゃないもん、拗ねてるの。ツナは私に興味ないみたいだから」
「だ、だれもそんなこと言ってないだろー!」
「いいよー、なぐさめなんて。ツナは私が誰と絡んでても、嫉妬してくれないってことは、そういうことだもの」
「いや、だから、それは…って、何なんだよ!この恥ずかしい会話は!」
「なんかあったのか?」

昨日のランボとの間で起こった二人の出来ごとを知らない山本だったが、 「まーまー」と二人を宥めながらも、学校へと向かう。
その様子を見ながら、ニヤリとした表情を浮かべるリボーンがいたことなんて、気付くはずもなかった。



「っつーわけで山本の入ファミリー試験をすることにしたんだ」
「どういう訳だよ!」
「入ファミリー試験?」

授業が終わり、突然とツナは二人でリボーンからグラウンドに呼び出されたと思った矢先に発せられた意味のわからない言葉に、目をぱちくりとさせて状況を伺う。

「ああ」
「山本はクラスメートだぞ!友達だぞ!野球で忙しいんだ!」

ボンゴレファミリーに山本を引きいれようとしているリボーンの思考を理解したツナは、必死でリボーンに反論する言葉を投げかける。

「そもそも俺は、お前がを引き入れようとしてることにも納得してないんだぞ!」
「え?そうだったの?」
「当たり前だろ!」

今までツナは、リボーンがになにを言おうが、そういうことは言わなかっただけに、 思いもしなかったツナの思いには心を打たれる。

「別にいいじゃねぇか」
は、女の子なんだぞ!お前達の変な世界に巻き込むなよ!」
「ツ、ツナが私を女の子扱いしてくれてる…。夢かな?」
「感動するところが違うだろ!」

はぁ…とツナが息つく暇もなく、リボーンはツナに衝撃の言葉を投げかける。

「ちなみにもう、獄寺に山本を呼びに行かせたぞ」
「なっ!なんだってー!!」

ツナは嫌な予感しかしないリボーンの状況説明から急いで山本と獄寺のところへと向かう。

「ツナ!…もう」

私も行かなきゃ…とが足取りを早めようとした時、リボーンがの肩に乗り、話掛ける。

「まて、。昨日の事だけどな」
「え?なに?」
「ツナのやつ、口ではああ言ってたが…」
「うん?」
「結構、妬いてるぞ」
「…え」

最初はリボーンが何の話をしているのか分からなかっただったが、最後の言葉で瞬時にリボーンが言いたいことを理解する。

「ああ、俺の目は確かだぞ。だからそんなに苛めてやるな。ツナの奴、あれでも反省してるぞ」
「リボーン君…そう、だね。ツナには、ちょっと意地悪しちゃったよねー…」
「ま、あいつは餓鬼だからな。許してやれ」
「あはは!ありがとう。うん、もう大丈夫だよ」

ニヒルに笑うリボーンとそんな会話をしていると、の元に、だんだんとツナと山本、そして不機嫌そうな獄寺の姿が見えてくる。

「お、じゃねぇか」
「武!」
「ん?そっちは、ツナかの弟か?」
「弟じゃねぇぞ、俺はマフィアだからな」
「お、おい!」

ツナが止めるのも余所に、リボーンは山本と会話を進める。

「ボンゴレファミリーの殺し屋リボーンだ」
「そりゃ失礼した!こんなちっせーうちから殺し屋たぁ大変だなぁ」
「そうでもねぇぞ。お前もボンゴレファミリーに入るんだぞ」
「リボーン!」
「まーまー、相手は子供じゃねぇか」

山本は、リボーンの言葉が遊びだと思っているだけに、リボーンを止めようとするツナをなだめながら笑顔で返す。その一方で、獄寺はそんな山本をただ静かに睨みつけている。

「俺らもガキん時やったろ?刑事ごっこだのヒーローごっこだの」
「なっ!?」

ツナも山本が完全に子供の遊びだと思っていることに気がつき、嫌な予感が一気に襲い出す。

「ファミリーの十代目のボスはツナなんだ」
「そりゃグッドな人選だな」

リボーンも、遊びだと思っている山本の思考を逆手に取り、 ここぞとばかりにファミリーに引き込もうとしている。 も頭を抱えていたその時、山本はの方をちらりと見た。

も入ってんのか?」
「え?!あー、うん。一応?」
「入ってるぞ」
「おい!」

ツナが必死で止めようとするのも空しく、山本は何かを決めた様にリボーンの方を見る。

「よーし、分かった。んじゃ俺も入れてくれよ。そのボンゴレファミリーってのに」
「えー!!」
「ちっ!」

事の成り行きを見守り、今までだまって見ていた獄寺だったが、山本の言葉に大きな舌打ちをする。 達が様々な反応をする中で、リボーンだけは、ただニッコリと笑っていた。

「んじゃまず、入ファミリー試験だ」
「へー。試験があんのか」
「試験に合格できなきゃ、ファミリーには入れないからな」

リボーンの言葉に、ツナは良いことに気がついたように表情を明らめる。

「(そ、そーだ。試験に受かりさえしなければ…)」
「ちなみに不合格は死を意味するからな」
「んなーーーっ!」

ツナの希望は一瞬にして消え、さらに最悪の状況へと陥れられた。

「試験は簡単だ。とにかく攻撃をかわす」

そういうリボーンの両手には、いつの間にか銃とナイフが握られている。 見るからに本物だ。と、とツナが思った瞬間、 ヒュン!とナイフはリボーンの手から、山本の方へと飛ばされていた。

「うおっ!」
「ま、まてよ!リボーン!」

かろうじてナイフを避けてみせた山本だったが、流石に危ないと思ったツナが山本の前に出る。

「いーじゃねぇかツナ、付き合おうぜ」
「なっ!」

未だに子供の遊びだと思っている山本にツナが頭を抱えそうになるのを構わず、 リボーンはナイフを片手に持ち、ツナに見せながら言う。

「ボスとしてツナも見本を見せてやれ」
「はぁ!?なに言ってんだよ!それに、ここにはだって!」
「私なら大丈夫だよ。ツナ」
「大丈夫なわけないだろ!ナイフが飛んでるんだぞ!」
「んじゃ、ついでにも一緒に受けろ」
「俺の話、聞いてないだろ?!」
「そいつぁーいい、誰が試験に受かるか競争だな」
「え、あの!ちょっとー!」
「そんなー!」

ビュ!

「きゃあ!」

飛んでくるナイフをしゃがんで避ける。 巻き添えをくらってしまったも慌てて、ツナと山本と一緒に急いでその場から逃げた。必死で逃げるとツナに比べて、遊びだと思っている山本は楽しそうな表情で避けている。

「がはは!リボーン見っけ!」
「ランボ君?!」

達が、リボーンの攻撃を避けるのに必死になっていたところにランボが現れる。

「死ね!リボーン!」

ドドドド!

「わぁあああ!」

いつものごとく繰り出されるランボからリボーンへの激しいミサイルの攻撃が、ツナ達の道をふさぐ。

「次はサブマシンガンだぞ」
「なっ!」
「ええええ!!」

バララララー!!

ランボの攻撃などお構いなしに、攻撃の手を緩めることがないリボーン。
マシンガンが休まることなく、ツナ達の足元を狙うように乱射される。

「ひやっ!」
!」

次々と効果音が変わるなか、足を踏み外しそうになったの手をツナが引っ張りあげる。

「ツナ!」
「リボーンの奴!」

の手を掴んだまま、銃弾をよけながら必死に前を走るツナの背中を見ては思う。

「ツナ…(やっぱりツナは、私のヒーローなんだよねー…)」

ツナに握られた手が嬉しくて、どこか懐かしくて…。
温かな感情がの胸の中で湧き起こっていた。

「最後はロケット弾だ」
「果てろ」
「サンダーセット!」

達が逃げまとっている間に、いつの間にか弾が当たっていたランボが、泣きわめき十年バズーカを打ち大人になってたことにも驚くも、それ以上に、自分たちが最悪の事態にいるということに気がつく。

「おいおい!」
「ええええ!」
「うっそー!」

右はダイナマイト
正面はロケット弾
左はミサイル

逃げ道はない。 が思わず一瞬ツナの手を強く握ると、ドン!と突き放すようにの肩を押されたのが分かった。

「え…」

の体は、グラりと後ろに揺れた。

ドガン!!

「…ツナ?」

大爆発は、倒れたの目の前で行われている。 自分が、ツナに爆発から逃す為に押し出されたのだということを理解したは、慌てて立ちあがり爆風の方へと向かう。

「ツ、ツナ!武!」
「10代目ー!」

煙が充満していて、駆け寄った達からは何も見えない。 暫く経つと、そんな煙の中からゆっくりと人影が現れ出す。

「あぶねーあぶねー」
「や、山本が引っ張ってくれたおかげで助かった…」

ツナを担いだ山本の姿に、力が抜けた様にの膝がガクンと地面に着く。

「よ、よかった…」

安堵の息を吐くをよそに、リボーンは山本に告げる。

「試験合格だ。お前も正式にファミリーだぞ」
「サンキュー」

そう言って笑う山本に、獄寺が近づくと山本の胸倉を手で掴みあげる。

「よくやった」
「…獄寺」
「10代目を守ったんだ。ファミリーとして認めねーわけにはいかねぇからな」

先ほどまであれだけ山本が入るのを拒んでいた様子の獄寺だったが、ぶっきらぼうながらも賛辞を贈る獄寺の言葉に、は小さく笑う。

「でも、10代目の右腕は俺だからな。お前はケンコー骨だ」
「け、ケンコー骨?」

そんなどこか可笑しな会話を交わしている山本と獄寺に呆れながらも、 は力の抜けた足に気合をいれ、ツナの方へと駆け寄ろうとする。

「ツナ…!」
!だ、大丈夫?!怪我してない?!」
「わ、私は大丈夫だよ…。だって、ツナが守ってくれたもん」
「お、俺は別に!」
「ううん。ツナ、カッコよかった」

がツナに微笑んでそう言うと、 ツナは照れたような表情を見せながらも、ぼそりとツナが呟く。

「…がいたからだよ」
「え?私が、なに?」
「えっ、あ!いや!そ、それより!あの二人は何やってるの?」

どこか若干話を流されたような気がしないでもないだったが、ツナが指を指した山本と獄寺の方を見た。

「二人でツナの右腕を競ってるの」
「はぁー?!」
「ツナの右腕は私なのにね」
「…いや、それも可笑しいし!」
「っていうより、ツナの体は全部私のものだよねー」
「何言ってんの?!お前!」

そう言いながら、真っ赤な表情での抱擁を受け止めるツナ。 そんなツナとの様子が目に入った 獄寺はを引き離そうと近づいてくる。

「てめぇ!10代目から離れやがれ!」
「いやー!」
「ちょっ!、まじで首締まってるから!」
「まぁまぁ」

リボーンはそんなツナ達の様子を見てまたニヒルに笑って見せた。