09話 はひっ?可愛さ満点ライバル!


「へー。獄寺とビアンキさんって兄妹だったんだね」

そういえば少し似てる。と思いつつも、昨日はそれで大変だったというツナの話に耳を貸しながらも、いつものようにツナと一緒に学校に行く途中だった。

「ツナ…あれ」
「なに?」

私は目の前から…いや、塀の上から歩いてくる女の子に目をやる。ツナも気付いたようで大きく目をぱちくりとさせている。

「な、なんだー!?」
「こんにちわーっ」
「ちゃおっス」

三浦ハルと名乗ると女の子は、リボーン君にお友達になって欲しいと顔を赤らめながら言っていた。

「あの…」
「あ。私、。よろしくね」
「お、おい!…」

ツナは、「関わらない方が…」と私に小さく耳打ちするように言う。

「あ!貴女の事、知ってます!いつも家の前からリボーンちゃん達と通るの見てます!」
「そ、そうなんだ」

興奮気味に私の手を取って満面の笑顔を見せながそう言ったハルちゃんは、再びリボーン君の方に目をやる。

「あの、リボーンちゃん!こう…ギュってさせてもらえませんか?」
「何だソレ…」
「ハルちゃんって可愛いね!」

ツナが小さくツッコミを入れる横で、私はニコニコとリボーン君とハルちゃんのやり取りを見ていた。

「気安く触るな」
「えっ」
「俺は殺し屋だからな」
「こら!リボーン!」

ツナがリボーン君が発言するのを止めようとしたその時…

パン!!

「…え」

大きな音が鳴り響いたと同時に、ツナの片方の頬が赤く染まっていた。 ハルちゃんが、眉間にしわを寄せてツナをにらんでいる。

「最っ低です!何てこと教えてるんですか!?」
「はぁ!?」
「あ、あのね!ハルちゃん!」
「赤ちゃんは、まっ白なハートを持った天使なんですよ!!それなのに…貴方は、いたいけな純情を腐ったハートでデストロですか?!」

興奮していて私達の声が聞こえていないハルちゃんは、ツナの胸倉を掴みあげる。

「ちがうって!俺はリボーンに殺しなんて教えてない!」
「嘘です!貴方リボーンちゃんのお兄ちゃんでしょ?!」
「兄妹なんかじゃないよ!」
「じゃあ、何ですか!他人の赤ちゃんをデビル化なんてもっと最悪ですー!」
「だから!ハルちゃん勘違いしてるんだよ!」
ちゃん!大丈夫です!安心してください!」
「え?」
「ハルがちゃんをこのツナって人から助けてあげます!」
「ぇえ?!」
「なんだよ!助けるって!」
「いいですか?貴方は、もうリボーンちゃんとちゃんに会っちゃダメです!」

ハルちゃんはずいっとツナに近寄り、顔を近づける。

「(顔近いよ!)」
「ツナ!」

助けてあげようと思ったが、微妙にハルちゃんに照れる表情を見せるツナを見て、私はハルちゃんを説得するのを止める。 私が頬を膨らませて、知らんぷりをしていると私の変わりにリボーン君が口を開く。

「そーはいかねーぞ」
「ほぇ?」
「そーだよ。お前が説明しろよ!」
「ツナをマフィアの10代目ボスに育てるのが仕事だ」
「…ん?」
「それまでツナから離れられないんだ」
「!!」

ヤバい…!
リボーン君の言葉とハルちゃんの表情が変わるのを見て直感で私はそう悟ったその瞬間…。

パシーン!!

グキッ!

「痛ッ…。ハルちゃん、やりすぎだよ…」
!」
「は、はひぃいい!」

ハルちゃんがツナを拳で殴ろうするその直前にツナの前に飛び出していた私は、なんとかハルちゃんのグーパンチを左手で受け止める事は出来たものの、ハルちゃんが痛くないように私の方は一切力を入れなかった。

「ごめんなさい!ちゃん!」
!」

どうやら、ハルちゃんのグーパンチは意外と力が入ってたから、その反動でよろけた瞬間に私は足をくじいてしまったらしい。

「大丈夫だよ。なんともないから。それより、ハルちゃん」
「は、はい!」
「ツナは悪い人じゃ、ないよ?」
「!!」
…」
「ハ、ハルは…ハルは今日、これで失礼しますー!!」
「ハルちゃん!」
「また来ますー!!」
「来るんだ…」

そう言い、ハルちゃんは猛ダッシュでわたし達の前から去って行った。 ハルちゃんに気を使わせないために頑張って立ってたんだけど、限界だ。

「痛いーー!!!」

赤くなった手がジンジンとした痛みとして響いている。 しかも反動で足をくじくなんて…私としたことが、空手有段者にあるまじき失態だ…。 座り込んでいた私に、しばらくしてツナが私に手を出した。

「…帰るぞ」
「え?」
「お前、その足じゃ学校いけないだろ?」
「え、いやだけど…」
「手も痛いんだろ!もし、何かあったらどうするんだよ!」
「いや、でも私一人で…」
「オブってく」
「え…」

信じられないツナからの言葉に硬直してしまったが、ツナの真っ直ぐなまなざしから嘘じゃないことが感じ取れる。

「ほ、本当にー!」
「…嫌なら別に」
「嫌じゃない!嫌じゃない!むしろ嬉しい!」
「あ…そう?(今回は俺のせいだしなぁ…)」

息を吐いたツナは、の手を自身の方に引いた。

「ツナ、大好きー!」
「ちょっ!そんなに引っ付くな!」
「お前ら、楽しそうだな」
「どこがだよ!」
「私は超楽しいよ!」
「あのなー!」



「え…。?!」
「あ、あはは…お、お母さん…」
「…こ、こんにちは」

ツナが私をおぶって家に送ってくれら、丁度玄関から私の母が出てきた。

「ちょっ!なに?!あんた!」

ツナにおぶわれて私の腫れた足を見たお母さんは、驚いたように慌てている。

「だ、大丈夫!大したことないから」
「どうしましょ!血は…出てないわよね。そうね、とりあえずお医者さん…。って、いけない!私ったら!今からお仕事が!」
「お、お母さん…」

私の母はいつもこんな調子だ。私以上になかなか良い性格をしていると思う。

「あ、あの俺でよかったら…」
「いつもゴメンなさいね、ツナ君!これ、保険証!なにかあったらすぐに連絡して!本当にごめんなさいね!あとのこと宜しくね!」

自身が言いたいことだけを私達に告げると母は嵐のように去っていった。

「ゴメン…ツナ」
「いいよ。元は俺のせいだし」

そう、私の母と父はいつも仕事で忙しい。父はどこかの外国で働いているらしいから、滅多に帰ってこない。 今日は、母もその関係で今日は、海外にいる父の仕事のサポートに向かうと言っていた。 世界の子供達の保護を目的のお仕事をしているとかなんとか言っていたが…詳しいことは私にもわからない。

「それに、久しぶりにの母さん見たから面白かったしね」
「え?」
「だって、いつもイキイキしてるだろ?」
「そ、そうかなー…」

そんな会話をしながらも私は、再びツナにオブって貰い病院へと連れて行かれた。
足首のねん挫。全治約1週間。
そうお医者さんに告げられることになった。

「本当、俺のせいだ。ゴメン」
「なんでツナが謝るのさ」
「だって…」
「私が勝手に飛び出して、捻っただけだもん」
…」
「でも…」
「え?」
「ううん。なんでもない!」
「…」

明日から暫く、父は勿論の事。 母は恐らくあの調子だと、最低2週間は家に帰ってこないだろう。 父の仕事のサポートでたまに行っているようだけだけど、行くとなるとなかなか抜ける事ができない。って、前に言ってた。
いつもならなんともない話だが、この足で家の家事を一人でするとなると…正直、嫌になる。 そんな私の思考を察してか、ツナはゆっくりと口を開く。

「あの、さ…。俺の家に泊まりに来ない?」
「…え?!」
「あ、ほら!の母さん、暫く帰ってこないんだろ?晩御飯とか食べてったら良いし、それ以外でもいてくれたら良いよ!どうせ隣だしさ」
「でも…!」
「いつも勝手に押しかけてくる癖に、なに今更遠慮してるんだよ」
「…ツナ」
「俺も、暫くの間はちゃんとの事送っていくし、鞄も持つからさ!」
「う、嬉しいけど、いいよ!だめだよ!大したことないのに、ツナにそんなことさせられないよ!」
「いいから!怪我人なら大人しくしてろよ」
「うっ…」
「わかった?」
「…うん。ありがとう、ツナ」
「どういたしまして」

そう言って私に笑いかけるツナに、私はただ心臓の高鳴りを抑える。 だって…こんなに優しくされると、もっと、もっと好きになってしまうから…。



こうして、私は優しいツナと奈々さんの好意でツナの家で一日を過ごすことになった。

「一緒に寝てもいいよね?」
「なんでそうなるんだよ!」
「ツナ、居てもいいって言ったよ?!ねぇ、一緒に寝よ?」
「勘弁してよ!!」
「ツナー!」
「あーもう!」
「付き合いきれねーな」

呆れるようにリボーン君はそう言うと、さわぐ私達を余所に「スピー」と小さな寝息を立てた。


「学校なんて休めばいいのに」
「だって、ツナと一緒に行きたいし。ただのねん挫で休めないよ。ツナって意外と過保護だねー」
「なっ!あー…もう!そうだよ!過保護だよ!…足、痛くない?」
「あはは!うん!大丈夫だよ」

鞄はツナ持ってもらいながら、私は学校へ向かう。 だけどツナが私に歩くスピードを合わせてくれているだけに申し訳ない気持になる。

ガシャン

ガシャン

「…ツナ、私耳なりがするよ」
「そういえば俺も…」

ガシャン

ガシャン

一定に鳴り響く音は、次第に大きくなってきた。

「「うん?」」

近づいてきた音に恐る恐るツナと私が後ろを振り返る。

「おはよーございます」
「ハ、ハルちゃん?!」
「あんた何ー!」

重そうな鎧を身にまとい、今からどこかに戦争にでも行くのかと思ってしまうほどの武装をしている。

「昨夜、頭がぐるぐるしちゃって眠れなかったハルです」
「寝不足だとそーゆー格好になるの?!」
「ちがいますー…。はひ?」
「ん?」

ハルちゃんは、私の方を見て私が軽く足を引きづって立っていることに気が付く。

ちゃん!まさか、その足!」
「あ。昨日捻っちゃって」
「ハルのせいです!ごめんなさい!!」
「ち、違うよ!大丈夫だよ!私がドジっただけだから、気にしないで!」

頭を下げるハルちゃんを宥めると、ハルちゃんは顔を上げて言いづらそうに言葉を紡ぐ。

「えっと、あの!ハルは…ツナさんにお手合わせ願いにきました」
「はぁ?!」
「ツナさんが強かったら、リボーンちゃんの言った事も信じますし、文句いいません」
「お、おい!ちょっと!」
「お手合わせ願います!!」

ゴォ!っとハルちゃんは、ツナに手に持っていた武技を振りあげた。

「ハルちゃん!!」
ちゃんは来ちゃダメです!」
「でも…ツナ!」
「だから、俺はボスになんか!」

逃げるツナと戸惑う私の横を誰かが通りすぎた。

「え…?」
「10代目はさがって下さい!」
「ご、獄寺君?!」
「果てろ!」

そう言うと獄寺は、いつもの如くダイナマイトをハルちゃんに向かって投げつける。

「は、はひーーーっ!!?」
「ハルちゃん!!」

ドガァアン!!

ダイナマイトの爆風がハルちゃんの体を吹き飛ばし、橋の上から転がるように川に落ちる。

「落ちちゃったよ!」
「ハルちゃん!」
「プハっ!た、たすけてー!」

どうやらハルちゃんは着ている鎧が重くて、泳ぐことができないようだ…。
手をバタバタとさせるハルちゃんに、私は思わず橋の上に身を乗り出す。

「今いく!」
「む、無茶言うなよ!お前、怪我してんだぞ!」
「でも、このままじゃ!」
「助けてやるぞ」
「「え??」」
「リボーン!」

リボーン君はツナに銃を突きつけた。

「ま、まさか」
「ぁあ。その、まさかだ」
「ちょっ!」

ズガーン!

「死ぬ気でハルを救う!!」
「追加だぞ。足スクリュー弾だ」

「ツナ!ハルちゃん!」
「10代目!」

足に狙いを定め、死ぬ気弾を打たれたツナは、見事にハルちゃんを救出することに成功した。

「ありがとーございました…」
「ハルちゃん、平気?」

川から上がり、鎧を脱いだハルちゃんだったが私達の言葉に何も返すことはなく下を向いている。 心配した私とツナがハルちゃんの方を見つめていると、小さく吹き出すようにハルちゃんが笑う。

「プッ…。死ぬ気でハルを救う!俺につかまれーっ!!」
「は?」
「ハルちゃん?」
「そんなクサイ台詞、テレビの中だけだと思ってました!」
「ま、まさか…」

ツナを見て頬を赤らめるハルちゃんを見て、私は一瞬で悟った。

「凄く素敵でしたよ…。リボーンちゃんの代わりに飛び込んでくれた。10・代・目」
「なっ!!」
「さっきからドキドキして胸がっ…!」
「はぁ?!」
「ハルはツナさんに惚れたもようです!」
「んなーーーっ!」

でも確かリボーンが好きんじゃ…。とツナがハルちゃんに問いかけるのも空しく、 ハルちゃんはどんどんツナと距離を縮めて行く。

「今はツナさんにギュってしてもらいたい気分です!」
「えーーっ!」
「そ、それはダメー!!」
「はひっ?!」

今まで、我慢してみてたけど…だめだ。それは駄目。

「そうとなると、話は別!」
「お、おい……」

私は、頬を赤く染めているツナの腕にしがみつき、ハルちゃんを見る。

「まさかちゃん…ツナさんが?」
「うっ…えっ。あ、あれ?!」

仕掛けたのは私の方だが、そう直球に言われてしまうと、私は、恥ずかしくなって思わずツナから腕を離し、 赤く染まる頬を手で隠すように覆う。

「(…が照れてるのって、なんか新鮮だな)」
ちゃんはハルの大事なお友達です!けど、ハルも引けません!」
「私もハルちゃんは大事な友達だよ!」
「はひーっ!ちゃんとはやっぱり気が合いそうです!」
「今度、遊びにいこうね」
「勿論ですー!」
「もう好きにしてくれよ…」

私に可愛い恋のライバルが出来ました。

「なんだありゃ」

私達の様子を見て、まるで話についていけない獄寺が小さくつぶいた。