10話 メガネっ子少年と愛の逃走
「えー!ランボちゃんが飛んでったー?!」
「う、うん。今、さっきね…」
どうやら、またしてもリボーン君を殺そうとして逆に返り討ちに合ったらしい。
「、ランボに何か用だったの?」
「昨日作ったお菓子持ってきたの。皆に味見てもらおうと思って」
「そういえば昨日、そんなこと言ってたような…」
「あ、うん。ツナ達が昨日補習の宿題をするって言ってた時、私もずっと家にこもって研究中だったの」
「研究って…どんなお菓子作ったんだよ」
「味は心配無用だよ!オレンジジャムを含ませたチョコクッキーだから!ツナ…私が居なくて寂しかった?」
「何でだよ!」
「酷いツナ!そこは…寂しかったよ。僕には君しかいないよ!って言うところじゃ、ないのかな?」
「なんだよ、そのサムイ台詞は?!」
「ツナに、言ってもらいたいなーって」
「言わないぞ!絶対!」
「ツナの意地悪!」
「なかなかうめぇぞ。」
私とツナの間にリボーン君が割って入り、ちょこんとテーブルの上に座っていつの間にか私が作って持ってきたクッキーをもしゃもしゃと食べていた。
「あ。忘れてた」
「こら!リボーン!勝手に食うなよ!」
「いいよ、ツナ。この前、足ひねった時にお世話になったから、そのお詫びも兼ねてるし」
「気にしなくていいのに…。ってか、食いすぎだぞ!リボーン!俺もまだ食べてないのに!」
ツナの言葉を無視して食べ続けるリボーン君に、ツナはため息を落とす。
「まぁ、確かにって、普段不器用なくせに料理だけは上手いからな」
「見かけによらねーもんだな」
「ちょっとそれ誉めてないよ!二人とも!」
私が拗ねたように頬を膨らませると、ツナが「ごめん、ごめん」と言いつつも可笑しそうに笑う。 すると、突然私の背後からぞくりとする視線を感じたと思ったと同時に、女性の声が響く。
「ちょっと貴女、それは私に対する挑戦かしら?」
「ひゃいいい!」
「ビ、ビアンキ!!」
「え?」
一瞬にして背筋が凍るような殺気から女性の幽霊かと思ってしまったが、そんな訳はなく…。正体はビアンキさんだったようだ。
そ、そういえば私…まだまともにビアンキさんと話したことなかったんだった…。 ツナから、リボーン君のことが好きということは話に聞いているが…どうしようかと思っていた矢先にリボーン君がクッキーを食べながら口を開く。
「こいつは俺の恋人だぞ」
「なんですって?」
「ぎゃー!!嘘です!!違います!違います!」
「俺の為にこのクッキーを作って来てくれたんだぞ」
「ある意味あってるけど、なんか違う!誤解を招くよー!」
おそらく、リボーン君は私の反応が面白くてやっているのだろう…。
「リボーン!お前、勝手に話ややこしくするなよ!」
「その方が面白い展開かと思ってな」
「ちっとも面白くないよー!」
「嘘なの…?リボーン…」
ビアンキさんの殺気が少しおさまった瞬間を見計らって、私はここぞとばかりにツナの腕を掴む。
「そ、そうそう!私はツナの恋人です!」
「それも違うだろ!」
「いつかなるから、いいの!」
「はぁー?!!」
「…貴女、名前は?」
ビアンキさんは、ツナの腕に抱きつく私の顔を伺うようにじっと見つめている。たじろきながらも、私は振り絞るように言葉を発する。
「えっ、と…、です。…」
ツナもビアンキさんの言葉を緊張するように伺っている。
「そう。気に入ったわ」
「「え?」」
「なんだかほっとけない気がするのよね。ツナが好きなら協力してあげる」
「…ビアンキさん」
それは恋する乙女の直感なのでしょうか? そしてやっぱり、にっこりと優しく笑うと美人だなーと改めて間近で見て思わされる。
「今度、ポイズンクッキングを教えてあげるわ」
「ポイズン…。はい!お願いします!」
「ちょっ!!お前、意味分かってんのか?!」
「だって軽くツナから聞いてたけど、作り方分からないお料理だなって思ってたし」
「分からなくていいから!」
そして、その横ではリボーン君は無いかのように私のクッキーを食べ進めていた。
「あ。じゃあ私、帰るよ」
「え、もう?」
「うん。この分だとランボ君が帰ってくる前にクッキーなくなっちゃいそうだから」
「あ…」
「ランボ君だけ食べれないなんて可哀想でしょ」
「なんか、ごめん」
「大丈夫!だから後でまた来るねー」
「っ!」
そう言って去り際に私は、油断していたらしいツナに抱きついた後、ツナの家を出た。
「…なんか俺、いつもに振り回されてる気がするんだけど」
「お前、意外とに甘いしな」
「え。そんなことないと思うけど…。って!俺の分、残しとけよ!」
「あるぞ。一枚だけな」
「は?!なんでだよ!ったく…」
そういい、ツナもの作ったクッキーに手を伸ばした。
「あ、本当に前より旨くなってる…」
のクッキーを口に運んだあと、ツナは小さく呟いた。
「よし!でーきたー!」
私は、焼けたクッキーをオーブンから取り出した後、味見がてらに一枚食べてみる。
「うん。我ながら上出来」
これくらいしか、ツナに喜んでもらえる取り柄なんてないんだから…。もっと、もっと頑張らないと。よし、と意気込んでお皿に盛りつけていたその時だった。
ドドーン!
「…ドドン?」
ズガガガガーン!
「ズガン?」
銃声のような音が外から鳴り響いている。しかも相当近くから聞こえてくるような…。
「まさか…」
私は、半信半疑ながらも自分が思い描いてしまったことが、そうでなければいいのにと願うように慌てて外にでる。
「ギャーーー!」
バタッ!!
「え?」
私が外に出て見ると…メガネっ子の少年が叫び声をあげて倒れてしまいました。 そんな少年と一緒に、近くで倒れていたのは…。
「ツナー?!!」
な、なんでツナまで…。 どうやら、この状況から察するに、やっぱりあの銃声のような音はツナの家からだったらしい。
「あら。」
「ビアンキさん!」
「後は頼んだわ。私は、ロメオを探してくるから」
「…ロメオ?」
「それじゃ」
「え!あの!ビアンキさん?!」
ロメオ…という名前を叫び、ビアンキさんは、両手にポイズンケーキを持ちながら凄まじいスピードで走って行ってしまった。
「えーっと…」
と、とりあえず、このメガネっ子の少年から起こさないと!
「大丈夫ですか?!」
「うーーーん…」
気絶しちゃってるのかな?なかなか起きる気配はない。だけど、どこか怪我をしているわけでもなさそうだ。 というより、なんだか、うなされている…?
「…ごめんなさい!」
ガツン!!
「いっ!!!!」
メガネっ子少年は、私が軽くグーで殴った額を押さえながら起き上がった。 うなされていたから可哀相だし、早く起こそうと思ったんだけど…ちょっと、力強かったかな…?
「ごめんなさい!そんなに痛かったですか?!」
「え?あ、いや!別…に…」
「大丈夫ですか?」
「ふぁああっ!!」
私が顔を覗きこんだ後、メガネっ子の少年は突然顔を真っ赤にして、後退りをする。
「え?」
「し、しつれいしましたー!」
「え…ちょっ、ちょっと…」
「さようなら!!」
恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしたまま慌てて逃げるように飛びしていったメガネっ子少年に私は、大丈夫かな?と不安を感じながらも、名前くらい聞いとくべきだったのかな…と少し後悔をする。
「あ!そうだツナ!」
「ッ!痛ってー!リボーンの奴!」
ツナに目を向け、体を揺さぶるとツナは意識を取り戻し、勢いよく上半身を置きあがらせる。
「大丈夫?」
「え。?!なんで、お前!」
「大きな音がしたから飛んできたの」
「あ、そっか…あれ。そういえば男の子居なかった?」
「それが…さっき逃げられちゃって」
「え?」
眉を下げてそういったる私に、ツナは首をかしげた。
「おいしいもんねー!」
「よかったー!」
ランボ君が本当においしそうに食べてくれて嬉しくなってしまう。
「俺も食べたけど、前より美味しかったよ」
「本当ー?!わーい!ツナに褒められたー!」
「大げさだなぁ」
「私はツナのためなら何でもするよ?」
「それこそ愛よ!!」
「そうですよ!ビアンキさん!」
「なんか、凄くめんどくさいことになった気がする…」
ツナは、はぁとため息を吐いた。