11話 座右の銘は極限!!


「ツナー!」

始業式の日がやってきました。

「ツナー、おはよう!早く起きて私といい事しようよ!」
「なんだよ!いい事って!」

ベッドに寝ていたツナに乗っかりながら言うと、ガバりとツナが起き上がった。

「いいことは…いい事だよ」
「そう言って、抱きつくな!」
「ツナ、起きて―」
「とっくに起きてるって!いいから離れろー!」
「お前ら、さっさと学校に行きやがれ」
「あ。そうだ学校!!」

リボーン君の言葉で、ツナと私はハッとしたように時計を見る。 遅刻まであと15分だ。

のせいだぞ!」
「私じゃないよ!ツナが起きなかったからでしょー!」
「はぁー、こりゃあ、どう急いでも遅刻だよ」
そう言ってツナは走るスピードを緩め始める。
「えー!がんばって走ろうよ!」
「そんなこと言ったって、もう間に合わないよ」
「やってみなきゃわかんねーだろ?」

ツナが諦めたように言葉を発したその時、どこからかやってきたリボーン君がツナに銃を向ける。

「ちょっ!」


ズガン!


「死ぬ気で登校するー!!」
「きゃっ!」

私は、リボーン君に死ぬ気弾を撃たれたツナに力強く手を引かれる。あまりの速さにグルグルと目が回っていた。

「つ、つなぁ~~~~」



「目が、まわる…」
「ごめん!!大丈夫?!」
「う、うん…なんとか…」

無事に遅刻せずに学校へ着いたものの、くらくらとする頭を押さえつつ足をゆっくりと校舎へ向けようとしたその時、ツナの手が誰かに掴まれた。

「まぎれもない本物…」
「えっ!(やべー!なんか、人引っかけてるーっ!)」
「…あれ?」

短い髪に、鍛え上げられた風貌。この人、どっかで見た事あるような…。

「わが部に入れ!沢田ツナ!」
「な、なんで俺の名前?!」

初対面のはずなのに、なぜか知られている名前にツナは尻込みながらも問いかける。

「お前のハッスルぶりは妹から聞いているからな」
「妹?」
「いもうと…あ。あー!」
「お兄ちゃーん!」
「え?」

私が思い出したように声を上げると同時に、聞きなれた声のする方にツナは振り返る。

「鞄、道におっことしてたよ!」
「きょ、京子ちゃん!!」
「そうだ!京子ちゃんのお兄さんだ!」
「あ、おはよ!、ツナ君!」
「え?は?」
「ツナ、この人京子ちゃんのお兄さんだよ!」

状況が分かっていない様子のツナに、私はこっそりと耳打ちをする。

「え、えええ!!」
「久しぶりだな!!」
「お兄さん、ご無沙汰してます」

一度だけしか会ったことがなかったので忘れていたが、私も以前、京子ちゃんの家に遊びに行ったときにお兄さんと会っていた。

「では、放課後我が部にて待っているからな!」
「え?!ちょっ!」

ツナの声を聞かずに、放課後、ボクシング部に来いということだけをツナに言い伝え、お兄さんは去っていった。

「ツナ君すごいな!私、嬉しくなっちゃった」
「え?」
「あんな嬉しそうなお兄ちゃん、久しぶりに見たもん!」

凄く可愛らしい笑顔でそう言う京子ちゃんに対して、ツナは、青い表情をしている。

「ツナ…」
「こ、断りにくくなってきた…」
「頑張れ!ツナ!」
「そ、そうだ!放課後、もついてきてよ!」
「え!私?!」
「だって俺、一人だとどうしたらいいか分かんないし、は京子ちゃんのお兄さんと面識あるみたいだったし!」
「うっ…。面識っていっても一度だけだよ」

正直にいうと、あのお兄さんのテンションについていけないところがあるのも事実だが、なにより私は、放課後は恭ちゃん先輩に呼ばれている。恐らく風紀委員の仕事絡みだろうが、行かないとどうなるか想像したくもない。でも…。

「だ、駄目かな?」
「な、なに言ってるの!勿論!私もついて行くよ!」
「本当?!」
「うん!!」
「助かるよ!!」
「…」

や、やってしまった…。 あんなに困った表情をツナに見せられたら、行けないなんて、言えるわけもなく…。惚れた弱みとはまさにこの事だと、思わされた。

「今度、アイス奢るからさ」
「…しょうがないなぁ。」

そして放課後…

恭ちゃん先輩へ

恭ちゃん先輩、ごめんなさい。
我が幼馴染の一大事が発生した為、今日そちらには伺えません。
また後日穴埋めします。

-貴方の後輩、より-

という手紙を応接室のドアに挟み、ごめんなさい!と手を合わせた後で、ツナの為にボクシング部へと向かった。


「ど、どーやって断ろう」
「普通に断るしかないんじゃない?」
「そんな事言ったって、京子ちゃんのお兄さんだぞ!嫌われたらどうすんだよ!」
「でも嫌なら断るしか…」
また京子ちゃん…。むっとした表情をしつつも私がツナに言葉を返そうとするのを遮るように、ガラリと部室のドアが開いた。

「沢田!待ってたぞ!」
「わっ!」
「お、お兄さん!」

お兄さんがボクシング部のドアを開け、私達の前に現れた。お兄さんに背中を押され、私達は中へと招き入れられる。

「お前の評判を聞きつけ、タイのムエタイの長老まで駆けつけて来たぞ」
「え?」
「タイの…長老?」
「パオパオ老師だ」
「パオーン!」
「おいー!!」
「リボーン君!」

お兄さんに紹介され、振り返った先には、頭に可愛い象の被り物を身に纏い、コスプレをしているリボーン君だった。

「可愛いー!」
「そうじゃないだろ!」
「俺は新入生と主将のガチンコ勝負が見たいぞ」
「ちょっ!お前は俺にボクシングやらす気か?!」
「あたりまえだ」

リボーン君の家庭教師は相変わらずスパルタのようです…。

「ぉお、ソレはいいな!」
「お、お兄さんまで!」
「沢田の実力を測るいい方法だ」
「あ、ツナ。アレ」
「え…」

私が、ツナの後ろを指差すと、後ろを振り返ったツナが目をぱちくりとさせている。

「ツナ君、がんばってー」
「10代目ー!!」
「負けんなよー」
「皆きてる?!」

誰が呼んだのかは分からないが、いつのまにか皆がツナの応援に来ていた。


「もうこうなったら、やるしかないよ!頑張れ!ツナ!」
「そんな事言ったってー!」
「ツナなら出来る!」
「無理だよ!お前は、いつもそんな無責任なこと…」
「そんなことないよ。だって私は、いつもツナの事信じてるよ。何かあったら私も頑張ってフォローするから!」
「そ、そんな事言われてもさー!」

ツナは戸惑いながらも、私に背中を押されながらリングへと上がる。

「ゆくぞ!沢田ツナ!」
「(俺、なにやってんだ)」

結局、の言葉で決め手になっちゃった…。とツナがため息をついたその後、ゴングの鐘が鳴り響く。


カーーーン!

ゴッ!

「うわっ!」
「ツナ!」

お兄さんのストレートがゴングの鐘がなるとほぼ同時に繰り出され、見事にツナの顔面に決まった。

「油断するな!沢田!!」
「(違うよ、これが実力だよ…)」

ツナがリングの上で逃げまとう中、リボーン君は銃を構えた。

「それって…」
「ぁあ、でもまだだな」

ズガン!

「え、お兄さんの方に?!」
「ツナが嫌がったからな。それに、二人に撃てばあいこだろ?」
「いや、そうだけど…」

死ぬ気弾を撃たれたお兄さんは静かに立ち上がる。

「うわああああ!」
「どーした沢田。立てんのか?」
「え…?」
「立てるのなら、続けるぞ!」

逃げまとうツナに対してお兄さんは、死ぬ気弾を撃たれても普段と何も変わったところを見せない。

「か、変わってない…ってことはまさか!」

ツナは、死ぬ気弾を撃たれても変貌を見せないお兄さんの様子を見て、八ッとしたように声を上げた。 どうやら、普段から死ぬ気の人に死ぬ気弾を撃っても効かないということらしい…。

「す、すごい…お兄さん!」
「笹川了平、たいした奴だな。次はツナだぞ」

リボーン君は銃を構え、今度はしっかりとツナに狙いを定める。


ズガン!!

「死ぬ気でボクシング部の入部を断る!!」
「ツナ…スパーリングの活躍とかじゃなくて、入部を断れずにいたことを後悔してたんだね…」
「みたいだな」

そこから、リング上ではツナとお兄さんの凄まじい戦いが繰り広げられていた。

「かわすツナは勿論、凄いけど…」
「あのラッシュも常人のもんじゃねーな」
「ありゃあ、殺し屋のそれだ」

獄寺と武と一緒に私も唖然と試合を見守っていた。

「入れ入れ入れ!」
「やだやだやだ!!」

ガッ!

ツナがお兄さんのラッシュを交わし続け、見事にお兄さんの懐に入り込み、見事にパンチを食らわせた。

「断る!!」

ガシャァアン!

ツナのパンチを受けたお兄さんの体は、リング場から窓に向かって飛ばされたところで、試合は幕を閉じた。

「ツナ!」
「流石10代目!」
「…あっ!(やっべー!結局、やっちまったー!京子ちゃんともう口きけないかも…)」」

京子ちゃんのお兄さんを吹っ飛ばすという…自分がしてしまったことに頭を抱えるツナだったが、そんなツナの肩を起き上がったお兄さんが掴みあげる。

「ますます気に入ったぞ!お前のボクシングセンスはプラチナだ!」
「え!」
「必ず迎えに行くからな!」
「もう!お兄ちゃんったら、嬉しそうな顔してー!」
「(むしろ好かれたー?!)」
「お兄さん、血出てますよ!血!」
「俺も気に入ったぞ」
「!?」
「お前、ファミリーに入らねぇか?」
「コラー!逆スカウトすんなー!!」

リボーン君は、やっぱりリボーン君でした。



「はい!出来た」
「あ、ありがと」

その後、慌ただしいながらも帰ってきた私はツナの部屋に来て、ツナがお兄さんのパンチを顔面で受けたところを治療していた。

「格好よかったよ!ツナ!」
「何処がだよ…。結局あんなの死ぬ気弾のおかげだし」
「そんなことないよ!死ぬ気弾を撃たれる前も、ツナがんばってたじゃない」
「あ、あれは…流れでそうなっただけで…」
「ツナ」
「なに…っ!」

座り込んでいるツナにもたれ掛かるように、私がツナの腰に手を回して前から抱きつくと、ツナの体がぴたりと固まるのが分かった。

「本当にすっごく恰好よかった!大好きだよ!」
「なっ!」

真っ赤な顔をしているツナの方を見上げて思いと伝えることができた私は、ただそれだけで満足してしまう。

「じゃあ、私帰るね!ツナ、また明日!」

ゆっくりとツナを離し、私はツナの部屋を出た。

「言い逃げかよー!」
「全く進歩のねぇ奴だな」
「わっ!リボーン!」
「馬鹿面しやがって」
「してないよ!」
「顔真っ赤だぞ」
「う、うるさいなー!」
「好きなら、早く認めた方がいいぞ」
「だからは幼馴染だし、そんなんじゃないってば!」
「お前、本当鈍いな」
「はぁ?どういう意味だよ、それ」
「さぁな」

それだけ言い残し、ツナの部屋で眠りの体制に入るリボーン。「おい!」とツナが声を掛けた時にはもう既に遅く、スピーという寝息を立てていた。