16話 チャイナ娘のイーピン!


「この子がイーピンちゃんなの?」

ツナから先日きたばかりという中国から来たイーピンちゃんを紹介してもらったんだけど…。 殺し屋と聞いていたが、とてもそんな恐ろしい子には見えない。

「宜しくね、イーピンちゃん!」

私が挨拶をすると中国語で何を喋っているか分からなかったものの、ニッコリと笑って握手をしてくれた。

「根はいい奴なんだけどさ…」

ランボ君がイーピンちゃんにちょっかいを出して、走りまわっているのが目に入る。

「こら!ランボ!イーピン!危ないだろ!」
「なるほど…」

殺し屋といってもやっぱり子供のようで、イーぴんちゃんはまだまだ未熟の殺し屋さんらしい。

「この前だって、ハルと京子ちゃんが死にかけたし。たまったもんじゃないよ」
「あ、それ京子ちゃんにも聞いた。いつの間に寝たのかな?だってさ」

たまたま出会ったとはいえ、ケーキ仲間が増えたことは凄く喜んでいた。 おかげで今度、ハルちゃんと京子ちゃんと一緒に遊びに行く約束も出来たし、私としても嬉しいことだ。

「イーピンのせいだぞ」

そう言いながら、ツナがイーピンちゃんの頭を撫でると、イーピンちゃんは照れながら、ぺこりと頭を下げて部屋から出て行った。

「また、にぎやかになるね」
「もう充分だよ」
「ツナも大変だね」
だけでも大変だったのにさー…」
「えー!私もイーピンちゃんやランボ君の扱いと一緒なのー?!」
「冗談だって」
「ツナ!」
「ゴメン、ゴメン」

アハハ、と笑うツナ。たったそれだけなのに、ときめいてしまうなんて、改めて、好きだと思わされる。

「もう!」

頬を膨らましつつも、思わず私はじっとツナのことを見つめる。その視線に気づいたツナが首をかしげる。

?」

思えば、いつからだろう。私の中で、こんなにもツナが大きな存在となってしまったのは…。唯の幼馴染じゃ、我慢できなくなってしまったのは…。

「ツナ…」
「なに?」
「…ううん…やっぱりなんでもない」

私がベッドに腰かけ、座っていたツナの腰に手を回してに抱きつくとツナは驚いたように声をあげる。

「え!なに?!まじでどうかした?!」

動揺しつつもツナは心配した様に私の肩に手を添える。

「ちょっと、センチメンタル…」
「センチ…なに?」

いつ私の思いが叶うのか、なんて分からない恋。もしかしたら一生、叶わないかもしれない。こんなに大好きなのに届かないかもしれない。どこか行っちゃうかもしれない。なんて、思うと泣いちゃいそうになる。

「あきらかにその確率の方が高いんだよねー…」
「おい、?」
「あ、ごめん。いいの。ツナは気にしないで」

そうだ。これは私のわがままなんだから…。ツナを巻き込んではいけない。押し付けちゃ、いけないんだ。そんなことを思いながらも私は、ツナの服を握り締めた。

「…多分、大丈夫、なんじゃないかな」
「え?」
「俺は、が何を悩んでるか分からないけどさ」
「ツナ…」
なら、なんでも大丈夫だと思うよ」

なんで…なんでこんなにも彼は温かいのだろうか…。 だから好きになった。だから、一緒にいたいって思うようになったんだ。この気持ちが間違いじゃないって思わせてくれる。

「俺に出来ることがあったら、してあげるし」
「ふふふ…ありがとう」

顔を少し赤らめながら言うツナに私は小さく笑う。本当、誰にも優しいのは昔から変わらないんだよね。

「じゃあ、今度一緒に遊園地行こう!」
「…はぁ?!」
「二人で行こうよ」
「いや、なんでそうなるのさ!展開可笑しいだろ!」
「久しぶりにデート、デート!」
「んなっ!行かないよ!」
「えー!」
「当たり前だろ!」
「…そうだよねー。二人で行くんなら京子ちゃんがいいもんね」
「えっ!」

“京子ちゃん”という名前に過敏に反応したツナ。ちょっと、意地悪しただけなのに…。

「いいよ、もう。私は、武にでも連れてってもらうから」
「お前なー!」

嘘だけど…。しかし本当、今日の私は情緒不安定のようだ。
しかし嘘のつもりだったけど、本当に気晴らしにお願いしてみるのもいいかもなー…。なんて思いにもなってくる。
獄寺は馬鹿にされそうで絶対に嫌だし、頼みたくもないし。
恭ちゃん先輩…は、群れるのが嫌いだから、確実に行ってくれないだろう。
そうなるとやっぱりお願いするなら武だな…。気分転換もかねて駄目元でお願いしてみようかな。

「(…それも、いいかもなぁ)」

思わず私はポケットから携帯を取り出し、連絡先から武の名前を検索する。その様子を隣で見ていたツナが、「お、おい…」と私に声を掛ける。

「なにー?」
「まさか、本当に山本に掛けようとしてるんじゃ…」
「ツナ?」

なにか言いたげなツナの方を見た瞬間、阻むように私の携帯を持つ手を覆うように掴まれた。

「え…」


トスッ


ツナに手を掴まれたものの、体重を支えきれなくなった私はそのままツナのベッドの上に体が倒れ込む。 私の手を掴んで、倒れ込んだ私の上に跨る体制になってしまったツナと至近距離で目があった。

「ツ、ツナ?」
「あ、ゴメン!」
「大丈夫…だけど…」

ツナは慌てて私から離れて距離を取る。

「(なにやってんだよ!俺!)」
「?」

まさか…意外と効いてるのかな?と期待を抱きつつツナを見るが、頭を抱えて慌てているツナを見て、そんなわけないか…と思いなおす。 私が深く息を吐くと、はっとしたようにツナが顔を上げる。

「…い、行くよ!」
「え?」
「遊園地だよ!デートかどうかは知らないぞ!」
「ええ!ど、どうして?!」
「行きたいんだろ。そもそも出来ることならするって言ったのは俺だし…」
「ツナ…!」
「は…?わっ!」

私が勢いよくツナに抱きつくと、ツナは後ろに倒れないように床に手をついた。

「…皆で行こう」
「え?」
「京子ちゃん達も誘って行こうよ」
…お前…」
「一生懸命私こと考えてくれたんでしょ?私はツナのその一言だけで、凄く嬉しかったよ」

まだ京子ちゃんに敵わないのは、本当は分かってるんだ。 でも、これでも一歩前進したってことだよね?そう思っても、いいよね? だったら、もう私は満足だ。ツナの希望も、叶えてあげなくちゃね。

「じゃあ早速、京子ちゃんと武と獄寺…」

と、私が手に持っていた携帯の画面に再び目を移し、連絡をしようとすると、ツナが大きな声を上げる。

「ちょっ!待った!待った!」

そう言ってツナは私から携帯を奪う。

「ツナ?なんで?」
「なんでじゃないよ!なに勝手に話進めてるんだよ!」
「え。だって、そういう流れでしょ?」
「そうだけどそうじゃないだろ!勝手にお前と二人で行く話を、皆で行く話に差し替えるなって言ってるの!」
「…?ツナ、京子ちゃんと行きたくないの?」
「そりゃ、行きたくないわけじゃないけど…」
「ほら、だから無理しなくていいよ。皆で行こうよ」
「お、俺は、今、と二人で行く話をしてるんだろ?!」
「…うん?」
「だったらそんなの関係ないじゃんか!押し通せよ!」

思いもしなかった言葉に一瞬、きょとんとしてしまったが、ツナの言いたいことを理解した私は一気に自分の顔が熱を感じて、赤くなっているのが直ぐに分かった。

「えっと…なんか、ごめん、ね?」
「元は自分で言い出したくせに照れるなよ」
「いや、あの…。ツナがそんなに私のこと考えてくれてるとは思ってなかったから…」
「考えてるよ!一応、その…幼馴染、だし…」
「うん。ありがとう」

ツナが少しでも私のことを思ってくれるのなら、今はそれで十分だ。私が笑いかけると、ツナは今になって照れたように私から目線を逸らした。くすくすと私が笑うと、「そんなに見るなよ!」とツナが拗ねたように声をあげえる

「ツーナ!」
「ちょっ!」

私がツナに抱きつくと、驚いたようにふらりと足が揺れるも、踏みとどまったツナが私の体を支える。そんな様子を見ていたらしいリボーンが息を吐いた。

「勝手にやってろ」
「なっ!お前いつからそこにいたんだよ!」
「ずっといたぞ?」
「(最悪だ!)」
「ツナとデートだー!」
「デ、デートじゃないからな!」
「どっちでもいいよ。ツナが一緒に行ってくれるなら」
「結局、に負けた気がするよ」
「わーい!」
「(…ま、いいけどさ)」

照れくさそうにツナが私から目逸らした。

「え?イーピンちゃん、餃子饅くれるの?」
「ストップー!!!」

イーピンちゃんが来てますます大変になったツナだった。