17話 憧れの王子様
「学校終わった!家帰ったら何しよっかなぁ」
「宿題ないし、久しぶりにゲームしようよ!ツナ!」
「そういえばと最近やってないよな」
「そうだよ!ランボ君達ばっかずるい!」
「ずるいって…。家にいるんだから当たり前…って、何これ?!」
ツナと一緒に学校から帰ってくると、ツナの家の前には、黒い正装をシャキッと着こなして顔が怖いおじさん達が立っていた。それも凄まじい人数だ。
「わー…。ツナの家にお客さんがたくさん」
「棒読みで目を逸らすなよ!」
「だって…」
どこからどう見てもこの光景は、ヤ…が付く人たちを連想してしまう。しかし、そうも言ってられないツナは恐る恐る大きな男の人に尋ねる。
「あの…通っていいですか?」
「ダメだ、今は沢田家の人間しか通せないんだ」
「「…」」
男の人の言葉に思わず、私とツナは目を合わせる。
「…沢田綱吉ですけど」
ツナがごくりと息を飲みながら名乗ると、おじさん達は何故か急に表情が一変し、態度が変わる。 ざわめきながらも、すんなりと道を開けてツナを通してくれた。
「ツナ!」
「ちょっと待ってて!」
「えー!」
ツナは私を置いて慌てて家の中に入った。私は、仕方ない…とツナをその場で待つことにする。しかし、黒い正装を着こなすおじさまたちの視線が少し痛い。その場の空気に耐えきれなくなった私は息をつき後ろを振り返った。
「あのー、すみませんけど…」
慌てて俺が部屋に入ると、見知らぬ金髪の男性が座っていた。その人は、キャバッローネファミリーの10代目ボスで、ディーノさんという人らしい。でも、そんな凄そうな人がリボーンの元教え子とか言われても…。
「わけわかんねぇよ!」
会った瞬間ダメだしだと思ったら、次は褒められるし…ボスになんかなるつもり更々ないのに!
「一生ボスやらねーなら…」
「ひっ!」
「かむぞ」
懐から何か取り出そうとしたと思うと、目の前にいたのは…かめ?
まさかの親父ギャグだ…。ドッと疲れたように俺は息を吐いた。
「待てー!」
こんな時に…ランボが手榴弾を手に持ちイーピンを追いかけまわしているのが目に入る。
「こら!ランボ!手榴弾持って遊ぶな!」
ツンっ
「くぴゃっ!」
ドテーン!
言わんこっちゃない…と見事に部屋で躓き、顔面から倒れたランボ。
「…ん?」
ランボがこけた瞬間に手榴弾の栓が抜け、そのまま開いていた窓の外へと向かっていく。
「馬鹿!!」
手榴弾は窓の外に飛び出し、そのまま落下していこうとしている。
「やべーな、外にはディーノらの部下が…」
「外…?あ!!!」
「なに?!」
外で待たせていたの存在を思い出し、どうしよう!と窓の外を覗き込んだ俺達が戸惑っているなか、ディーノさんは窓から飛び出した。
「アハハっ!そうなんですか?」
「そうなんだよ、ボスも困ったもんだぜ」
最初は怖い人たちかと思いきや、話していれば、なんでもリボーン君の知り合いということが分かり、一体おじさん達がどんな人なのかを聞いているうちにすっかり話に花が咲いてしまっていた。
そんな時、上から何かが落ちてくるのに気付いた私達。
「え。あれって…」
「手榴弾か?!」
「きゃあああ!」
近くにいたおじさんが私を手榴弾から守るように後ろから私の体に覆いかぶさる。
「てめーらふせろ!!」
聞こえてきた声に反応して、皆が頭を下げる。声の主は、ビュッと華麗にムチを使いこなし、手榴弾を空中へと放り投げる。 ゆっくりと体を起こすと、私達の目の前にいたのは…。
「…王子様?」
「なーんだ!王子様じゃなかったんだー!」
「ハハッ、。お前面白いこと言うな」
「えー!だって、本当に童話に出てくる王子様みたいでしたよ!」
整った容姿のせいもあるだろうが、なによりも私達を華麗に助けてくれた姿と登場に思わず目を奪われてしまった。
「本当に格好良かったですよ!」
「あはは、そうか?さんきゅ」
「はい!ねぇ、ツナ!」
「う、うん。そうだね」
「ツナ?どうかした?」
「気にすんな、。ツナの奴、一人前に妬き…」
「馬鹿っ!」
少し様子がおかしかったツナだったが、リボーン君の言葉を遮るかのように、慌ててリボーン君の口を塞いだ。
「俺に気安くさわんな」
「いってー!!」
くいっとツナはリボーン君に手を捻られると、思いっきり床に叩きつけられた。
「すいません、奈々さん。私まで…」
「あら、いいの!いいの!ちゃんならいつでも大歓迎よ」
今日はツナの家に泊まっていくというディーノさんに肖り、私まで夕飯をツナの家でご馳走になっていた。
「今更、気にすることないじゃん」
「だってなんか便乗しちゃったみたいだし」
「むしろ気を使うべきなのはあいつらだから」
共に食卓を囲み、ガツガツと料理食べるランボ君やリボーン君の方を見てそういうツナに、思わず私はくすりと笑う。
「じゃあ、私も!」
いただきます。と手を合わせて奈々さんの手料理を食べ始める。するとそんな私達の様子を見ていたらしいディーノさんが声を上げて笑うと、ツナの方を向き直す。
「さー可愛い弟分よ。なんでも聞いてくれ」
「え?」
マフィアの話をディーノさんから振られて、困った表情を見せるツナだったがディーノさんは思い出したようにツナに質問を投げかける。
「そーいや、お前ファミリーは出来たのか?」
「今んとこ、と獄寺と山本、あと候補が雲雀に笹川了平と…」
淡々と、ツナの代わりにリボーン君がディーノさんに答える。
「幼馴染に友達と先輩だから!それに、は女の子だって何回言わすんだよ!」
「私なら、大丈夫だよ?なんでもやるから」
「ほれみろ。了承済みだぞ」
「!」
「あ、ゴメン」
おそらく私に話を合わせて欲しかったのであろうツナの意図を理解する。リボーン君の肩を持つ形になってしまったことに思わず咄嗟に謝る。
「ったく…あ、ってかリボーンなんで俺なんかの所に来たんだよ」
「ん?」
「リボーン君、前はディーノさんの所にいたんだっけ?確かに、ディーノさんのところなら家も広そうだよね」
「ボンゴレは俺達同盟ファミリーの中心なんだ。何にしても、俺達のどのファミリーよりも優先されるんだぜ」
「ぇえええ!」
「ボンゴレファミリーって、そんなにえらいの?!」
「そうだぞ」
「最悪だ」
ツナのテンションはさらに下がり、頭を抱えていた。そんな時、料理を運んでいた奈々さんがふとディーノさんの方を見る。
「あらあら、ディーノ君」
「あっ」
「そんなにこぼしちゃって」
「うわぁ!」
お箸に慣れていないせいもあるだろうが、ぽろぽろと食卓にご飯をこぼしていたディーノさんに思わず吃驚してしまう。
「ディーノは部下がいねーと半人前だからな」
「はぁ?!」
リボーン君曰く、ディーノさんはファミリーの為とか、ファミリーの前じゃないと力を発揮できないタイプで部下がいないと運動神経が極端に下がるらしい。
「ある意味究極のボス体質?!」
「たしかに」
「普段フォークとナイフだから、箸がうまく使えねぇだけだって」
「そ、そーですよね!」
ディーノさんにフォークを手渡した後、奈々さんは「あ。」と思いだしたように声上げる。
「お風呂見て来るわね」
「あ、私が行きましょうか?」
「大丈夫よ。ありがとう、ちゃん」
私に優しく笑顔でそう言うと奈々さんはお風呂場へと向かった。
「きゃああああ!!」
「母さん?!」
突如、お風呂場の方から聞こえてきた奈々さんの悲鳴にディーノさんが向かおうと立ちあがったその瞬間、ディーノさんはドタン!!と自分の足に引っ掛けて床に転ぶ。
「え!」
「大丈夫ですか?!」
私は、ディーノさんに近づき手を出す。
「わりぃな、」
ディーノさんが私の手を掴んで立ちあがる。
ドクン!
「…え?」
なぜか高鳴った胸の鼓動に私は思わず呆けてしまう。
「自分で自分の足をふんじまった」
「ほれみろ、運動音痴だろ」
「え」
ツナとリボーン君がそんな会話をしていると、お風呂場から逃げるように奈々さんがこちらに戻ってきた。
「奈々さん!」
「オフロに!オフロにー!!」
「お風呂?」
動揺している奈々さんの言葉に緊張感が高まる中、私達はお風呂場へと向いゆっくりとお風呂場のドアを開ける。 するとなんと浴槽で、巨大怪獣の様なカメが手足を動かしていた。
「なっ!」
「あちゃー、エンツィオの奴いつのまに逃げ出したんだ?」
驚く私とツナを余所に、ディーノさんは冷静に言葉を発する。
「えんつぃお?」
「さっきの亀?!」
これが…カメ?どこからどう見ても巨大な怪獣だ…。
「エンツィオは水を吸うとふやけて膨張するスポンジスッポンだぞ」
「これ…スッポンなんだね…」
「巨大化したエンツィオは狂暴化して家一件食っちまうんだ」
「なんじゃそりゃー!」
リボーン君の言葉に思わず突っ込んだツナだったが、なんとかして止めなければ大変なことになるのは目に見えている。 そんな私達の前にイーピンちゃんが飛び出す。
「イーピンちゃん!」
イーピンちゃんは何かを言いながら餃子拳をエンツィオに向かって放つ。
「!!」
「カメは長い間息を止められるからな」
得意のイーピンちゃんの攻撃はまったく効果がなかったようで、未だに動き続けるエンツィオの姿を見たディーノさんが私達より一歩前に出た。
「下がってろ」
「え…」
「誰も手を出すんじゃねーぞ」
「ディーノさん!」
「静まれ!エンツィオ!」
ディーノさんは大きくムチを振り上げる。
「ぎゃあ!」
「ツナ?!」
ディーノさんのムチが手からすっぽぬけてツナに直撃をしてしまった。
「これでわかっただろ?」
「…部下がいないと半人前」
「そうだぞ」
リボーン君の言葉に深く息を吐くもそうしているうちに、ツナのお風呂場はどんどんエンツィオに食べられていく。
「すまん!すっぽぬけた!」
何度かムチを振ろうとするディーノさんだったが、失敗が続いている。
「なんとかしてよ!リボーン!」
「手を出すなって言われてるしな」
「でもリボーン君。このままじゃ、ツナの家が…」
「仕方ねーな」
そう言うとリボーン君はレオンを取り出し、ツナの顔にぺタっと張り付いたレオンは、徐々に形を変えていく。
「あ!この人、さっきの!」
ディーノさんと一緒にいたおじさんの顔にレオンが変化した。それを見たディーノさんが再びムチに手を伸ばす。
「ロマーリオじゃないか!馬鹿やろう!俺にまかせて下がってろ!」
「あ…」
ドクン!
まただ…。またディーノさんを見て私の胸が高鳴る。今度は華麗にムチを振るい、見事にエンツィオを捕まえることに成功したディーノさんの姿が目に入ると、ドクン!ドクン!とさらに大きく鼓動しているのがはっきりと分かった。
「なんで…。でもこの感じ、どこかで…」
どこかで…?いや、これは最近も感じたことがある鼓動だ。思わず私はじっと、ディーノさんを見つめた。
「?」
レオンを顔から剥がしたあとツナが、私の様子が可笑しいのに気付いたのか心配そうに私を見ている。
「ど、どうかした?やけにディーノさんのこと見てたけど…」
「あ、いや。ちょっと…あ」
「?」
「あー!そうだ!」
「え」
「やっと分かったよ!ツナ!」
「な、なにが?」
「どうして私、ディーノさんにドキドキしてたのかやっと分かったの!」
「え…えええ!(そういえば妙にのテンションがいつもより高かったような気がする…。まさか、それって…!)」
「私、ツナとディーノさんって似てると思う!」
「…はぁ?」
思いもしなかったからか首をかしげるツナを余所に、鼓動の正体が分かった私はツナの手を掴む。そうか…。どこかで感じたことがあると思っていたのは、ツナと一緒だったからだ。 この鼓動は違うものじゃない。
「そうだよ…私、いつの間にかツナとディーノさんを被せて見ちゃってたんだ!」
「全然似てないと思うけど…」
「ううん。似てるよ。だって一緒だもの」
ドジで、放っておけなくて…でも、すごく優しくて、必死に誰かを守ろうとする瞳がそっくりだ…。私はツナの腕に手を回して抱きつく。
「なんだよ、急に」
「んー?ツナが好きだなぁって」
「なっ!(って…なに俺、ホッとしてんの?!)」
ああー…と頭を抱えるツナに、リボーン君がにやりと笑っていた。
「しかし、今日は銭湯だな」
「うちのお風呂使っていいよ?」
「いいの?でも、人数多いし…」
「じゃあツナ、一緒に入ろうか!」
「って、無理無理ーー!!」