24話 マフィアランドの正体


「入島手続きがあるからな」
「はぁ?」

リゾート地でゆっくりできると思っていた矢先に、リボーン君の言葉でツナは意味が分からないと言ったように首をかしげた。

「沢田ツナです。ボ…ボンゴレファミリーの…」
「ツナ…」
「これだけは言いたくなかったよ!」
「仕方ないじゃない。マフィアランドだもん」

リボーンちゃん曰く、ここはマフィアが真っ白な気持ちで休めるようにドス黒い金を大量につぎこんだというリゾート地。
見た目は、誰が見てもマフィア関係だなんて思わない。遊園地にビーチにホテル…。
至れり尽くせりの施設だらけだ。

「本当、凄いや」
「はぁー…なんで俺が…」
「代表者がツナだからでしょ?」
「リボーンの奴ー!」

リボーン君に言われたとおり、受付へと向かった私とツナだったんだけど、入会のために推薦状のない私達…。
否、ツナはマフィア審査と言うものを受けさせられることになった。

「頑張って!ツナ」
「そう言われても、こればっかりはさ…」
「大丈夫!何があっても私はツナに付き合ってあげるから!」
「こ、こわくなるようなこと言うなよー!」

私達は受付のお姉さんに別室へと案内された。
入ってみるとそこには、いかにもマフィアらしい風貌をした男の人が座っているが、どうやら人形のようだ。

「彼に正しいやり方でワイロを渡してください」
「なにそれー?!!」
「ツナ、知ってるの?」
「知るわけないだろー!!」
「ちなみに審査を放棄なさると、連れの方共々皆殺しですよ?」

私達は、ニッコリ笑顔のお姉さんからさらりと凄いことを言われてしまった…。

「では、始めて下さい」
「そ、そんなー?!」
「ファイト!ツナ!」

ツナは、おそらく当てずっぽうだと思うが、マフィアらしく隠すようにワイロを渡そうとしていた。
しかし、こればっかりは、私も見ても分からない…。ちらりと私が受付のお姉さんを伺うと、お姉さんは明るい笑顔で声をあげる。

「はい!そこまでー!」
「ぇえ?!」
「『このお金はワイロです』と言わないと何のお金か分かりませんよ」
「露骨すぎない!?」
「確かに…」
「残念ですが、失格です!」
「わっわわっ!」
「きゃっ!」

受付のお姉さんの声が響き渡ると、数名の警備員であろう人達が私達の体を掴みあげる。

「うわっ!」
「ひゃっ!」

そんな警備員の人達に無理やり連れてこられた所は辺りが真っ暗で何も見えない…。

「ここは…?」
「この音…。地下鉄!?」
「え。電車?!どこ行くのかな?」

私とツナが戸惑っていると、聞きなれた声が響く。

「裏マフィアランドだぞ」
「リボーン!!どーなるんだよ?!」
「行けば分かるぞ」
「行けばって…!も連れて行く気かよ!」
「あ、私は別に…」
「大丈夫とか言うなよ!ただでさえ病み上がりのくせに!」
「うっ…」
「その台詞は聞き飽きた」

そんなこと言われても、ツナと一緒にいたいんだから仕方ないじゃない…。心の中でそんなことを思いながら、ふと私は電車の窓を開けてみる。

「あ、奈々さん達だ」

電車の窓から奈々さん達が海で楽しそうに遊んでる姿が目に入った。

「ほんとゴメン、。巻き込んじゃって…」
「私が勝手にツナに付いてきたんだもの。ツナが謝る必要ないよー」
「でも…」
「いいのいいの!私はツナと行ければどこでも楽しいから」
「お、お前はまたそんな冗談…」
「本当だよ!冗談じゃないよ!」
「イチャついてる場合じゃねぇぞ、ツナ」
「え…」

リボーン君が一言そう言い放った直後、電車はキーという音をたて、停止した。どうやら目的地に到着したらしい。

「島の…裏側?」
「凄い絶壁だね」
「よく来たなコラ!」
「「?」」

誰の声か分からずきょろきょろと私とツナは辺りを見渡すも周りには誰もいる気配がない。

「名乗れコラ!」
「なにこの赤ん坊!?」
「可愛いー!」

聞こえてきた声の方向に目を向けると、私達の足元でショットガンを持ち、自衛隊のような格好をした赤ん坊立っていた。

「ちゃおっス!コロネロ」
「リボーン!!」
「何でリボーン君と戦ってるのかな?」
「ひぃいいい!」

リボーン君がコロネロと呼ぶ赤ん坊と再会を果たすや否や、なぜか私達の前で二人の戦闘が始まってしまった。
ズガン!とリボーン君がコロネロ君の頭に命中させたところで、リボーン君が私達に目を向けた。

「こいつが裏マフィアランドの責任者、コロネロだぞ」
「って殺してんじゃん!」
「大丈夫?!」
「鍛え方が違うぜコラ!」

コロネロ君は何事も無かったかのようにムクリと立ち上がった。

「リボーンの友達なのか?」
「そんないいもんじゃないぜコラ!こいつとは腐れ縁だ」
「俺達は同じ所で生まれ育ったんだ」
「じゃあ幼馴染なんだ!」
「どーりで変な奴なわけだ」

ツナ、それ結構キツイと思う…。

「何しに来た」
「見学に来ただけだぞ。俺の生徒のツナがここで修行することになっちまったからな」
「はぁ?!なんだよ修行って!」
「どういうこと?」
「裏マフィアランドは修行場なんだ」

リボーン君がいうには、審査で失格し不法侵入とみなされた人にも一度だけ再審査のチャンスが与えられるらしい。

「そのために鍛える場所なんだ!」
「そうだぞ、そして…」
「な、なんだよ」
「鍛える教官が元イタリア海軍潜水奇襲部隊COMSUBINのコロネロだ」
「この赤ん坊、軍人だったのー!」
「そーか。お前がボンゴレ10代目かコラ!ってことは…」
「?」

コロネロ君はツナの次に私のことをじっと見た。

「かぐやか…」
「え?」
「コロネロ、こいつは何も知らねーぞ」
「なに?そんな重要なこと…。って、今はそういう話じゃなかったなコラ。確か、だなコラ!」
「う、うん。私のこと知ってるの?」
「まぁな。これでも教官だからなコラ!」
「あ、そっか」
「…」

私のことを見て、確か最初に“かぐや”…って言ったような気がしたが、気のせいだろうか。
それに、リボーン君も一番最初に会った時、私のことをじっと見ていたような。
でも、私は“かぐや”なんて名前じゃないし…人違い、かな?
そんなことを思っている私を余所に、話はリボーン君とコロネロ君の二人でツナを鍛える話に発展していた。

「うわぁあああ!!」
「あの…」
「ひぃー!!!」
「リボーン君…コロネロ君…」
「しっかりやれ!アホ」
「逃げるんじゃねーコラ!」
「ツナ、大丈夫かな…?」
「いつもの2倍ボロボロー!」

そりゃあ、手足を縛られてリボーン君とコロネロ君の攻撃を受け放題だったのだから当然だろう。

「だいぶ鍛えられたな」
「え」
「「オレ達が!!」」
「いや、違うくない?!」

普段こういうツッコミはツナなのに、思わず私がツッコミを入れてしまった…。

「何いってんだ。ツナにいい思い出が出来ただろ?」
「え?いや、そう言われると…」
「乗せられるなよ!いらないよ!こんな思い出!!」

プシュー!!

「あれ?電車の音だよね?」

汽笛を鳴らした電車が、私達の目の前で停車した。

「また修行者がきたな」
「え…」
「沢田ちゃーん!ちゃーん!」
「ロンシャン君?!」
「なんでー!!?」
「いやー、それがさー」

ロンシャン君は明るい笑顔で、さらりと凄いことを私達に激白した。

「新しい彼女のレンコがさー、スパイだったみたい」
「なっ!」
「うそぉ!?」

ロンシャン君曰く、その個性的らしい新しい彼女は、カルカッサファミリーというスパイで、まんまと騙されたんだとか。

「っていうことは…」

ドガーン!!

「ひゃっ!」
「その話、嘘じゃねーみたいだなコラ!」
「場所を察知されたみてぇだ」

爆発音が聞こえたと同時に、敵襲!というアナウンスが酷く私達の耳に響き渡った。

「ちょっと待て!なんでマフィアがマフィアランドに攻めてくるんだよ!」
「あ、たしかに」
「ファミリーが金を出しあったんだろ?!」
「全部のファミリーじゃねーんだ」
「どういうこと?」
「ここをつくったのは、いいもんのマフィアだ」

そのことを面白く思っていないファミリーがあるらしく、そのカルカッサファミリーもその一つらしい。

「マフィアにいいもんとかねーだろ!」
「ツナ今日、いつも以上に冴えてるね!」
「いや、普通だから!ってか、ここで抗争が始まるのかよ?!」
「ってより戦争だな」
「え…えええ!」
「見ろ。おしゃぶりが光ってる、知り合いだぜ」
「こんなくだらねーことするのは…」
「「?」」

私とツナは首をかしげて二人を見る。どうやら、コロネロ君とリボーン君にはその相手に心辺りがあるらしい。

「スカルしかいねーな」

ドドーン!

大砲のような音がずっと響いて止まらない。地鳴りのようにぐらりと地面が揺れている。

「きゃっ!」
!大丈夫?!」
「う、うん」

大きな揺れで思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ私にツナが心配そうに手を差し出す。私はツナの手を借りてゆっくりと起き上がった。

「今日は警備をするはずのファミリーがボスの命日で、本土に行ってやがるんだ」
「…ってことは?」
「この島に戦える兵隊は殆どいない」
「ぇえええ!!!」
「それやばいよ!負けちゃうよ?!」
「どーすんだよ!」

衝撃の事実を知った私たちがコロネロ君とリボーン君の方へ詰め寄る。

「安心しろ。オレが居る限り好きにはさせん。だが…」
「?」
「お昼寝の時間だぜ…」
「おいー!!」

コロネロ君は、すっかりお昼寝モードに入ったらしく、スピーという寝息を立ててしまった。

「コロネロはほっとけ。マフィアランドに戻るぞ…よ」
「「ぞよ?」」
「スピー」
「ありゃりゃ」

リボーン君もすっかりお昼寝モードのようだ…。ツナは、ガクッと肩を落とした。

「あーもう!リボーンの奴!!」
「はぁ~…」

大変な時だけど、起こすとリボーン君達は絶対に怒るだろうと言うことで、とりあえず私とツナとロンシャン君でマフィアランドに向かうことになった。
しかし、地下鉄も停電で使えないため歩いて進むことに…。
だけど、トンネルの中は暗くて何も見えない。まさに真っ暗闇とはこのことだ。正直言ってこの状況は、かなり怖い!!

ちゃん!どうかした?」
「う、ううん!なんでもないよ!」

私が下を向いてなにも喋らないことに違和感を感じたらしいロンシャン君が、明るく声を掛けてくれる。

「…」
「早く行こう!」
「そだね!そだね!」

とにかく出来るだけ早くこの薄気味悪いトンネルから出たい!!
私が歩くスピードを速めてツナとロンシャン君より一歩前へ出ると、後ろから誰かに右手を掴まれたのが分かった。

「きゃぁあああ!」
「怖いくせに」
「ツ、ツナ?!びっくりしたー!」
「そんな大声出しといて、よくなんでもないなんて言えるよな」
「それはツナが急に…!」
「いいから行くぞ。早く出るんだろ?」
「あ…え。いいの?」
「なにが?」
「…ううん。ありがとう」

ツナは私の右手を引きながら前へと進んだ。こうしてツナに手を握られていると、安心出来てしまう自分がいる。
そんなときいつも思うんだ。やっぱり、私はツナのことが好きだなぁって…。

「沢田ちゃん!ちゃん!トンネル抜けたよ!」
「え!」
「本当?!」
「なるほど!ここに出るんだ!」

真っ暗闇のトンネルの中に、ピカッとした太陽の光に照らされてくる。見えてきた場所は…。

「お城だ!」
「マフィアランドの象徴!マフィア城!」
「すげー…」

私達が呆然とお城を眺めていると、ロンシャン君の名が呼ばれ、扉の中から早く入るよう呼びかけられた。

「マングスタ!」

どうやら声主は、ロンシャン君のファミリーだったらしい。お城の中に入ると、皆ここに非難していたようだ。

「あ!母さん達だ!」
「本当だ!」
「ツー君!ちゃん!」

私達が奈々さんの元へ掛け寄ると、奈々さんは変わらぬ笑顔で私達に笑いかける。

「このお城で敵マフィアを迎え撃つんでしょ?」
「なっ!」
「面白いイベントねー」
「山本的ー!!」
「あはは…」

どうやら奈々さんは、マフィアが攻めてくるのが現実であると言うことに全く気づいてないらしい。

も一緒に私達と来なさい」
「え?」

ビアンキさんに声を掛けられ、戸惑っていると奈々さんが楽しげに言う。

「母さん達、女性は後方でご飯をつくるのよ!」
「でも…」

ちらりと私はツナの方を見る。

、行ってきたら?」
「…ツナは?」

大丈夫なのだろうか?私が心配そうにツナに尋ねると、なんでもないようにツナはいつものように笑顔を見せる。

「俺は大丈夫!っていうか、ビアンキがつくる料理の方が心配だよ!」
「あ…そっか。じゃあ、ビアンキさんは私が見てるね」
「頼むよ」
「うん。ツナも気をつけて!」

こうして、私はツナと別れて奈々さん達と一緒に後方へと向かった。

ドドドド!!

外から銃声の音が止まることなく鳴り響いている。

「凄い音…」
「激しくやってるわね」
「ツナ…大丈夫かな?」

おにぎりを握りながら、私がぼそりと呟くと隣で聞いていたらしいビアンキさんが私に耳打ちをする。

「…見に行ってみる?」
「え?でも…」
「心配なんでしょ」

ビアンキさんの言葉にこくりと頷くと、ビアンキさんはにっこりと優しい笑顔で私を見た。

「行きましょう。私も一緒に付いて行ってあげるから」

こうして私はビアンキさんと一緒にこっそりと階段を上がり外へと向かう。
でも、私達が着いたころには銃声の音が先ほどより静かになっていた。

「…なに?この子?」

地面にヘルメットを被った赤ちゃんが倒れていた。

!お前、なんでここに?!」
「ビアンキさんに連れてきてもらったの」

そして、私はツナから、スカルというヘルメットを被った赤ん坊のことを聞いた。
どうやらこの子も、アルコバレーノの一人らしい。

「じゃあ、リボーン君達が結局倒しちゃったんだね」
「まぁ、平和になってなによりだよ。ただ…」
「全然、遊べなかったけどね」
「はぁ…」

ツナは疲れたように深く息を吐いた。

「私は、楽しかったけどなぁ」
「どこがだよ!」

ツナのツッコミに私はくすりと笑う。いい思い出が出来ました。