28話 やっぱり夏は海!
「あ!私、飲み物買ってくるから先に行ってて!」
「うん!」
「ツナさん達のところで待ってますから!」
私は、なんとなく京子ちゃんとハルちゃんと一緒に行く勇気がなかった…。
「はぁ…」
私達は京子ちゃんのお兄さん…了平さんがライフセイバーの先輩のお手伝いをするということで、海に遊びに呼んでくれたんだけど…。
「ハルちゃんも京子ちゃんも可愛いんだもん!」
女の私からみても、可愛い。先ほどから二人と一緒に歩いていると視線がいっぱいで、きっと周りの皆も私と同じ意見に違いない。
「なんか、疲れちゃったなぁ」
ツナ達のところへ行く勇気もないし、新しく買った水着の上に着ているパーカーを脱ごうとも思わない。いや、思えない。
「…おじちゃん、アイス頂戴」
私は、とりあえず一人で心を落ち着かせようと思い、アイスを一本買ってその場で座りこんだ。
すると私の方に、色黒の三人で怖そうなお兄さん達がどんどん近付い、て?…近づいて? 私の目の前で立ち止まり、笑顔で私を見下ろしている。
「君、迷子?」
「…はい?」
「俺達ライフセーバーやってんだけどさ」
「はぁ…?」
「一人なら一緒に遊ばない?」
「…」
ライフセーバーやってるっていうのになんで遊ぶの?あ。そうか、私、迷子だと思われてるのか…。 そういえば、ツナたち何処にいるんだろう?やばい!探さなきゃ!本当に迷子になっちゃう。
「あの!私、友達のところに戻らないと…!」
「えー、いいじゃん。俺たちと遊びに行こうぜ」
「で、でも、私!」
「そうだ。俺達が一緒にお友達さがしてあげるよ」
「あ、ありがとうございます。でも、すぐ近くにいると思うんで…」
「気を使わなくていいからさー」
「そうそう。俺達、ライフセーバーだし」
「え?…ちょ、ちょっと!」
二人に背中を押される一方で、一人に手を引かれてどこかに連れて行かれそうになり、 親切心なら無下にもできないと思っていただけに、私がどうしようかと悩んでいた時だった…。
「あの…私、大丈夫ですから!迷子じゃないんで!」
「(ん?これ、どこかで聞いた声…って!)?!」
「え…ツナー!!」
「なんだ、先輩達と一緒だったのか」
色黒の男の人達と一緒に居た私を見て、了平さんがそういう。
「…せん、ぱい?」
「先輩達は元並中ボクシング部なんだ」
「へ、へー…」
改めて、ちらりと私は三人を見た。どこからどうみても、一見怖そうなお兄さんなんだけど、まさか了平さんの先輩だったとは…。
「もしかして了平の妹これ?へーなかなか俺好みかもしれない」
「こ…こんにちは」
「んじゃ、女の子達は一緒に遊ぶか」
「は…はい?」
「おまえらは暫く海の平和を守ってくれや」
「ちょっ!まっ!」
「まてよ」
「てめーらの仕事するスジはねぇぞ」
「二人とも!」
私は、武と獄寺に視線が集中した隙に先輩達の手を払い、ツナの後ろに隠れた。 するとツナがボソッと小さな声で私に尋ねる。
「…、なんであんな人たちと一緒にいたのさ」
「え?あー…アイス食べてたら声掛けられて…」
「はぁ?いつもならあんな奴ら容赦なく投げ飛ばそうとするくせに、なんでこんな時に限って…!」
「し、仕方ないじゃない!ライフセーバーだって言うし、最初は親切で声掛けてくれたのかなって思ってたんだもの」
「お前、ちょっとは危機感を…」
「ハルはツナさん達と泳ぎに来たんです!」
「へー、どいつがツナさんだ?」
先輩達を余所に会話をしていた私とツナだったが、大きなハルちゃんと先輩の声が響き渡り、思わずびくりと肩を震わせ、話を中断させる。
ジロリと先輩達は私達の方を見渡している。
「(ハルの馬鹿!俺の名前出すなよ!)」
「ツナ…」
「ツナってマグロのことだろ?」
「なっ!」
「相当、泳げるんだろうな」
…さすがにこれは許せない。ハルちゃんや京子ちゃんには馴れ馴れしいし、ツナのことは馬鹿にするし。
「あん…むぐ?!」
「俺は大丈夫だから!!」
私が喋ろうとする前に、ツナに手で口を塞がれた。
「だって!」
「いいから!もうこれ以上、絡むなよ!」
「てめーらばらすぞ!」
「ご、獄寺君?!」
心の中で獄寺を応援していた私だったが、先輩たちは軽く獄寺の言葉を交わす。
「喧嘩はパスだ。俺達はライフセイバーだからな。3対3のスイム勝負!敗者は勝者の下僕となるんだ」
「なぁ!?」
「何言ってるんですか!」
「そん!」
ポフッ!
「面白そーだな」
私は、リボーン君に無理やり口を塞がれた。 京子ちゃんが私の代わりに声を上げようとすると…。 「でも」
ポフッ!
「あの」
ポフッ!
「けどよ」
ポフッ!
「しかし」
ポフッ!
「その勝負受けてやるぞ」
「物理的にだまらせたー!?」
「リボーン君…」
全員、有無を言えずにリボーン君に口をふさがれ、結果として勝負を受けることになってしまった。
「んじゃ決まりだな」
「そんな!?」
「何してくれてんだよ!お前!」
「勝ちゃーいいだけのことだ」
「そりゃ、そーだな。まぁいっか」
海の向こうに浮かぶ、たんこぶ岩を泳ぎぐるりと周ってくる勝負らしい。泳ぎ方は自由で、3本中2本先取で勝ちというルールだ。
「んじゃ俺、先行くぜ」
「3本目は10代目頼めますか?」
「えー!俺ー?!」
まぁ、確かにお兄さんが泳ぐよりはマシか。でも、ツナって、海で泳げるのかな? 確か、小さいころ沖に流されたり、溺れたりで随分ライフセイバーのお世話になった記憶がある…。 普通、そんな経験を何回もしてたら海で泳ぐのなんて相当嫌なはずだ。
「ツナ…」
「しっかり応援するね!」
「ハルも応援します!」
「うん!」
「ツナ…私が泳ごうか?」
ハルと京子ちゃんの応援で後に引けなくなっているツナに私がぼそりと尋ねる。
「いや!流石にそんな危ないことさせられないよ!」
「だって、ツナは!」
「大丈夫!…じゃないけど、どうにかするよ」
「ツナ…」
「では、開始するぞ!」
「第1走者!ヨーイ」
ダァン!!とピストルの音と共に、武と先輩は海の方へと走った。
「よし!」
「山本の方が速い!」
「流石!武!」
「すっごーい!」
「ファイトですー!」
圧倒的な差で先輩より優位に立っていた武だったが…。
「でも…なんか変だよ」
「山本が帰ってこない!」
「どうしたんだろう?」
先輩達は、足でもつって岩カゲにでも休んでるんだろう。なんて、言うけど、毎日欠かさずにトレーニングをしている武に限ってそんなはずがない。
「山本…」
「大丈夫です!10代目!」
「獄寺君!」
そういうと獄寺は、武と同じときのように合図と共に海へ飛び込んだ。
「がんばれ!」
「すごいよ!互角だ!」
「獄寺さーん!」
「…ツナ」
「な、なに?」
「やっぱり、私が泳ぐよ」
「え?!ちょっ!なに言ってんだよ!」
「だって、嫌な予感するもの」
私だって、泳ぐのはそんなに得意な方じゃない。でも、特別に泳げないってわけでもない。ツナより少しマシってくらいだと思う。
「あれ?!」
「え…獄寺君は?!」
「んー?第二泳者も足つったのか?」
私の嫌な予感が的中したのか、またしても優位に立っていたはずの獄寺が折り返しの地点から戻ってこない。 2本先取で勝ちとなるが、次の1本で私達の勝ちにしてくれるという。怪しすぎる…。
「待て!奴らが心配だ!岩へ行ってくる!」
「そーだよ!お兄ちゃん!」
「了平!いま奴らは、岩の自然と語り合ってるんだ。邪魔するな」
「なるほど!」
「お兄ちゃん!!」
どうやらお兄さんは、天然のようだ…。
「私が泳ぐよ!ツナ!」
「いや、駄目だって!」
上着を脱いで泳ごうとする私を宥めるように、ツナは私の肩を掴む。
「でも…」
「だ、大丈夫だから!待ってて!」
「ツナ!」
「いこうぜ、ツナさん」
「ひぃ!」
ツナは、グッと目を瞑りながら海へ合図と共に入った。
「…凄い」
「すごい上達です!」
「ツナ君!」
ツナが、海で泳いでる…。
「頑張れ…ツナ」
そんな勝負の真っ最中に、女性の甲高い悲鳴が沖にまで響いていた。
「誰かー!!うちの子を助けてー!」
「え?」
「はひ?!」
子供が流されてる!と、私たちが確認した時には、すでにツナはその子へと泳ぐ方向をかえていた。
「え…ツナ?!」
「無茶です!」
ツナは、助けに行く気なんだ…。
「ツナが…」
「ちゃん?」
「ツナが一番、あの子の気持ちが分かるんだよ…」
「ツナ君…」
あいつらには、わかんないよ!流れていく怖さなんて!
「もう少しだから!」
「お兄ちゃん!」
「も…大丈夫…あれ?」
やっと、たどりついたのに…
「体が…動かない」
「えええ!!」
「ボンゴレ的だな」
ガチャ
「復活!死ぬ気で救助活動!!」
「ツナ…」
私は、死ぬ気になってこっちの岸に向かっているツナを見て安堵の息が出た。
「へっ…岩のカゲには後輩がたっぷりいるんだ」
私は、その言葉を聞いて先輩達を睨みつける。でも、そこで目にしたのは…。
「後輩ってのはこいつらのことか?」
「センパイ方」
「かわいがってくれたお礼をしなくちゃな」
「武!獄寺!」
恐らく二人を襲って、逆に返り討ちにあったのであろう男の人達をたくさん引き連れて、武と獄寺は無傷で私達の前に現れた。
「わりぃな!心配かけちまって」
「本当だよ!」
「けっ!てめぇに心配される程、ヤワじゃねーんだよ」
「なっ!…まぁ、今回は言い返さないでおいてあげる」
「なんだとー」
「なによー!」
「まーまー」
武に宥められ、獄寺との言い争いが終わる。先輩達も観念したように膝をついていた。
「助けてくれたのは、もっと鬼みたいな顔したお兄ちゃんだった」
「なっ!」
「ぷっ…あはは!」
「!」
「ごめん!つい!」
死ぬ気じゃないツナは、助けた男の子に信じてもらえなかった。
「でも、私は分かってるから」
「…」
「カッコよかったよ。ツナ」
「あ…ありがとう」
少し照れたようなツナに私は小さく笑う。
「でも、ツナがそんなに海で泳ぎたかったなんて知らなかったよ」
「え?」
「私、てっきり海はまだ苦手なのかと」
「嫌なこと思いださせないでよ!それに、そんなに海で泳ぐのが好きなわけでもないよ」
「だって、あんなに私が泳ぐって言ったのに勝負受けるし」
「危険だって分かってて、に行かせるわけないだろう!あ!それにまださっきの話だって終わってないんだからな!」
「さっきの話?」
「女の子なんだから気をつけろよ!あと誰にでも簡単に付いて行くな!」
「誰にでもって…。私、ランボ君じゃないんだし…」
「俺は、心配だから言ってるの!」
「心配…?」
「あ。いや…別に深い訳は…」
「ふふふ…。うん。ありがとう、ツナ」
ツナの優しさが伝わってきてなんだか嬉しくなってしまった。ツナが心配してくれたのが嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。 そんな私に追い打ちを掛けるようにツナが、真っ赤な顔で私にいう。
「っ!…に、似合ってる!」
「え?」
「水着」
「…あっ!」
さっきの勝負でツナの代わりに泳ごうとしてパーカー脱いだままだったの…忘れてた! そんなこと言ってもらえるとは思ってもいなかっただけに、もう私の頭はキャパオーバーだ。
「あう…」
「なんだよ。その反応」
「な、なんでもない!」
「はぁ?」
「(駄目駄目駄目!嬉しくて、可笑しくなっちゃう…!)」
もはや言葉にならない。恥ずかしさと嬉しさがごっちゃになって、まともにツナの顔を見ることができない。
「おい、?」
「はう…!あ、ちょ…ちょっと頭冷やしてくるー!」
「あ!お前、そんな格好でまた!ったく…待てって!」
「だめー!」
走り出した私を心配して追いかけてくれるツナ。とっても嬉しいんだけど…だけど…!恥ずかしくて、今はだめー!
「なにやってんだ?ツナとの奴」
「放っとけ」
楽しい夏の一日が終わりを告げようとしていた。