29話 いや、夏は祭りでしょ!
「恭ちゃんせんぱーい!もう、終わりでいいですよねー?」
「駄目に決まってるでしょ」
「ええー!!」
「仕事だよ」
「なんでショバ代なんて集めないといけないんですかー…」
私だってお祭り楽しみたいよ!!ワタアメだって、とうもろこしだって、苺飴だって食べたいよ!それになにより…
「ツナと来たかったなぁ…」
私がぼそりと呟くと、お金を数えていた恭ちゃん先輩の動きがぴたりと止まった。
「…奥向かいの店」
「はい?」
「ショバ代、まだ貰ってないよ」
「あ、はい!私、行ってきます」
私は、『チョコバナナ』と大きく書かれたお店の方に向かった。
「すいませーん!」
「がんばりましょう!10代目!」
「え…オレもー!!?」
ランボとイーピンのお守りをだけでもダルかったのに、七夕大会の時に山本が壊した公民館の壁の修理代を払うためのお金稼ぎかぁ…。 バナナ500本なんて、大変そうだけど…。
「わりーな、ツナ」
「(獄寺くんと山本が二人がやるのに、やらないわけにはいかないよね)」
よし。と気合を入れて俺も店の中に入ると、周りの店の人達がなにやらざわめき始めていた。
「おい!お前らもショバ代用意しとけよ」
「ショバ代!?」
「ここらを取り締まってる連中に金を払うのが並盛の伝統らしいっス」
「へ、へ~」
「ここはスジを通して払うつもりっス」
「そ、そうなんだ…」
もしかして裏社会のぞいちゃってるんじゃないの?!おじさん達の言葉に、思わず気が動転してしまいそうになっていたその時…。
「すいませーん」
という聞きなれた女の子の声がした。
「ショバ代、5万くださーい」
「あ、はい…って、?!」
「あれ?ツナ!!」
「なんでお前がショバ代集めてるんだよ!」
「委員会の仕事なんだって」
「委員会?委員会って…まさか、ショバ代って…風紀委員にー!?」
「活動費だよ」
「きゃあああ!」
恭ちゃん先輩は私の背後からやってきて何事もないように、そういった。
「恭ちゃん先輩!急に喋りかけないでくださいよ!」
居るの気づかなかったから、思わず声を上げてしまった。
「雲雀さん!」
「払えないなら、屋台をつぶすよ」
実際に潰されてる店があるから、冗談じゃなく本気だろう。 どうやら最初から払うつもりだったらしいツナ達は慌てて、恭ちゃん先輩にお金を渡す。
「たしかに…あ。そうだ。」
「はい?」
「暫く自由にしていいよ」
「え!いいんですか?!」
「今出来ることは終わったからね。また呼びに来るけど」
そういうと恭ちゃん先輩は、5万を手にしてその場を去った。まさか、私のためにわざわざ此処まで…?
「恭ちゃんせんぱーい!私、一生ついていきますねー!!」
「…意味わかって言ってる?」
私の言葉に、恭ちゃん先輩は呆れたように深く息を吐く。 私が恭ちゃん先輩に大きく手を振り見送っていると、背後から聞きなれた可愛らしい声が響いた。
「ハル!京子ちゃん!!」
「わー!二人とも浴衣可愛い!」
「ちゃん!」
「あれ?委員会って言ってなかった?」
「あ、うん。今は自由時間なんだ」
「そうなんだ。ツナ君達はお店してるの?」
「うん。まぁね」
「でも、残念です。皆で花火見ようって言ってたんで」
「花火…」
「ちゃんも、一緒に行きましょうよ!」
「そうだよ!お仕事終わったんでしょ?」
「うーん、行きたいけど…」
恭ちゃん先輩、後で来るって言ってたし…あんまり動かない方がいいよね。 出来ればツナと花火が見たい。そのためには…。
「私はツナ達のお店を手伝うよ」
「え?!」
「そうですか…。一緒に回りたかったのに残念です…」
「また後で会おう!」
「うん!」
二人はツナ達のお店のチョコバナナを手にして本堂の方へと進んで行った。
「さ、早く終わらせようよ」
「全部売っちまえば、俺達も花火見にいけるもんな」
「ん?まーな」
「そ、そうか!じゃ、じゃあ、早く終わらせない?」
「うん!」
「そーだな!」
「10代目のお望みとあらば!!」
こうして、私達は張り切ってお店を展開させることになったんだけど…。
「買えや!コラァアア!!」
「ご、獄寺君!!」
やる気が空回りしているらしい。当たり前だけど、お客さんはめちゃくちゃ怖がって近寄ってこない。でも、その一方では…。
「あいよ!3つね!」
「ありがとー!」
「凄いね!武!」
「まぁ、実家が寿司屋だしな」
上手いのも、ごもっともだ。手なれた手つきで子供たちにチョコバナナを売っている。
「よーし!私も!」
「じゃあ、アドバイスしましょうか?」
「え?あ!!」
「大人イーピン!」
「イーピンちゃん!」
大人姿のイーピンちゃんが可愛い浴衣を着て、私達の目の前に現れた。
「浴衣にあうね!」
「もうー、沢田さんったら。大家さんの娘さんのおさがりをお借りしたんです」
「へー」
私も着たかったなぁ。浴衣…。 でも、恭ちゃん先輩がなー。一応、委員会活動だったから制服着てなかったら怒られてただろうしなぁ。
「商品は見た目が大事ですよ!」
「ぁあ?」
「チョコぬったのも展示しましょうよ」
「あ。なるほど」
いくら生チョコをぬるからといっても、何もぬってないバナナを並べていても仕方ないもんね。
「イーピン、商才あるんだ」
「まぁ、それも納得」
「あとは風水かな?」
「(中華なの、きた!!)」
「まぁ…そうくるよね」
でも、イーピンちゃんのアドバイスのおかげで順調に売り上げを伸ばすことが出来た。
「ありがとうございます!」
「あと1箱で完売っス!」
「ぉお!これなら花火は余裕で間にあうぞ!」
「そうだね!」
「ワリーけど、5分程はずしていいか?」
「え?」
「毎年、屋台のボールの的当てしてんだけど、それやんねーと祭り来た感じがしなくてな」
「(この人もきっと屋台泣かせだ!!)」
「大丈夫だよ。私が見てるから」
「うん!今、皆は神輿見に行ってて人、少ないし」
「景品もってくっからなー」
笑顔で一度店を出る武に手を振ると、獄寺も一緒に一度店の外に出る。
「10代目!自分はトイレに行ってきます」
「うん!まかしといて!」
「俺はおどってくるぞ。もどうだ?」
「ふふ、後でいくね」
「そうか?」
そう言って浴衣を着たリボーン君も仮面を被っていってしまった。 ツナは疲れたように店の中に置いてある椅子に腰かけ、足を伸ばす。
「よかったね。花火」
「うん。これで、皆と一緒とはいえ浴衣の京子ちゃんと花火が見れるよ」
「…」
「なんだよ、その目は」
「別にー。なんでもなーい」
「はぁ?」
今いるのだって、私じゃなくて、京子ちゃんがいいんだろうな…。なんて思ってしまう。 あーあ、せめて私も浴衣着たかったなー…。と私が息を吐くとツナの叫び声が大きく響いた。
「のわぁあああ!」
「な、なに?!」
「売り上げが!まさか、あれが噂のひったくり犯?!」
「ひったくり…ぁあ!」
そういえば昨日から、流行ってるって…。 店に置いていた金庫が無くなっていることに気付いたツナは慌ててお店を飛び出し、お金を盗んだ男を追いかけた。
「!店頼む!!」
「ちょっ!ツナ一人じゃ…ぁあー!どうしよう!」
追いかけて行きたいけど、店を放っておくわけにいかないし…と私が頭を抱えていると…。
「、何してるの?そろそろ時間だよ」
「きょ、恭ちゃん先輩!いいところに!!」
「なんの話?」
ツナがひったくり犯を追い掛けて来てみると、見覚えのある人相であることに気が着く。 確か、この人達は、この前の海で会った…。
「ライフセイバーの先輩?!」
「ひったくりは俺らの副業で、夏はかせぎ時なんだわ」
「ぇえ!?」
じゃあ、ひったくりの主犯ってこの人達ー!?ど、どうしよう…。このままじゃ、皆で頑張ったお金が!と、とりあえず、獄寺君と山本に…。
「どこいくんだ?」
「ひーー!!」
勢いで追いかけてきてしまったが、こんな大勢の中で逃げ出すのは無理だ…。
「二度と喋れなくしてやるよ」
「そっ!そんなー!!」
花火どころか、絶体絶命だよー!!
バキッ!
「…え?」
「うれしくて、身震いするよ。追跡中のひったくり集団を大量捕獲」
「私のツナに手を出すなんて許せない!」
「雲雀さん!!」
「ツナ!大丈夫?」
「お前、なんで…」
私は倒れこんでいるツナに駆け寄り、手を差し出す。
「たまたま恭ちゃん先輩が来てくれたからお願いしたの。あ、お店も風紀委員の人に頼んできたよ」
「ええええ!大丈夫なの?!それ!」
「大丈夫だよ。見張り頼んだだけだから」
「君達がひったくってくれた金は、風紀が全部頂く」
「(またあの人は、自分のことばかりだしー!)」
「恭ちゃん先輩、主旨が変わってます」
「言っておくけど無理矢理、僕に付いてきたのは君だから。離れたら面倒見切れないよ。」
「え?」
恭ちゃん先輩はスッと私の前に出て、トンファーを構えた。
「きょ、恭ちゃん先輩!まさか!」
「雲雀さんでも、この数はヤバいですよ!」
「だったらお前も、戦え」
ズガン!
「リボーン君!」
「復活!!死ぬ気でケンカー!!!」
「余計だな…」
「たかが中坊2人と女1人だ!一気に仕掛けろ!!」
「っ!」
ズドン!
一斉攻撃をしかけられた瞬間、背後からの殺気に気づき、考えるよりも先に私の体が動いた。 男の人の首に、私の後ろ廻し蹴りが見事に決まってしまう。
「あ!ごめんなさい!私、思わず…!」
「なんだこの女…」
辺りの男の人達がざわつき出すなか、私より派手な音が響き渡った。
ドカァアン!!
「10代目!」
「助っ人とーじょー」
「二人とも!!」
武と獄寺が周囲の男の人達を倒し、私達の元に駆け寄る。
「雲雀との初の共同戦線だな」
「冗談じゃない。ひったくった金は僕がもらう」
「やらん!」
「当然っス!」
ドッ!!
派手な音が鳴り響き、気がつけばツナ達が勝利をおさめていた。
「なんとか俺達の金は雲雀から守ったが…」
「ボロボロだなー」
「以外ね…」
「一応止めたんだけど、無理矢理共同戦線にされたのが腹立ったのか、機嫌悪かったみたいだね」
私は無傷なんだけど、ツナたちは本当にぼろぼろです…。その半分以上が恭ちゃん先輩の所為だけど。
「もう花火、間に合わないね」
ツナがぼそりと呟いた時、遠くから大きな声が聞こえてきた。
「ツナさーん!」
「え?!」
「京子ちゃん!ハルちゃん!」
「俺が呼んだんだぞ」
「リ…リボーン!お前!」
「勘違いすんなよ。ここは、花火の隠れスポットなんだ」
「ほんとだ…綺麗」
リボーン君が言った通り、ここから大きな花火がはっきりと近くで見える。
「…」
「なに?」
ツナは少しだけ顔を赤くしながら私の方を見た。
「来年は、さ」
「うん?」
「浴衣、着てよ。今年は見れなかったからさ」
思いもしなかったツナの言葉に私の体温が一気に上昇する。
「…き!」
「え?」
「ツナの為に着させていただきますー!!」
思わず私はツナの手を握り締めた。
「え!いや、俺、そこまで…」
「お祭り最高!!」
皆で一緒に見たこの日の花火は、最高に綺麗でした。