31話 黒曜生は脱獄犯?!


「ここ…どこ?」

目が覚めた私は、周囲を見渡す。どうやら、私は今どこかの廃墟にいるらしい。

ズキッ!

「いたっ!」

起きた瞬間、体に痛みを感じた。あの時、殴られたところかな?と私は自分の体を確認するように手足を見る。

「あれ?切れてる…」

ふと右手首を見ると、針で刺されたかのような小さな痕があり、かすかに血が出ていた。 あのメガネの…千種君、だっけ?彼の攻撃は当たっていないと思っていたが…知らないうちに当たっていたのだろうか。 でも、まぁ、大した傷でもないし別にいいか。と私は気にするのをやめた。

「…ツナ、どうしてるかな?」

朝起きて、ちゃんと学校、行ったのかな?それに、私のせいで巻き込まれて無いといいなぁ…。そんなことを思い、私は高い壁に開いた小さな穴から青い空を見上げた。


「お兄ちゃん!!」
「京子ちゃん!」
「どうして銭湯の煙突なんて登ったの?!」
「(どんな作り話したのー!?)」

俺は、病院で入院することになったお兄さんのもとに来ていた。 のことも気になるけど…とりあえず今はお兄さんから話を聞く方が先だ。 慌てて学校から病院に来た京子ちゃんも涙をためてお兄さんに詰め寄る。

「お兄ちゃん…それ本当に捻挫なの?」
「ああ」
「(無理ありすぎー!?)」

京子ちゃんを心配かけないと、黒曜生に襲われたことは言っていないらしい。俺にも口ウラをあわせるように言われたんだけど…。 銭湯の煙突から落ちてねん挫なんて…無理がありすぎる。

「嘘!捻挫で入院なんてするの?!」
「ひどい捻挫なんだ」
「手の包帯は?!」
「手も捻挫だ!」
「(どんな会話してんだ?!)」

お兄さんの本当の様態は、骨を6本折られ、7ヵ所にヒビが入り、おまけに歯を5本無くなっていた。もともとボクシングで折っていて、さし歯だったらしいけど、歯なんか持って行ってなにを…。

「でも良かった…。生きてて…」
「(京子ちゃん…)」
「な!なな…泣くなと言ってるだろう!」
「…」

この様子だと、京子ちゃんから昨日のの事を聞くのは無理そうだ…。 なにより、これ以上京子ちゃんに心配を掛けられない。俺は、だまってお兄さんの病室を出た。

「…何で、お兄さんがやられてんの!は大丈夫なの?!一体、なにがどーなってんのー!?」

病室を出た俺は、今までのモヤモヤを吐き出すかのように叫んだ。

「パニクってるのはツナだけじゃねーな」
「え…病院に並中生ばかりー!?」

俺がテンパッていると、クラスメイトの一人が声を掛けて教えてくれた。

「ええ!?剣道部の持田先輩もー!?」

しかし、それだけではなく、昨晩から3年で5人、2年で4人、1年で2人も並中の生徒がお兄さんと同様にやられているらしい。 襲われているのは風紀委員だけじゃないということだ…。

「ってことは、俺も関係あるのー!?どうしよう!」
「やっぱり護身術ならった方がいいな」
「では、委員長が見えないのだな」
「!!」

リボーンと俺の目の前に、風紀委員副委員長である草壁さんと風紀委員の人が通り、話が聞こえてきた。俺もリボーンも思わずその話に耳を貸す。

「ええ。いつものように恐らく敵の尻尾をつかんだかと…」
「そうか」
「これで犯人側の壊滅は時間の問題です」

雲雀さんが敵を…?まさか…のところに行ったんじゃ…!

「雲雀さんと同じ中学で良かったー!」

敵の場所が分かったのだとしたら安心だ。なにより雲雀さんは強いから助けてもらえるだろう…。 安堵したように俺は息を吐いた。



「もう一回…せーの!」

ドン!

ドシンッ!

「きゃっ!…いったーい!」

私は、どうにかして抜け出そうして何回も扉に突進中なんだけど、なんて頑丈な扉なんだ…。 私なら普通のドアくらいなら、開けられるはずなのにこの扉はビクともしない。最悪だ…。でも、そんなこと言ってられない。

「もう一回チャレンジ!」

意気込んだ私は、ドアに突進を試みて走り出す。すると…。

ガチャ

「え?!」

ドアが突然開き、人が入ってこようとしている。

「!」
「きゃああああ!!!」

人は急に止まれない。

ドーン!!

「っ!!ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?!」

思い切り突進をかまし、その人を押し倒してしまった。私は急いで顔を上げて、倒れ混んでしまった人をみる。

「…クフフフ」
「え?」
「可愛らしいお姫様かと思っていましたが」

ゆっくり体を起き上がらせる彼は、黒曜の制服をきて、どこか寂しげな目をした男の子。

「どうやら、とんだお転婆姫のようですね」

そう言いながら、紳士的に私の体を抱き上げて立ち上がった。

「え…あ、の…」
「六道骸と申します」
「六道、さん?」
「骸でいいですよ。
「!!」

なぜか私の名前を知っている六道骸と名乗った彼は、私の腰に手を回したままの状態で私の方を見ている。

「あの…骸、くん?」
「はい。なんでしょうか?」
「なんで、私の名前…」
「ああ。犬と千種に聞きました」

犬と千種…。私をここに連れてきた二人のことか…。やはり骸君は、彼らの仲間…。

「…私を、どうするの?」
「あなたのことは、少々調べさせていただきました」
「え?」
「驚きましたよ。あなたが、彼と繋がりがあったなんて」
「か、れ?」
「悪いとは思ったのですが…少し利用させていただきました」

そう言い骸君は、私の体をそっと離して距離を取る。

「おかげで、もうすぐ来るでしょう」

色々と聞きたいことは山々だが、誰が?彼って…?なんてこわくて聞けない…。だって、頭の中でそうじゃなければいいなと、思い描いてしまっているから…。

「さて、少しの間ですが僕とお話しをしましょか?」
「…」

私は差し出された骸君の手を静かに取り、ソファーへ腰掛けるように誘われた。



「だ、脱獄犯?!あなた達が?」
「はい」
「(いや、そんなさらりと言われましても…!)」

私は、骸君から二週間前に大罪を犯したマフィアばかりを収容している監獄から脱獄した。という話を聞いた。

「そして、今はマフィアの殲滅と世界滅亡を望んでいます」
「そ、そう…」

まって、まって…!そんな大きなことを簡単に話されても頭が付いていかないよ! 頭を抱えそうになりながらも私は、質問。と片手を上げる。

「どうして、そんな大事な事を私に話してくれるの?」
「あなたが欲しいからです」
「…はい?」
「先ほども言いましたが、のことは調べさせていただきました」

私は、黙って彼の言葉に耳を傾ける。

は空手をやってるらしいですね。犬と千種も苦戦したと言ってましたよ」
「今はやってないよ。もともと親に言われてやってただけだし、護身術程度のつもりだったから」
「そうなんですか…。のご両親も空手を?」
「さぁ。でも、自分の身を守れるようにしろって言われてたから…。って、今骸君達に捕まってるんだから守れてないか」

冗談めかしたように私が笑うと、骸君も少し笑い優しい瞳で私を見る。

「クフフ。その明るさはの魅力ですね」
「…魅力なんか、ないよ。こうしてないと本当に何もなくなっちゃいそうだから繕ってるだけ」

え。私…なんでこんな話…。

「私、いつも誰の支えにもなれないからせめて明るくいようって…。でもいつも自分のことで精一杯で全然ダメ…。こんなんじゃ、好きな人に振り向いて貰えることなんてできないよね」

頭がくらくらしてくる。なにをいってるの私…。一人で知らないところに連れてこられたという恐怖なのだろうか…? 涙が出て、今まで自分でさえもそんなことを思っているなんて気づかなかったことを初対面である彼にぶちまけていた。


「っ…」
「大丈夫ですよ」
「…え」

そう言うと骸君は隣に座っている私の体を抱きしめる。

「僕がいます」
「っ!」

今まで誰かにこんな優しい言葉を言われたことあっただろうか…? どうして?どうして貴方はそんなに初対面の私に優しくしてくれるの?どうして、貴方はマフィアの殲滅なんて望むの? 骸君の言葉が脳内に響き渡っている。頭が、可笑しくなりそうだ…。

「…ん」

私は、そこで再び意識を手放した。

「おや。少々強すぎましたかね」
「骸様」
「なんですか、犬」
「なんでそんな得体もしれない奴に優しくするんれす?」
「作戦ですよ。それに、そろそろ光が欲しいと思っていましたからね」
「光?」
「ええ。なにより彼女を手に入れられれば、ボンゴレを引きずり出せます」
「こんな女にそんな価値があるのかびょん」
「クフフ。十分すぎるくらいありますよ。もはやマフィア中を揺るがすほどにね…」

名前さえ分かれば、調べるのは簡単だった。 それに彼女は風紀委員であり、並中のボスであるあの雲雀恭弥が側に置く少女。 ボンゴレについて、なにか知っていても可笑しくはないだろう。偶然、犬と千種が連れてきたとはいえ、これ以上利用できると思ったものはない。 だが、彼女は華奢な容姿とは裏腹に精神、身体ともに強さを秘め、想い人に一身の愛を抱いているようだ…。 自覚がないとはいえ、こんなお姫様に出会えるとは、思ってもいない幸運だ。

「つ、な…」

気を失っている間にも、苦しそうに彼女が呟く名前。

「存分に奪ってやりましょう」
「骸様?」

闇で生きてきたからこそ、必要なのは優しい月の光だ。

「心まで、全てね」