32話 地獄の場所


夢をみた。場所は、どこかの実験室。聞こえてくるのは、大人達の会話。

この調合も駄目だな…。
火薬の量が多すぎたのかも
騒ぐなお前達!

なに…これ…?

特殊兵器の開発は、地に落ちた俺達が再び栄光を取り戻すための礎だ。
開発にたずさわり死ぬことは名誉なことと思え。

意味分かんない。なにを言ってるの…?

うわぁああああああ!!!
ウルフチャンネル読み込み開始。
ギャアアアアアアア!!

やめて!やめてよ!もう!!
涙を流しながら、実験台の上に乗せられ、手足を縛られている男の子の悲鳴。
思わず耳を塞ぎたくなる。目を背けてしまいそうになる。
でも、この男の子は…たしか…。どこかで…。

クフフ…

一人で、倒れた大人達の中に静かに笑みを浮かべて立っている男の子。 あれは…骸君?

やはり、取るに足りない世の中だ。全部、消してしまおう

これは…。骸君の記憶…?

一緒に来ますか?

骸君が、私になにかを訴え掛けてくれているの? この夢は一体…。



「やあ」
「よく来ましたね」
「…ずいぶんな招待だったからね。はどこ?」
「おや。そんなに彼女が大事ですか?」
「並盛で変な噂を立てられたくないだけだよ」
「クフフ。そうですか」
「いるんでしょ。ここに」
「はい。別室で眠っています。安心してください、危害は加えてませんよ」
「…」

雲雀は静かにトンファーを構えた。

「並盛に2つ秩序はいらない」
「同感です。僕がなるから君はいらない」
「それは叶わないよ」
も、ですか?」
「…気安く呼ばないでくれる?」
「おや、怖いですね」
「君はここで咬み殺す」



私は、まだハッキリとしない目をこすりながら体を起こした。

「…」
「…ん」
「…」
「…んん?」
「…」
「き…きゃああああ!」
「な!!」

スパーン!!!

「いたいびょん!」
「はっ!ご、ごめん!」

私は目が覚めたら、なぜか目の前にドアップで居た犬君を咄嗟に思い切り叩いてしまった。

「な、なんでこんなところにいるの?!」
「骸様に頼まれたんら」
「え?」
「お前がこの部屋から出ないようにな」
「あ…なるほど。でも近すぎだよ」

あーびっくりした。と私は胸を撫で下ろした。

「ところで、お前」
!」
「お前で十分びょん!人質風情が!」
だよ!」
「うるへー!そんなことより…」

流された!

「なんで泣いてた?」
「え」



「ひっ!」

ブチッ!

「レオンの尻尾が切れたな」
「カメレオンって尻尾切れるんだっけ?!」
「これが起こるってことは…不吉だな」

不吉って…どういうことだよ…。 リボーンの言葉で、俺は側に居ないのことを思い描いてしまった…。



「夢を見たの」
「ゆめぇ?」
「そう。実験室だった」

私がそういった瞬間、犬君の顔が一気に強ばった。

「何をみた?」
「…大人の身勝手さ」
「お前にわかるもんか」
「分かる」
「なに?」
「辛かったんだよね?」
「っ!」
「怖かったんだよね?」
「同情なんかされたくないびょん!」
「大丈夫だよ!」
「はぁ?!」
「分かってくれる!」

そう…。

「けっ!何を見たか知らないが、お前なんかに同情されてたまるかってんだ」
「犬君!」

犬君は、私に背を向けて部屋を出て行ってしまった。

「…」

分かってくれるよ。ツナなら…。だからお願い…もう、やめようよ…。
この思いが届くように私はただ願うだけだった。



「なぜ桜に弱いことを知っているのか?って顔ですね」
「っ!」
「おや?もしかして桜さえなければと思ってます?…それは違いますよ」

ここに来ることをあらかじめ予想していた骸によって張り巡らされていた罠。 以前、シャマルによって投与されたサクラクラ病の効果が消えていない雲雀にとって、海外から取り寄せられた桜は最大の弱点。 形勢は最悪のものとなっていた。骸の一方的な攻撃に手も足も出ない。

「君レベルの男は何人も見てきたし、幾度も葬ってきた」

骸は乱暴に雲雀を突き放す。

「地獄のような場所でね」



「だ、大丈夫なのか?!レオン、色んなものに変わりっぱなしだぞ!」
「尻尾が切れて形状記憶の制御ができなくなってるんだ」
「はぁ?!」

俺が驚きつつも心配してレオンの様子を伺っていた時、再び、俺達の居る病院に並中生が運ばれてきた。それは、風紀委員の草壁さんだった。

「え?!そんな…」

だって、雲雀さんが敵をやっつけに行ったはずじゃ…。もしかして、雲雀さんが…負けた?

「ま、まっさかー!あのヒバリさんが喧嘩で負ける訳ないよね!」
「レオンを頼むぞ」

俺はとっさにリボーンから手渡されたレオンを受け取る。

「あっ!おい!リボーン!」

リボーンはひょいと草壁さんの方に近寄り、抜けている歯を見て呟いた。

「4本か…」
「おい!何してんだよ!」
「他に考えにくいな」
「え?」
「ケンカ売られてんのはツナ、お前だぞ」
「へ?!」
「お前は被害者が何本歯を折られたか覚えてるか?」
「何本って、さっきやられた草壁さん4本って言ってただろ?それで、確かお兄さんは5本…」
「了平の前にやられた森山ってのが6本だ」

リボーンはさらに続けて淡々と説明を始める。

「その前の押し切りが7本、その前の横峰が8本、その前の奴が9本で、その前は10本だ」
「あ!数字が綺麗にならんでる!」

最初に襲われた人は24本全部の歯を抜かれていて、それから順番に1本ずつ抜かれた歯が減っている。

「奴らは、歯でカウントダウンしてやがる」
「なっ!なんだってー!!」
「こいつを見てみろ」

ぴらりと一枚の紙をリボーンは俺に差し出した。

「これ…並盛のケンカの強さランキング?」

これがなんだ?と疑問に思っていると、リボーンは息を吐いた。

「鈍いな、おめーは。襲われたメンツと順番がピッタリ一致しているだろ」
「本当だ!!つーか、このランキングって!」
「ああ。フゥ太のランキングだぞ」
「一体何がどうなってるんだよ!」
「俺達マフィアには『沈黙の掟(オメルタ)』と言うのがある」

リボーン曰く、それは組織の秘密を絶対に外部に漏らさないという掟で、フゥ太のランキングは業界全体の最高機密で、一般人が知る訳がないという。 リボーンがそう話す間に、俺はふとランキングに目をうつす。

「あ!4位の草壁さんが襲われたってことは、次は3位の人が狙われるってことだよな!」
「ああ」
「でも、3位って…うそだろー!!」

またしても、俺にとって信じがたい出来事が起ころうとしていた。