36話 闇への誘い
「このナイフで沢田さんを刺してください」
「「「!!」」」
バーズと名乗った男から提案された京子ちゃんとハルが助かる方法。 映像に映る京子ちゃんとハルの背後に連続殺人鬼が迫っている。 関係のない二人をひどい目に合わせるなんて…そんなの絶対にダメだ!!
「いいよ。ナイフでもなんでも刺すから!」
獄寺君や山本だって俺を庇って、怪我をした。 だったら…俺だって…。俺だって、守りたいものがあるんだ…! 俺が、ナイフの刃を自分の方へ向け刺そうとした時だった。
ボゴッ!
「ギギィイイイイ!」
「どーした!?」
「え?」
映像から苦しむ殺人鬼達の声が聞こえ、焦るバーズの声に顔を上げるとそこには、俺たちのよく知る人物が立っていた。
「助けにきたぜ、カワイコちゃんのためなら」
「Drシャマル!」
「次の日の筋肉痛もいとわないぜ」
「な、なにぃー!…そうだ。こっちにはもう一人…」
「ハル!」
バキッ!!
「ハルさん!怪我ありません?」
「ここは俺達にまかせてください」
「あ、あれは…イ―ピン!ランボ!」
大人になった二人の姿が映像に映っていた。でも一体どうして…。わざとらしく咳き込むリボーンに俺は目を落とす。
「ゴホン」
「!お、おまえ!」
「よかったな。困ったときに助けてくれる仲間がいて」
「うん…」
「さぁ、こっちの番だぞ」
「え!ちょ!うわあああ!」
バキっ!
リボーンに背中をけられた衝撃で勢いのままバーズの方へ殴りかかってしまう。
「んぎゃああ!」
「…あれ?」
そんなに強く殴った覚えはないのにも関わらず倒れ込んだバーズを見て呆れたようにその場に立ち尽くしていると、血を流しながらバーズは笑って見せた。
「ぐっ…餓鬼が…彼女の様子を見てみたくないのか?」
「彼女…?まさか…」
彼女という言葉で、俺の頭によぎったのはまさか…。
「…?」
ニタリと笑うバーズに俺は詰め寄る。
「は無事ってこと?!ねぇ!の様子が見れるの?!」
「ええ、彼女が閉じ込められていた部屋の窓辺に、こっそり小型カメラを設置してきましたから…」
「さっさと見せろよ」
バキッ!
獄寺君がしびれを切らしたようにバーズを蹴りあげると、勢いよく倒れ込む。
「ひげっ!」
「げっ!一発でのしちまった」
「ああ!!」
「命令する本人はたいしたことねーのな」
殴ったときにも感じていたが、やはり彼はとても弱かった。あの時に感じた俺の予想は当たっていたんだ。
「でも、せっかくの様子がわかると思ったのに…」
「勝手にいじってみようぜ」
「え。大丈夫かな?」
山本がそう言って倒れたカメラを起こすと、ザー!いう音とともに映像が変わった。
「やべ。壊れちまったか?」
「ま、まって…!これって!」
徐々に映しだされていく映像を見て、俺は息を飲んだ。
「!!」
『う…ん』
苦しそう倒れているの姿だ。 俺達がじっと映像ごしに見つめていると、は、目をゆっくりと開くと、頭を抑えながら起き上った。
『あ…痛たーい!』
「!」
聞こえないとは分かっていても、彼女を見ると、そう叫ばずにはいられない。
『また私…。あー悔しい!なんなのよ!もう!』
誰かになにかされたのであろうか…。そう思わせるような彼女の台詞を最後に映像が途絶え始める。
「あ!」
プツン
完全に映像は途切れ、俺たちは少しだけ胸を撫で下ろした。
「…」
「今のところ、大丈夫そうだったな」
「え。…う、うん。でも、他に誰かいたような…」
「ちょっと待って、ツナ」
ビアンキが俺たちの話を中断させるようにストップを掛ける。
「え?」
「そこにいるのは分かっているのよ。隠れてないで出てきたら?」
そう言って林の方へビアンキは目をやると、じりじりと警戒しながら近付いていく。すると林の方から音が鳴る。
「ま、まって…僕だよ」
「フゥ太!」
「やっぱり、鍵かかってる…」
完全にやられた…。私は、思わずその場に座り込んだ。
あの時、骸君の言葉が頭に突き刺さるように響き、凄まじいめまいと頭痛が襲っていた。 ここに連れてこられてから、私は何度か気を失っている…。だけど、別に体に可笑しなところは感じない。
「今はなんともない、よね?」
私は、恐る恐る自分の頭に手を置いて考えた。
「つな…」
その言葉を発した後、私はすっと立ち上がり、部屋の机の上に置いてあったナイフを手に取る。
「……え。あれ?!私、なにやってるんだろう?」
無意識にナイフを握っていた事実に私は首をかしげる。そもそもどうしてナイフがこんなところに…? たしか、ここの部屋は先ほど、骸君達が話していた部屋だ。ということは、さっき沢山いた人達のうちの誰かの物だろうか?
「ま、いいか」
ナイフを置き辺りを見渡すと、私は骸君達に盗られていたはずの学校の鞄を発見した。
「私の鞄!こんなところに…そうだ、携帯…」
鞄の中を漁り、携帯を探す。 骸君達に盗られて、あるわけないと思っていたが、あった…。私は思わず息を飲む。 一体どうして…。さっきのナイフといい、この部屋は分からないことだらけだ。 先ほどまで無かったはずの私の鞄に、携帯電話。 あの骸君がこんな人を簡単に呼べそうな手段を残すヘマをするとは思えない…。 となると、これは罠…?
「…連絡、とれるのかな?」
罠かもしれない。だけど…少しでいい。声が、聞きたいの。 まさに私は、仕組まれた罠によって、闇の中へと誘われようとしていたのだった。