38話 本当の名前


「…、呼んでるよ」
「また?全く、骸ったら私のこと雑用係かなんかと勘違いしてるんじゃないかな?」
「……」
「千種?どうかした?」
「なんでもない」

これは、波乱の予兆か。それとも…。


「うがっ!」
「ツナ!!」
「フィニッシュだ」

ドゴォ!!!

「貴様らの希望はついえた…次は、誰だ?」

剛球を手にした男はふらりとツナ達に近寄る。

ズズ…

「なに?!」

血を流しながらも、剛球をよけつつ起き上るツナ。

「あんたは、そんなに悪い人じゃない」
「貴様…なにを言っている?」
「そんな弱い心では、死ぬ気のオレは倒せない」
「俺のことを分かったような口を聞くな…殺しは、俺の本心だ!!」
「嘘だ!」

真っ直ぐなツナの瞳は、確かに敵であるはずの一人の男に向けられていた。


「骸、呼んだ?」
ですか」
「なに?人の顔なんてじっと見て」
「いいえ、今日も可愛いですよ」
「また、そんなこと言ってからかうんだから!」

がストンと彼が腰かけているソファーに座ると、骸はそっとに手を伸ばしの頭に手を置いた。

「…うまくいきましたね」
「骸?」

優しそうに微笑む骸だが、どこか悲しさも含まれている笑みである。

「なにか言った?」
「なんでも、ありませんよ」

彼は再びに優しく笑いかけた。

「(…今のに、ボンゴレ10代目との記憶はない)」

彼を愛おしいという感情はもちろん、今のには、自分の記憶すら、危ういだろう。 弱いマインドコントロールを効かせた上で、に自分の記憶や思いを頭に浮かべさせることにより、一つづつマインドコントロールにより忘れさせ、記憶の変換を行う。

「(時間はかかれど、これほど強力な記憶の変換はない)」

そう。今までの骸の行動は、全てにかけられた罠。の脳内記憶に、圧力、膨張、誘導、困惑をかけ続けた。始めから仕掛けられていた罠。かかった魚は大きかった…。



「しっかりしてください!ランチアさん!」

俺が思った通り、ランチアさんは悪い人じゃなかった。ランチアさんは、俺たちに全てを話してくれた。 自分のファミリーのこと。六道骸に操られ、殺人マシーンと化せられ、六道骸の影武者に仕立て上げられたこと。つらいことも全て話してくれた…。その上、今は口封じをさせるために遠方から攻撃するなんて…。
許せない。

「六道骸だけは、何とかしないと!」

俺たちは、いよいよ建物の中に足と踏み入れた。


「そろそろですね」
「楽しそうだね、骸」
「ええ。、とっても楽しいですよ」
「そっか…良かった」
「どうして、ですか?」

骸は驚いたようにを見る。

「笑顔でいてくれると、私も嬉しいから」
「…らしいですね」
「そうかな?」

骸は静かに立ち上がると、再びの方を振り返ってみる。

、なんでもいいので何か飲み物を取ってきてください」
「え?うん、いいけど…」
「急がず、ゆっくりでお願いします」
「どうして?」
「楽しみは長い方が、いいですから」
「うん?…分かった」

は、静かにその部屋からゆっくりと出る。

「…切り札は、本当の最後にとっておくものですからね」

ついに彼女は、闇に落ちた。