39話 覚醒と昏睡
ついに骸のもとへ訪れた俺たちは、さらに骸の非常な姿を目にしていた。
「骸、お前を倒さなければ…死んでも死に切れねぇ」
フゥ太を操り、仲間を傷つけさせた。山本やビアンキ、獄寺君や雲雀さんにも大怪我を負わせた。 それでも、皆はここまで戦ってくれたんだ。その上、自分の仲間に憑依して仲間を傷つけるなんて最低だ。
負けたくない。こんな奴に…!
「こいつにだけは、勝ちたいんだ!」
俺がそう言い放った瞬間、一気に光が部屋におびる。 ツナの静なる闘志が引き出されていた。
「ついに羽化したな」
「え?」
リボーンの声に耳をやる。
「レオンは、どういうわけか生徒に試練が訪れるのを予知するとマユになるんだ」
ディーノさんが跳ね馬になったときと同じ状況だという。
「新アイテムをはきだすぞ」
「ええ!」
「目障りです!」
犬に憑依した骸により、レオンが斬られる。
「心配ねーぞ、レオンは形状記憶カメレオンだからな」
「あれは!?」
斬られた瞬間、上にレオンは何かをはきだし、俺のもとに落ちてきたのは…。
「毛糸の手袋~!?」
こんなのでどうやって戦うんだ!
「最後までおもしろかったですよ!」
「ひぃ!」
キンッ!!
俺が手袋をつけて骸の攻撃をガードするとなにか金属で弾く音が鳴った。
「っ…あ、中に何か入ってる、のか?」
俺がそっと手袋の中を探ると出てきたもの…これは…?
「た、弾だ!!」
「よこせ!ツナ!」
そういうと、リボーンは身軽に攻撃を避けて俺の手元から弾を奪った。
「見たことねー弾だな。ぶっつけで試すしかねーな」
「ええ!」
「させませんよ!」
俺の方に、骸の攻撃とリボーンからの特殊弾が同時に向かってきた。
ドドン!!!
「万事休す…あっけない幕切れでした」
痛い…体中が痛い…俺、もう死ぬのかな?
――「ツナったらまたちらかして~」
え?母さん?
――「日直日誌に沢田のテストまぎれてんじゃん!」
あ…国語のテストだ。なんで、黒川の悪口が…?
――「お前が感じているのは、リアルタイムで届くみんなからお前への小言だ」
リボーン!なんで、こんな時に小言なんて…
――「ハルはこんなことで泣きません!ツナさん…がんばってください!」
ハル…
――「あいつは俺が手を合わせたなかで最も強い男だ!」
――「お兄ちゃん…」
――「負けて帰ってきたら、俺が許さん!」
――「そうだよね。ツナ君、元気で帰ってきてね」
京子ちゃん…お兄さん…
――「お前がその手でファミリーを守るんだ」
ランチアさん!
「俺の小言は、言うまでもねーな」
――「ツ…ナ…」
「!」
俺は、かすかに聞こえた女の子の声と共に目を開いた。
「小言弾の効果で、ツナの内に眠る“ボンゴレの血”が目覚めたな」
小言弾は、秘めたる意志に気付かされることにより、内面から全身のリミッタ―をはずす。
「ツナの場合、ここにきて時折見せるようになったボンゴレの血統特有の“見透かす力”」
超直感が解放されたのだ。手袋からグローブに変わった武器はまだ、使いこなせてはいないが、骸に操られたビアンキ達の体を守りながら、ツナは、二人の体の神経を麻痺させ受け止めた。
「…待たせてごめん」
ツナは、ビアンキと獄寺の体をそっと置き、リボーンに処置を頼んだ。
「出てこい骸、生きてるんだろ?」
その言葉とともに、骸の笑い声が聞こえた。
「戦闘センスが格段に向上していることは認めましょう。だが、この程度で図に乗ってもらっては困りますね」
ツナが静かに骸を睨みつけると骸はあざ笑うように口元を緩める。
「精神的には…どうでしょうか?」
「…なにを」
「」
「なっ!」
「骸、に何をした?」
リボーンは、このタイミングで出てくるはずのない名前を骸が発したことに問いかける。
「クフフ…」
「骸!」
ツナは、不敵に笑う骸に怒鳴る。骸の不敵な笑みとともに、空くはずのない扉が開かれた。
「「!!」」
ツナとリボーンが振り返ると、そこには立っていたのは…。
「骸。さっきから騒がしいけど、なにしてるの?」
ティーカップを手にもち、まるでここにいるのが自然のように彼女は立っている。
「…」
ツナは、思わず少女の名前を呼ぶ。その呼びかけに反応するかのように彼女は、ツナを見つめながら首をかしげる。
「あなた…どちら様ですか?」
「っ!」
「…こいつは」
「クフフ」
ようやく出会えた彼女から発せられたその言葉はツナにとって信じ難く、耳をふさぎたくなる言葉だった。