40話 繋がる想い
「…なに言って」
「?あなた…私と会ったことあるの?」
「なっ!」
ツナは、の言葉と共に手を引いた。
「驚きましたか?」
「骸…お前!」
ツナは、から骸へと視線を変えた。
「いつもボンゴレ10代目のことを一番信じていたのは、彼女だった」
「え…?」
「その上、有り難いことにの想いは特別なもの」
骸は、勝ち誇ったかのようにツナに言う。
「想いがこれほど強いと、誘導するのだって容易ですよ」
リボーンは、ティーカップを持ち骸の隣に走っていくを見つめながら言う。
「お前、にまでマインドコントロールをかけたな」
「その通り。彼女の脳内、そして記憶。全てに注ぎ込まれるように時間もかけました。彼らに掛けた憑依型とは違います」
「…」
骸の隣で不思議そうにこちらを見ている。そんな様子のを見て、ツナは悔しげに歯を食いしばる。
「でも、これは君が望んだことではありませんか」
「なにを言って…」
「君は、彼女の想いに気付いていながら答えようとしなかった。いや、気付かないふりをしていた」
「…違う」
「彼女は、貴方に必要ないのでしょう?」
「違う!!」
「待て!ツナ!」
ツナは、リボーンの声を無視して骸に飛びかかる。
「きゃっ!」
骸は、自分の傍にいたをツナの前に突きつけた。 その勢いでが手にしていたティーカップが床に叩きつけられ、パリン!と音を立てて割れる。
「だったら何故、君は彼女を何度も手放したんですか?」
「っ!!」
ツナは、骸に突きつけられたの瞳に絶望を感じずにはいられなくなり、頭を下げて床に両手をつく。
「…!」
自分の今までの甘えが嫌になる。
は、いつも隣にいてくれていたのに…。いや、居てくれていたからこそ心のどこかで安心していたのだ。
の瞳に映るのは、いつも自分だけだと勝手に思いこみ、自分からに想いを伝えたことなど一度もなかった。
何度自分のその行為が彼女を傷つけたのか…
「ごめん…」
「え…」
ツナは、静かに立ち上がり、目の前にいるが、自分など写っていない瞳のに近づく。
「あなた…本当に誰なの…?さっきからなんなのよ…」
「っ!!」
ツナは、後ろに一歩ずつ下がるに一歩ずつ近づく。
「いや…来ないで!」
「くっ!」
そしてどこかに隠し持っていたらしい小さなナイフをはツナに突きつける。
流石のツナものその言葉と態度に堪える…。
「無駄ですよ。彼女は一生、君を思い出しはしません」
「誰か分からないけど…骸を…皆を傷つけるようなら許さないから!」
「!そんな…」
「…ツナ」
リボーンは辛そうに眉間に皺を寄せるツナの表情を黙って見つめる。
骸の言うように、確かには操られているのではない。 これはが自ら発しているの意志だとツナには、はっきり分かる。
だからこそ辛い…。自分に向けられる言葉と視線が、今までとは真逆なのだから…。
「さぁ、遊びの時間は終わりです」
骸はすっとツナに近づいた。
「…!」
「!」
「まだその名を呼びますか?」
骸がツナに武器を突きつける様を前にして、は、びくっと瞳を揺るがしツナが呼ぶ声に反応する。
「今まで、ごめん」
「な、なにを…」
「気付かないふりしててごめん!」
「あ、あなたは、一体…?」
骸の攻撃を受けながらも、ツナはに言葉を投げかけ続ける。
「俺にとって、君は大切な女の子なんだ」
「っ!」
は、ズキン!と頭に痛みが走り思わず手からナイフが落ちる。
「やめて…」
「…?」
突如、苦しげに頭を抱えはじめたにツナは目を見開く。 思わず気を取られ、骸の蹴りを食らい、床に投げ飛ばされる。
「くっ…!」
「ツナ!休むんじゃねぇ!」
リボーンの言葉に、ツナはゆっくりと立ち上がり言葉を紡ぐ。
「っ!俺は…!君が…が…」
「やめて!これ以上、私の中に入ってこないで!」
「!」
はしゃがみ込み、頭を抱えながらも再び床に落ちたナイフを震える手で拾い、ツナに向ける。
「私は…誰の役にも立てないの…。だから、これくらいしか…」
「!違う!お前は…はこんなことしなくていい!」
「あ…」
ツナは骸に飛びかかるフリをして、そのままへと照準を変える。
ナイフを握るの手首を手刀で弾き、ナイフをの手から叩き落とすとそのまま足でナイフを遠くへ蹴飛ばす。
「馬鹿みたいに笑って、背中を押してくれるお前が…。そんなが好きなんだ…」
「へ…?」
怯えていたの体が硬直し、ツナの言葉では顔を上げる。
ツナの真っ直ぐで、優しい瞳がを映していた。
「だから…こんなのは違う。には全然似合わない。帰ってこい!!」
「!…あなた…どうして…?」
「おや。随分余裕ですね」
「よけろ!ツナ!」
「うっ!」
リボーンの言葉で骸の攻撃をかろうじて交すも、体勢が崩れ倒れ込む。ふらりとする体をツナはゆっくりと起き上がらせる。
「は…誰にも渡さない…」
ツナが自分の目の前で床に叩き付けられるのを見た瞬間、の瞳が揺らぐ。
続けられる攻撃。骸の攻撃に食らいつきながらツナはの名前を呼び続ける。
「くっ…!…!」
「しつこいですね!君も!彼女はもう僕のものですよ!」
「違う!お前なんかには絶対に渡さない!」
だれ?誰なの?必死で私の声を呼ぶあなたは誰…?
あなたは、私を知っているの…?
思い出して、あげたい…。
心に広がる温かさにがそう思った瞬間、胸が急に苦しくなる。
「もう…やめて…」
「!これは…」
骸はが異変を反応を見せていることに気付くと驚いたようピタリと動きを止め、ツナから距離を離す。
「…?」
「いや…呼ばないで!」
いやだ、いやだというに訴えるように温かい声色がの脳内に響く。
「聞いてくれ…。…。俺は…」
「やだっ!」
「俺は…!を迎えに来たんだ!」
ツナの言葉がの脳内の全てを刺激する。木霊するようにツナの言葉が、声が、の脳内に聞こえてくる。
「い、いやああああ!」
まるで、走馬灯のようにの頭に駆け巡り、痛みを全身に感じ、その刺激に耐えきれなくなったは力が抜け、倒れこむ。
「!」
ツナは倒れかけたを受け止め、様子をうかがう。
「…?」
「つ…な?」
「!」
「わたしは…だいじょ…ぶだから」
「お前、こんな状態になってまで…」
「むくろ、くんたちを…」
「!」
は、そこで意識を手放した。
「…リボーン」
「わかってる。行って来い」
ツナは、そっとリボーンにを預けて立ちあがる。
「骸…」
「全く…君には驚きました。に掛けたのはかなり強力なマインドコントロール。言わば、記憶の改ざんです。それを君は、いつにあんなキーワードを?僕の思考を読んでいたと?」
「キーワード?」
「君は、の深層部に残す言葉を存在させていた。それがキーワードとなり、の記憶を呼び覚ましたんですよ。まんまとやられましたね」
「…俺は、との約束を果たしたかっただけだ」
骸の思考を読んでいたわけじゃない。そんな方法も知らない。 必ず迎えに行くと、あの時、自分は電話越しでに約束をした。 それを守りたかった。を取り返したかった。ただ、それだけだ。
「クフフ。約束、ですか。君は本当に面白いですね。が記憶を取り戻したのは誤算でしたが、仕方がありません」
骸は、グッと右目に手を入れる。
「出来れば、発動させたくなかった…」
「っ!」
「人間道は、もっとも醜く…危険な能力ですからね!」
「どす黒い闘志だな」
ツナと骸の最後の戦いが幕を開けた。