41話 戦いは終われど続くもの
「飛ばされた先を見るがいい」
「!!」
「空中では、受け身がとれまい」
「いけ!ツナ!」
「うおおおお!」
ツナは、グローブに炎を灯し、逆噴射させた。
ボッ!
「うああああああ!」
ツナは、死ぬ気の炎の推進力を使った高速移動と温かい赤い炎により、骸の黒き闘志を浄化させる。
シュウウウ…
「終わったな」
「うん…」
ツナの額に燃える炎も消えた。ここまで来るのに何度も危険はあったが、俺たちの骸との戦いは終わりを迎えた。
「あ…。!」
「あれだけ強力な骸のマインドコントロールを跳ね返したんだ。その反動で暫くは目が覚めねぇだろうな」
「そんな…」
「そんな顔すんな。医療班は優秀だぞ」
「う、うん…。…おかえり…」
俺は、気を失い倒れているの髪をそっと撫でた。
「よかったな」
「うん」
「大切な女の子が守れて」
「うん…って!お前、何を!」
「大好きなんだろ?」
「そこまで言ってないだろ!」
「素直じゃねーな」
「うるさいよ!」
その後、医療班が着く前に俺たちは怪我を負っていた骸の仲間の二人に、彼らのつらい過去の話を聞かされた。
その話も俺にとってつらかったけど、もっとつらかったのは…。
「マフィア界の掟の番人で法で裁けない奴らを裁くんだ」
黒い服を着た復讐者という奴らが、俺の目の前で彼らに鎖をつけて連れ去って行ってしまった。
「罪を裁かれ罰を受けるだろうな」
リボーンはきつくそう言った。
「俺達の世界は甘くねーからな」
「……」
その後は俺も、小言弾による全身の筋肉痛で痛みで気を失ったため覚えてない。目が覚めたら病院だったってことだけだ。
俺たちは、日常を取り戻した。
だけど、ひとつまだ戻っていないことがある。
「母さん!このクッキー持ってっていい?」
「いいわよ」
「じゃあ、いってくる」
「ちゃんのところでしょ?」
「…うん」
「いってらっしゃい。母さんも後でいくわ」
の意識が、すでに二週間経つのにまだ戻らない。
お医者さんが言うには、なんでも脳内に相当な負荷をかけすぎたらしく、いわゆる特殊な意識障害に陥っているらしい。
「…」
病室で眠るに俺は話しかける。目が覚めても、記憶喪失の可能性も捨てきれないらしい。むしろその可能性の方が大きいそうだ。
「目を覚ましてよ」
皆も凄く心配して、毎日京子ちゃん達も学校が終わると来てくれている。
「俺の名前、呼んでよ」
やっと本当に君と向き合える時がきたのに…。
「…っ!」
俺は、次々と出てくる涙を服の袖で拭う。
俺が泣いていると、きっとなら"ツナは本当泣き虫だね"って少し笑いながら言うんだろう。 だけど今はその声が聞こえない。この前まであんなにずっと傍にいてくれた君が今は凄く遠く感じる。 今もこんなにすぐ目の前に居るのに、遠いよ……。
「なに、泣いてるの?ツナは昔から泣き虫だよね」
「あはは…俺、幻聴まで聞こえて…って、え?」
俺は聞きなれたその声に驚き、涙が止まる。
「そんなツナも私は大好きだけど」
「…お前」
「なに?ツナ、どうかした?」
「っ!」
夢や幻聴なんかじゃない…。俺の目の前で、俺の名前呼んでいるのは紛れもなくだった。
「!」
「わっ!」
俺は寝ていたを思いっきり抱き寄せる。
「ツ、ツナ?!」
「良かった…!本当に良かった!」
「え、ええ?!」
「はひー!ちゃん!」
「!!」
「やっと目が覚めたか」
「京子ちゃん!ハルちゃん!リボーン君まで!」
ツナに抱き寄せられたままのは、ドアに立つ声に反応してそちらに目をやる。
「おー!!」
「だもんねー!」
「てめぇ!10代目に心配かけやがって!」
「武!獄寺!ランボ君!」
次々とは入ってくる友人たちの言葉と、未だにツナが離してくれない状況には混乱したように首をかしげる。
「えっと…ツナ?」
「あ…ゴメン!」
ツナに離された後、皆がなぜか覗き込むように自分の方を見て、京子ちゃんやハルちゃんまでもが泣いている状況に、どうもはついていけない。
「あの…なにかあったの?」
「、まさか覚えてないの?」
「なにを?」
「ちゃん、二週間も目がさめなかったんですよ!」
「え…ぇえ?!」
ハルの言葉に動揺しているの元に、 目を覚ましたの体調を確認するためにお医者さんがやって来ると、俺たちはの病室から出された。
その後で、俺はにどこまで覚えているかを問いただしてみた…。
「え、まったく?」
「確かに、誰かといた気はするんだけど…」
「じゃあ…俺があの時、に言ったことも?」
「へ?」
幸運か不幸か。俺があの時、に言ったことも含めて、には連れ去られた後の記憶がごっそり抜け落ちたように無くなっていた。
「ごめん。ツナ、私になにか話してくれたの?」
「え!あ…いや!大したことじゃないから!」
には悪いが、あんな台詞を言うのは二度とごめんだ…!
「気にしなくていいよ」
「…本当にー?」
疑うようにはは俺に顔を近づける。
「っ!」
「ツナ?」
以前だったら、なんでもなかったの仕草に、俺は顔を赤らめる。
「(状況が変わりすぎだ!)」
への気持ちに気付いてしまった俺となんにも覚えていない…。正直、最悪だ!
「ツナ、大丈夫?」
「う、うん。なんでもないよ」
を見ていると、この気持ちをぶつけてしまいたくなる。だけど…。
「ツナ、お腹すいた!」
「え…あー、そうか。じゃあ、なんか買ってこようか?」
「うん!」
やっぱり言う勇気が持てないのは、俺がダメツナだからかもしれない。
「ツナ」
「なに?」
「心配してくれてありがとう。大好きだよ!」
「っ!…はぁ、これからどうしよう」
「へ?」
「なんでもない!」
ツナは、振り払うかのようにの病室から出た。
ただ、強くなりたい
もっと君を守れるくらい
自分の気持ちから逃げるのは、もうやめたから…
ツナが出て行ったあと、病室のドアが開いた。
「あ、先輩。来てくれたんですか?」
「…随分、元気そうだね」
「うーん。そういわれても私、なにも覚えてないですからね」
「そう…」
「でも、ツナに色々聞きました。恭ちゃん先輩にまで心配かけちゃったみたいで…ごめんなさい」
「…覚えてないっていう割には、変化あったんじゃない?」
「え。そうですか?」
「まぁ、僕の気のせいならいいけど」
「相変わらず、意地悪ですね」
ツナには言わなかったが、私自身の記憶に心当たりが全くないわけではない。
どこか寂しく冷たいのにも関わらず、私の心の奥に流れ込んでくる。ほんのりとした温かさが消えない。 でも、それがなんなのかが分からないんだ…。
「ま、そんなに元気ならすぐに仕事もできそうだから安心したよ」
「恭ちゃん先輩の鬼!」
「二週間も寝てたんだから、十分でしょ」
「えええ!」
その言葉が、決して嘘ではないだろうことは明白だ。はぁ…と私が落胆の声をあげて拗ねると、恭ちゃん先輩は少しだけ小さく笑う。
「」
「はい?」
「おかえり」
「…え?」
「学校来たら、覚悟しなよ」
「ちょ、ちょっと恭ちゃん先輩!」
私に、お見舞いの品であろうメロンを手渡すと、そう言って恭ちゃん先輩はこちらを振り返ることなく帰って行ってしまった。 だけど、こめられた言葉に、彼のまなざしに、どこか嬉しくなった。 全く…相変わらずなんて不器用な人なんだろうか。はそっと棚の上にメロンを置いた。
「買ってきた…って、?」
「ツナ、おかえり!ありがとう」
「…」
「ツナ?」
どうやら、俺はあれ以来、の瞳が映す変化に気付くのが上手くなったらしい。
「なに考えてたの?」
「えっ」
へと買ってきた食べ物が入ったビニール袋を机に置く。鎌を掛けるようにに言う。
「俺には言えないこと?」
「え…いや、そ、そんなんじゃないよ!さっきね、恭ちゃん先輩が来てくれたの!ほ、ほら!メロン貰っちゃった!」
視線を外して困ったように焦ってそういう。 なるほど…。どうやら、原因は雲雀さんだったらしい。だけど、なにも無ければ、はこんなに焦ったりしない。 俺には言えない話でもしていたんだろうか…?俺は、の頬にそっと右手をのばした。
「あのさ…」
俺がに触れた瞬間、の体はビクンと揺れた。
「はぁ…」
「ツ、ツナどうしたの?さっきから変だよ?」
「……」
の俺への心配の言葉に、これ以上ないってほどツッコミを入れてやりたくなるが、俺はその衝動を必死で抑えていると…。
「…あ」
「ツナ?」
俺が顔を上げてを見た時に目にしたのは、俺がさっき病室に入ってきた時とは違うの瞳の色に変っていた。 俺のことを心配してくれているには悪いが、この瞳を見ると、やっぱりほっとしてしまう。だってこの瞳の色は…俺のことを見ている目だから。
「」
俺は、そのままを自分の腕の中に抱き寄せる。 最初は、その行動にかなり驚いた様子をしていたはずのだったが、次第にいつもの調子を取り戻していく。
「わーい!ツナだー!」
「なんだよ、それ」
「だって、嬉しいから」
自分でもいつからこんなに欲がでてきたのか分からない。 だけど、この瞳に映るのは、いつも俺であって欲しいと願うんだ…。
「ツナ、大好きー」
「分かったから」
「本当に分かってる?」
「うん」
「なら許す!」
「意味わかんないぞ」
「いいの!」
この先、なにがあっても俺は手放しはしない。信じてくれる人がいるから頑張れるんだ。
「(まだ気持ちの整理に時間がかかりそうだけど…)」
「ツナ!これおいしいよ!」
「よかったね」
「うん!」
いつか君に俺の気持ち全部を伝えられる日がくるのを信じようと思うんだ。