43話 すれ違う関係


「今から皆で遊びに?いいよ」
「本当?!」
「うん。そもそも私がツナの誘いを断るわけないよ!」
「あ、ありがとう」

どうせ今日は補習だけで日曜なので、皆で遊びに行くことになったからと言ってわざわざ家に知らせに戻って来てくれたのにも少し驚いたが、 なにより、思いもしなかったツナの反応に思わずは目をぱちくりとさせてしまった。
てっきり、またツッコミを入れられるかと思っていただけに、こうも素直に喜ばれると自分の方が照れてしまう。

「獄寺君達待ってるんだ!京子ちゃんたちも来てくれるって言ってたし!早く行こう!」
「あ。う、うん!」

の手を引き、走り出そうとするツナ。 「京子ちゃんが来るのにいいのかな…」とは心の中でそんなことを思いながらも、 ツナが手を引いてくれるのが恥ずかしいけど、嬉しくて…前を歩くツナの背中をちらりと見て微笑んだ。


「お!きたな!」
「ツナさん!ちゃん!」
「ごめん!遅くなった!」

ツナと一緒にショッピング街にたどり着くと、待っていた皆に出迎えられる。
そんなかで、フゥ太がに駆け寄り、 「姉、武兄とゲームセンター行くんだけど一緒にいこう」と声を掛ける。 一方で、「ツナ、なんかおごれー!」というランボがツナに向かって飛びつくと自然と二人の手が離れた。

「早く!早く!」
「あ!待って!フウ太君!」
「ほら。行こうぜ」
「うん」

山本にも背中を押され、はフウ太が手を引く方へと向かった。


「なんかさ、久しぶりな気がすんな」
「え?」
とこうしてるのさ」
「あ、そうかも」

山本とこうして二人で歩くのは確かに少し久しぶりかもしれない。記憶が飛んでる自分でさえもそう思うのだから、 山本からしてみればもっと久しぶりに感じるのかな…とは少し思う。

「武兄!勝負しよ!」
「お。いいぜ!やるか!」

フウ太の声でアクションゲームに取りかかる山本の姿をは微笑ましそうに見つめる。

「久しぶり…か…」

飛んでいる記憶が、少しもどかしい。
黒曜の事や骸の事は、ツナに聞いてはいるものの、その間に皆が傷つき、大変な目にあったに違いないんだ。
だけどその時の記憶を失っている今の自分では共有してあげられない…痛みを、分かち合ってあげられない…。

「(それに連れ去られた私は…一体どうやって過ごしていたんだろう…?)」

ぽっかり穴が開いているみたいだけど、誰かと、なにか…たくさん、話をしていたような…。 わからない…。

が思い出そうにも、霧が掛かったように話していた相手の顔が薄れていた。
正直、自分が何週間も目が覚まさなかったということ事態、いまいち信じられていない。 だけど実際、周りの皆がそう言うのだし、何週間分も溜まった宿題と雲雀から差し出された書類が全て事実であることを物語っていた。

「(そういえば今日はお休みだけど、恭ちゃん先輩どうしてるのかな?あとで連絡してみようかな)」

流石にこんなところには来ないだろうけど。と思うとは少し笑みがこぼれた。

「あ。ちゃん!」
「ハルちゃん!リボーンくんも!」

手を振りこちらに向かってくるハル達と合流する。

「あれ?ツナは?」
「はひ?そういえば…」
「どうせ、どっかでランボに振り回されてんだろ」
「あ。じゃあ、私捜してこようかな。一人で大変かもしれないし」

先ほどまでフゥ太の相手をしていた山本が「俺も行こうか?」と声を掛けるも、 「大丈夫!ハルちゃん達と一緒にいて!」と答えては一人でツナとランボを捜しに走る。

「えっと…あ。ツナ…!」

来た道を引き返して、自販機とテーブルが並んでいる休憩所に行くと案の定、ランボにジュースを買わされているツナの姿が目に入る。
が声を掛けようとするも、そんなツナの元に歩み寄る京子の姿を目にして は声を掛けるのを止める。

「……」

楽しげに二人で話している姿にはぎゅっと胸が締め付けられるのを感じる。

「(やっぱり、入れないなぁ…)」

昔からずっとそばにいたのは自分なのにな…と少し寂しく感じる。
一方的でも好きでいられるのなら、それでいいと思ってた。想いが叶わなくても、幼馴染みとしてそばに居られればいい。
それに自分が好きになった相手は、そんな自分を簡単に振り払う人間じゃないと知っているから。
甘えてしまう。だからこそ重荷には、なりたくないんだ。
はくるりと方向を変え、ツナ達に背を向けて歩き出した。

「声掛けねぇのか?」
「わっ!」

歩き出した途端、の肩にちょこんと乗っかり、声を掛けられた。

「リボーン君!いつのまに?!」
「俺はマフィアだぞ。気配を消して近づく事ぐらい容易いぞ」
「あはは。そうだったね」
「それより、なんで声掛けねぇんだ?」
「京子ちゃん居るなら大丈夫そうだし。それに邪魔にはなりたくないんだ。もちろん、ツナがそんなこと思う人じゃないのは分かってるんだけど」

自分がこの気持ちをツナに対して抱えている以上は、ただの押しつけにしかならない。
幼馴染みとして素直に応援できるのならそれが一番良いと分かっているのに、 自分にもまだ望みはあるんじゃないかと。やっぱり期待してしまうんだ。
応援はしない。けど頑張っているツナの邪魔もしたくない。だからこれが一番いいんだ。
私が勝手に思う分にはいいよね。

「ほら、リボーン君もハルちゃんや武のところ戻ろう」
「…お前ら本当噛み合わねぇな」
「え?」

ドゴン!!

「な、なに?!」

どこかの建物が爆発したような音が耳に届き振り返ると、ツナ達が居た方向の建物から煙が出ていた。

「ツナ!京子ちゃん!」

リボーンと一緒にも慌ててツナ達の元へと走っていると、 山本や獄寺もその音に気付いていたらしくツナの元へと駆け寄ってくる。

「十代目!」
「ツナ!」
「ツナ君、大丈夫?!」

倒れているツナがゆっくりと体を起こす。どうやら誰かと接触してしまったらしい。

「す、すいませ…!おぬし…」
「いてて…お、おぬし?」
「…あいつ、なんでここにいんだ?」

リボーンが、額に青い炎を宿す少年の姿を見てぼそりと呟く。

「う゛ぉおおい!邪魔するカスはたたっ切るぞ!!」

黒い服に長い銀髪を揺らす男の姿に皆が息を飲む。

「な、なんなの…一体…」
「嵐の予感だな…」

いつになく真剣な表情をするリボーンの言葉がこれから起こる出来事を余儀していた。