44話 不穏な足音


「ツナ君達…大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。すぐに避難するって言ってたから」
「そっか」
「良かったです」

胸を撫で下ろす京子とハルには、あの場から避難する前にリボーンから言われた言葉を思い出す。

、お前は京子達を連れてすぐにここを離れろ」
「え?でも…」
「ツナなら大丈夫だ。安心しろ。無事に京子達を家に送り届けたら戻ってこい」
「わ、分かった!」

あの銀髪の彼は…そして青い炎を宿していた彼は一体誰なのだろう?
分からないことだらけだ。胸騒ぎがするのを抑えては京子達に笑顔を向けた。


「(急がなきゃ…!)」

京子とハル。そしてランボとイーピンも家に送り届けた後、はリボーンから言われた通りにツナ達の元へと戻るために走る。
だけど思った以上に時間が掛かってしまった。一体、どうなっているのだろうかという不安を抱えながらも…。


「はぁ…着いた…リボーン君!ツナ!」
「ベストタイミングだぞ」
!」

が戻って来た頃には、先ほどまでいた銀髪の人の姿が見当たらない。 そして代わりにそこにいたのはディーノの姿だった。

「あれ?ディーノさん?それに、あの…銀髪の人は?」
「スクアーロならもう帰っちまったから安心しろ」
「そっか。良かった」

リボーンの言葉にがほっと息を撫で下ろす。

「ツナ。京子ちゃん達、無事に送り届けてきたよ」
「あ、ありがとう」
「ツナは大丈夫?」
「あはは。平気」

おそらく死ぬ気モードになったのだろう。ボロボロで上半身が裸になっているツナがディーノさんに服を手渡され、いそいそと服を着ている。

「さ、廃業になった病院を手配した。いくぞ」
も来い」
「え?うん」
「あ。待って!獄寺くんと山本が…」
「あいつらなら心配いらねぇぞ」

リボーンの言葉通り、「ツナ大丈夫か?!」と駆け寄ってくる獄寺と山本の姿にツナは安堵したように笑顔になる。

「二人とも!」
「お前らとっと帰っていいぞ」
「「?!」
「お前らの戦闘レベルじゃ足手まといになるだけだ」
「なっ!」

「いくぞ」と冷たく言い放ち、リボーンはツナとの手を引いて歩き出す。

「おい!リボーン!」
「本当はあいつらも感じてるはずだ。あれだけ一方的にコテンパンにされてはらわた煮えくり返ってねぇわけねーはずだ」

それほどまでに一方的な戦いだったということが、あの壊された建物の跡とツナ達の怪我を目の当たりにすれば、 その様子を見ていなかったでもよく分かる。


ディーノに手配された病院に辿り着くと、病室でディーノがゆっくりと口を開く。

「バジルはどうだ?ロマ―リオ」
「命に別状はねぇ。よく鍛えられてる。傷は浅いぜ、ボス」

バジル…彼はたしか額に青い炎を宿していた人だ…とが病室で眠っている人物をじっと見つめていると、 ディーノが安心させるようにに微笑みかける。

「こいつはボンゴレじゃない。けどお前の味方だ。ツナ」
「え?ど、どういうこと…?てか、さっきのスクアーロって人がボンゴレだろ?なのに敵で、こっちはボンゴレじゃ無いけど味方って… あ。つか俺、敵とか味方とかありませんから…」

ツナは自分で言っていて、この場に流されていることに感じたのか慌てて巻き込まれまいと言葉を翻す。

「それがなぁ。ツナ…そうも言ってられねぇみたいなんだ」
「あのリングが動きだしたからな」
「「?リング?」」

ツナとはリボーンとディーノの言葉に首を傾げて顔を見合わせる。
するとツナは、バジルを見て思い出したようにいう。

「あ。そういえばこの子も言ってた…。でも、ロン毛の奴が奪っていった奴のこと?」
「ああ。正式名をハーフボンゴレリングって言うんだ」

リボーンは、淡々とツナとにハーフボンゴレリングについて語り出す。

「本当は3年後までしかるべき場所で保管されるはずだったボンゴレの家宝だ」
「もしかして、すんげー高級な指輪だとか?」
「確かに値のつけられない代物だが、それだけじゃねぇぞ」
「え?」
「長いボンゴレ歴史上、この指輪のためにどれだけの血が流れたかわかんねぇっていう…いわく付きの指輪だ」

「うっ…」とは恐怖したように眉をしかめる。

「ロン毛の人が持ってってくれてよかった…」

がツナの言葉に同意するようにコクコクと激しく頷いていると、ディーノが言いづらそうに頭を掻く。

「あー…それがなぁ、ツナ…」
「?」
「ここにあるんだ」
「え…」
「ええええ!なんで?!奪われたはずじゃ…!」
「こっちが本物だ」

リボーンはディーノの言葉にかすかにピクリと眉を動かす。

「俺は今日このために来たんだ。ある人物からこれをお前に渡すようにってな」
「また俺?!なんで?!」
「そりゃあ、お前がボンゴレの…」
「ス、ストップ!!」
「え」
「家に帰って補習の勉強しなきゃ!頑張ろう!じゃ、ディーノさん!行くぞ。
「え。ツナ?」
「お、おい!ツナ!」

ツナはの手を引いて、ディーノさんが止める声を他所に慌てて逃げるように病室を出た。

「あいつ逃げられると思ってんのか…?」
「…バジルは囮だったんだな」
「ああ。おそらくバジル本人も知らされてねぇ。つか、これ直接ツナに渡せばいいのにな。あの人オレと一緒に日本に来たんだぜ?」
「そうか。あいつ来たのか」
「そういえば、連れてったお姫様はどうするんだ?」
「ひとまずは大丈夫だろ。見つからねぇよう、京子達と一緒に避難させたしな」
「もし見つかったら…」
「…早く自覚させた方がいいな」

リボーンは窓から、ツナとの姿をじっと見つめてそう呟いた。


「あぶないあぶない!いくらディーノさんの言うことでも冗談じゃないよ!あんな危険な指輪!」
「よかったの?帰って来ちゃって」
「いいよ。だいたいマフィア絡みはもうたくさんなんだ」

頭を抱えるツナに、はクスクスと笑う。
「笑い事じゃないよー」というツナに「ごめんごめん」とは笑顔で返す。

「って…あれ?」

いつものようにと会話をしながらも家へ着いたものの、 庭には大量の作業服が干しており、玄関には泥がついた長靴とヘルメット…。 こんなもの、今まで家にはなかった考えられるのはただ一つ。

「あら、ツナ。パパン帰ってるわよ」
「やっぱり…」
「ママンは食料の買い出しに行ったわ。パパンが20人目前のごちそうペロリと食べちゃったから」

ビアンキの言葉でツナは青い表情をする。

「ツナ兄ー!姉も!大丈夫だったのー?」
「ガハハハ!」
「フゥ太君、ランボ君」
「ぼくひんぱいひたんらか…」
「うわ。酒くせー!」

家へ入るなり、ツナとに飛びついてきたランボとフゥ太。 二人共とろんとした瞳で、呂律が回って居らず頬を赤く染めている。明らかに酔っている…。 は、フゥ太が手に持っている大きな瓶に目をやる。

「ツナ。これ日本酒じゃない?」
「え?!なっ!本当だ!お前ら、これ飲んだのか?!」
「ちがうよー。パパンが水だから飲めって…ヒック」

ツナに日本酒を取り上げられ、「ああー!」と手を伸ばすフゥ太を避けてツナは慌てて家へとあがる。
するとヨタヨタとした足取りで部屋から出てくるイーピンとすれ違う。

「あー!イーピンまで!!」

もツナの後を追うようにツナの家へとあがると、 お酒の瓶や缶が何本も散乱している上に沢山の皿が空になっている。 ビアンキが言っていたように、奈々の作った手料理を大量に食べ尽くした形跡が広がっている。
パンツ一枚の姿でイビキを掻きながら大の字になって眠っている父親の姿にツナは息を吐く。

「父さん…」
「家光さん、帰ってきてるんだね。挨拶しようと思ったんだけど…」
「いいよ、。放っといて、俺の部屋行こう」

の背中を押すように、ツナはリビングを出る。 は家光のことをちらりと気にしつつも、 この時はまだ自分があんな話を聞かされことになるなんて思いもしなかった。