46話 月のお姫様


「なんだよ!月のリングって!それにお前、さっきそんなこと言わなかったじゃないか!」
「だから話はまだ終わってねぇって言っただろ。ボンゴレリングは、正確には8つあるんだ」
「でもさっきは7つって…」
「基本的にはって話だ。それに月のリング所持者は、守護者に該当しねぇんだ」
「ど、どういう事?」
「月のリングは、"かぐや"の血を引く者とボンゴレが交した契約の証だ」

はディーノの言葉にピクリと反応する。

「昔話さ。とある民族の血を飲むと不老不死になるとか、どんな怪我も病も治すとかっていう言い伝えがあったんだ」

首を傾げるとツナを前に、ディーノはリボーンと顔を見合わせるとゆっくりと口を開いた。

「だけど、その噂が世界中に広まり、その民族の血を欲する争いが起きて、その民族は絶滅した」
「(あれ…?この話…)」

は、ディーノとリボーンの話を聞きながらも自身の過去の記憶を思い起こす。

「しかし、ある時イタリアに絶滅したはずのその民族と同様の血を持つ娘が現れた。それが初代、月のリングを所持した者の正体だ」
「え?つまり、どういうこと?」
「ボンゴレがその女の子を保護したってことになるのかな?」
「簡潔にいえばそうなるな。しかしその娘がすげー癖のある奴だったらしくてな」
「どんな人だったの?」
「自分の血の能力と女である容姿を利用して、何人もの男を手玉にとって貢がせたんだ」
「(うわー…本当に"竹取物語"のお話みたい)」

がそう連想したように、当時関わった人たちもそう思ったのだろう。

「その女の愛称が"かぐや"。"かぐや"の名は世界中に広まり、"かぐや"を巡る争いが再び勃発したことがそもそもの始まりだ」
「("かぐや"…"かぐや"…あ!)」

かぐや…確か、コロネロと初めて会った時にのことをそう呼んだ。 がなにかを察したことに気付いたのか、リボーン君がニヤリとした笑みを浮かべる。

「ボンゴレは、イタリアで"かぐや"を巡って起きた事態を沈静化させると同時に、その力を手に入れるために"かぐや"の身柄を保護することにしたんだぞ」
「わかった!今で言うタレントと事務所の専属契約みたいなものね!」
「まぁ、イメージ的にはそんなとこかもな」
「なんだか拍子抜けするなぁ…」

冗談めかしたようにいつものように笑顔でそう言うをツナはちらりと見た。

「魔法みたいに言われているが、病を治すと言われているその血の正体は…黄金の血(ゴールデン・ブラッド)だ。それはすでに現在の医学で証明されている」
「黄金の血?」
「流石のツナでも、A型ならA型の血しか輸血できないのは知ってるだろ?」
「余計な御世話だよ!ってかなんだよ。突然その理科の授業みたいな内容は」
「黄金の血は、その型にはまらないんだ。誰にでも輸血が可能な奇跡の血」
「だからこそ、金よりも価値のある血と言われはじめたことから付いた名だ」
「その血を持っていたのが、"かぐや"だったんだね」
「その通り」
「でも、それだからなんだってんだよ?」
「鈍いなお前。つまり、月のリングは黄金の血を持つ者にしか扱えないように作られたんだ」

リボーンの言葉で、ハッとしたようにツナとは目を見開くとディーノが口を開く。

「ボンゴレによって作られた強力な"月のリング"。力を扱いたくても黄金の血の持ち主ではなくては意味がない。これで黄金の血を持つ少女の命を狙うものは減る」
「リスクもでけぇけどな。月のリングを狙うものは、所有者そのものの存在を狙ってくることになる」
「他に黄金の血の持ち主を探すって方法もあるが、黄金の血の持ち主は全人口0.01%未満と言われている。その中からさらに月のリングを扱える適合者を探すなんて現実的とはいえないからな」

ディーノさんの言葉に同意するように話すリボーン君に、ツナがなにかを言いたげに頭を抱えている。

「ちょ、ちょっと待て!リボーン!月のリングを継承に選ばれたのはなんだろ?つ、つまり、その話が前提なら…」
「ああ。は紛れもなく黄金の血を引いているぞ」

リボーン君の言葉で、やっぱり…という言葉がの頭の中に浮かぶ。

「う、うそだろ…」
「黄金の血が生まれるのは、突然変異の場合もあるが、大抵が血統なんだ。だからこそ、月のリングの継承ができる」
「現に、お前の親父はその血を引いてるしな。思い当たる節があるだろ」
「!」

――自分の身を守れるくらい強くなれ。

その教えはの父からだ。空手を習うように仕向けたのも父だった。 昔から知ってた…いや、こうなることは決まっていたんだ。

「ボンゴレと契約を交し、全員を穏やかな光へ導く道しるべとなる…それが"かぐや"の役目だ」
「一方でボンゴレ守護者は"かぐや"の身を守るべき対象とする。故に"かぐや"は守護者には該当しない。"月のお姫様"であると言われる由縁だ」

とツナはゴクリと唾を飲む。

「とにかく、は今後一人での行動は要注意だ」
「え…」
「言っただろ。月のリングを継承したのは"かぐや"の血を引くお前だ。ヴァリアーどころか、世界中のマフィアがいくら払ってでも欲しい存在なんだ」
「念のため、暫くは俺の部下を護衛に付ける」
「そ、そんな…」

ということは、自分が一緒にいたらツナの身がもっと危なくなるということだろうか?
だけど、このリングを手にしていれば…。

「(私は…少しくらいツナの役に、立てるのかな?)」

がどうしよう…と戸惑っていると、ツナがの手を握る。

「!」
「帰ろう。
「え?!でも…」
「どっちにしろ、そんなリング継承しなきゃいいんだろ?俺はいらないし、だって受け取らない」
「ツナ!」

ディーノの言葉を振り払うように、ツナはリボーンを睨みつける。

「"かぐや"かなんか知らないけど、そんなの関係ない!は俺の幼馴染みの女の子だ!絶対そんな危ないことに巻き込ませないからな!」
「ツナ…」

怒ったようにの手を引き出て行くツナに、 「待て!ツナ!」とディーノは声を掛けるも聞こえていないかのようにツナは病院を出た。

「ったく、あいつは…」
「ツナ達の事は俺に任せろ。ディーノ、お前は"雲の守護者"を頼んだぞ」
「ん?ああ。そうだな。なんせ一番の問題児だからな…」

そう言い、頭を掻きつつもディーノは面白げに微笑んで見せた。


「ツナ!帰ってきちゃってよかったの?!」
「いいよ。勝手なことばっか言ってさ。俺は10代目を継ぐつもりもないし、をそんな危ないことに巻き込ませるつもりもないから関係ない」
「私は…ツナと一緒ならなんでも…」
「お前、またそんないい加減な…」
「でもね、ツナがいないなら、私もやだ」
「え…」
「それだけは覚えておいて欲しいかな。私はツナと一緒がいいの!だから巻き込まれてるなんて思ってないよ」
「…ありがとう。

その答えに、「ほら、早く学校いこう」といつもの会話で返すに釣られるようにツナが笑った。

「あのさ、
「なにー?」
「俺さ…今一緒に居るのがでよかったって思ったよ」
「…えっ、それって告白?」
「違うから!」
「あはは、冗談!ツナがらしくないこと言うからだよー」

咄嗟にいつもの癖で、違うと返事をしてしまったが、今のは自分の気持ちを伝えるチャンスだったのでは…。 ということに後から気付いたツナは、心の中で深く後悔をする。

「でも、すごく嬉しい。そんなこと言ってもらえるの」
「そ、そう?」
「うん!」

しかし嬉しそうな声色をしながらも、どこか照れたように少しだけ頬を赤く染めているを見てると、「…ま、いいか」とツナは思う。

「そんな悠長なことしてる暇はねぇぞ」
「わっ!リボーン!」

足元から聞こえてきた声にツナとは、慌てて少し互いに距離を取る。

「ディーノのやつも霧の守護者の家庭教師に行っちまったぞ。お前も修行だ」
「え。霧の守護者って…」

ニッとニヒルに口角を釣り上げるリボーンに、ツナは嫌な予感がした。



46話 補足
原作には無い「かぐや」「月のリング」の設定を一部フィクションとして追加しておりますが、 作中に登場する「黄金の血(ゴールデン・ブラッド)」は、現実に実在する貴重な血液型ですのでフィクションではございません。