03話 走れ!一次試験開始!


見渡せば、人、人、人。しかもなんか…走ってるー?!

愛しいゴンやーい。

「皆、どこ行ったのかな?」

あの奇術師に気を取られたせいで、皆と離れてしまった。 私がきょろきょろと、周りにつられて走りながらゴン達を探していると、ガー!という車輪音。

スケボー…?

「な、に?」

くるりと、後ろをみると、そこには上手にスケボーを乗りこなす銀髪の少年の姿。

「(わっ、すごい!)」

そういえば私も昔、かってたなー。助坊(スケボー)って名前の、犬。
私が3歳の時に死んじゃったんだよ!

「うう…天国の助坊やーい!」
「変な女」
「え?」

私の横を通り過ぎようとしていたスケボーに乗った少年が、突然私の声に反応したように距離を詰めて私に近づいてくる。
その少年は、じっと私の方を興味深そうに見つめている。

「ねぇあんた、名前は?」

と私に問いかけた。

だよ。スケボー君は?」
「勝手に変な名前付けるなよ!俺は、キルア」
「ごめん!キルアだね、キルア!宜しく!」
「あんた、歳いくつ?」
「えぇっ!こんな美少女に年齢を聞く?女の人に気軽に年齢を聞くもんじゃないんだよ」
「そもそも美少女なんて何処にいんだよ」
「私だよ!私!」
「いいから、いくつだよ?」
「14!」
「ふーん…。(近いんじゃねぇかと思ったけど、俺と2つ違いか)」
「あ。今、なんか失礼なこと思ったでしょ!」
「いや、べつに」
「絶対なんか思った!私そういう勘はいいんだから!罰としてスケボーに乗せなさい!」

ガバッとキルアの背後にしがみつき、無理矢理スケボーに乗り込む。

「ちょっ!お前!降りろよ!」
「イヤよ!利用できるもんは利用しなきゃ!」
「重いんだよ!バーカ!」
「あーあー!また暴言!駄目だよー!乙女に向かってそんな暴言」
「だから、誰が乙女だよ!」

ギャンギャン!と、キルアとやり合いながらも進んでいると「おい餓鬼ども!汚ねーぞ!」というレオリオの声がした。

「あ!レオリオー!」
「そりゃ反則じゃ…ってじゃねぇか?!」

レオリオ達の姿を見つけた私は、キルアのスケボーから飛び降りた。

「あー!、心配してたんだよー!」
「ごめんね」

私がゴンの方へ行くと、キルアがゴンに気付いたように問いかけた。

「ねぇ君、歳いくつ?」
「もうすぐ12!」
「ゴン、12歳なんだ」
「うん!は?」
「14!」
「あ、お姉さんだったんだ」
「みたいだね」

私がゴンと顔を見合わせて笑い合っている最中で、その会話を聞いていたらしいキルアが突如スケボーのスピードを落とし始める。

「やっぱ俺も走ろっと」

そう言うとキルアは格好良くスケボーから降りた。

「かっこいー!」
「お見事!」
「オレ、キルア」
「オレはゴン!」

うん。青春だー!その時に、私は胸の奥に何か暖かいものを感じていた。

「(そういえば、おじいちゃんのテストで年齢の近い子達と関わるのは初めてかも…)」

一人じゃないって、こんなに心強いんだな…。こんな気持ち、初めてだ。

「おっさんの名前は?」
「オッサ…これでも、お前らと同じ10代なんだぞ。オレはよ!」
「「ウソォ!!」」

ごめん!レオリオ!私が言うのもなんだけど、とても10代には見えないよ!!

「あー!ゴンとまで!ひでー、もォ絶交なー!!」
「(離れよう…)」

すっと距離を取るクラピカに「ちょっと待て!」というレオリオの声が響き渡る。
人間は、見かけで判断しちゃいけない。


ハンター試験第一次試験 80km通過 脱落者一名。


私の目の前に広がるのは、綺麗なお花畑。なんてものではなく…終わりが見えない大階段でした。

どこまで続いてんだよ!こんなの、家にあったらトイレ間に合わないぞ!馬鹿!

「ってかそうじゃないし、私…」
「?」

あまりの階段の長さに仰天している私を不思議にゴンが見ていたが、私が気づくはずもなかった。

「(これはちょっとつまらないかな…)」

地上への階段 中間地点 脱落者37名


「いつの間にか一番前に来ちゃったね」
「だってペース遅いんだもん」

普通なら、そうでもないと思うけど…。二人とも元気だなぁ。

「こんなんじゃ逆に疲れちゃうよな」
「なかなか言うね、キルア」
「だって本当じゃん。そういうだってまだ余裕だろ」
「え。まぁ、私は慣れてるから…」

…はっきり言おう。普通の女の子なら倒れてるぞー!!
私だって、一応女の子だし、持久力とかはない方だと思うけど、こういうのは慣れだ。
毎日、長距離を走ってたら維持しながら走ることに慣れてくる。 おじいちゃん曰く、「修行とは走る事から始まる!」とか、訳分かんない理屈を何度聞かされたことか分からない。

そうだよ!私がこうなったのも、全部全部…。

「あのクソじじぃのせいだ!」
「「なにが?!」」
「え?だから~…あ、やっぱなんにもないです」
「お前、時々思考飛ばすのな」
「うっさい!」
「まぁまぁ。それよりさ、キルアって何でハンターになりたいの?」

ゴンは私達を宥めるためか、話題を変えてキルアに話しかけた。

「俺?別にハンターになんかなりたくないよ」
「…はい?」
「ものすごい難関だって言われてるから面白そうだと思っただけさ」
「ちなみにご感想は?」
「拍子ぬけ」
「…あ、そう」

本気でハンター目指してる人に、ものすごく失礼な発言だよ…。 って、まぁ、私も人のこと言えた理由じゃないから仲間か。

「ゴンは?」
「オレの親父がハンターやってるんだ」
「へー、そうなの?」
「うん。だから、親父みたいなハンターになるのが目標だよ」

私のところと一緒だけど私は、あんな親父絶対にやだ。 だからゴンのお父さんは相当、尊敬できる凄い人なんだろう…。

「どんなハンター?親父って」
「わからない!」
「え?」
「オレ生まれてすぐにおばさんの家で育てられたから」
「…そっか」
「だから親父は写真でしか知らないんだ」

私達はじっとゴンの話を聞いていた。カイトと言う人物の事。 ゴンの父親はジンって人で、人の為になる素晴らしい事を沢山してるということ。

「だからオレも親父みたいなハンターになりたいって思ったんだ」
「なれる!なれるよ!ゴンなら!だってこんなに可愛いし、素直だしー!」
「アハハ。ありがとう
「あー、それでそのは?」

キルアは少し呆れた様子で私に尋ねた。

「私?私は…なりゆき?」
「「え?」」

そう。なんでおじいちゃんがこの試験を受けろと言っただけだが、一体なんで受けろといわれたのかも私には分からない。

「ただ無理矢理、ハンター試験を受けろって師匠に言われたから」
「なんだそりゃ」
「なんで断らなかったの?」
「そりゃ始めは断ったよ?だけどね、その人は私の大切な人だから」

いくら私の両親と顔見知りだと言っても普通の人なら、私を引き取ってはくれないし、此処まで育ててくれるはずがない。 だから、おじいちゃんにただ精一杯の恩返しがしたかったから、修行だってここまでやってこれたんだ。


ゴン達とそんな話をしながら暫く走っていると、私達の目の前にひとつの光が見えた。

「「出口だ!!」」

皆がそう思ったのも束の間、私達の目の前には薄気味悪い霧の掛かった湿原が広がる。

「なにこれー!!」

気持ち悪い空気、動物達の鳴き声、肌に刺さるこの風。気持ち悪い…。

「ヌメーレ湿原、通称“詐欺師の塒”だまされると死にますよ」

あのクソじじぃ…。恩人だが、これほど怨めしく思う人も他にいない。