04話 追いしかの山
「だまされることのないよう注意深くしっかりと私のあとをついて来て下さい」
「ぎもぢわるい…」
「大丈夫?」
「うん…」
既に走る前から私は、目の前の霧やこの湿気に嫌気がさしていた。
「ウソだ!そいつはウソをついている!!」
人が気分悪いときに、誰だよ! そう思い声した方を見てみるとそこには、「自分が本当の試験管だ!」とか名乗る傷だらけの男性だ。
「人面猿、ね」
どっちが本物の試験管で、どっちが人面猿なのかという問いで周囲が騒ぎ出す。 その中で、私の目の前をトランプが通りすぎた。
「え?」
ヒュッ!グサッ!!
「なるほど。なるほど」
どうやらヒソカが両方へトランプを飛ばしたらしい。 サトツさんは、綺麗に受け止めていたが、偽者の試験管の方はトランプがグサリと刺さっている…。
まるで、ヒソカは楽しんでいるようだった。
「それでは参りましょうか。二次試験会場へ」
受験者 311名 ヌメーレ湿原へ突入。
霧の中で再びマラソンは再開されていた。
「ゴン、、もっと前へ行こう」
「うん!」
「試験管を見失うといけないもんね」
「そんなことより、ヒソカから離れた方がいい」
「?」
「変態だから?」
「こんな時にボケるなよ!!」
「ごめん、ごめん」
「あいつは、殺しをしたくてウズウズしてるんだよ」
「!」
「霧に乗じてかなり殺るぜ」
そんなキルアの様子をゴンが驚いて見ていた。
「なんでそんな事分かるのって顔してるね」
っていうかキルア本当に私より年下なの?!年齢、サバ読んでるんじゃない?
「俺も同類だからだよ」
「同類?あいつと?そんな風には見えないよ」
「あれはどう見てもピエロだよ!キルアはどっちかっていうと綱渡り系だよ!」
「サーカスの話じゃないってーの!…それに、俺は猫を被ってるから」
「私は猫、大好きだけど?」
「勝手に言ってろ」
「とにかく前へ来たほうがいいんだよね」
「え?」
「レオリオー!!クラピカー!!キルアが前へ来たほうが良いってさー!!」
「「!!」」
後ろのレオリオとクラピカへと大声でゴンは叫びだした。
「お前らなー!」
キルアは明らかに私達に呆れたようにため息をついた。
「頑張れ!キルア!」
「お前は言うな!」
そして暫く走っていると霧はだんだんと濃くなっていき、周りがだんだんと見えずらくなっていた。
後ろの方からの悲鳴もたくさん聞こえている。
「(後ろの二人は大丈夫かな?)」
もちろん私が心配しているようにゴンも心配しているようで、私がゴンに声をかけようとしたその時…。
「ってえーーー!!!」
レオリオの大きな悲鳴が響きわたる。
「レオリオ!!」
「ゴン?!」
ゴンは、レオリオの悲鳴のした後方へと逆走した。
「ゴーン!」
私はゴンが走り去っていった方向へむいて叫ぶ。
放っておけないし、やっぱり私も行くべきか…。と考えていると冷静なキルアの声がした。
「なに考えてるんだよ、馬鹿」
「え、いや…私も行こうかなって」
「はぁー?!まじでお前ら馬鹿か?!こんな霧の中、逆走したらアウトだぞ!」
キルアが私の言葉を遮り叫んだ。
「分かってるけど、心配だし」
それに後ろにはあのヒソカがいるんだ。だからゴンも…あ。
「そっか!だからゴンが行ったんだ!」
「ぁあ?!なに訳わかんねぇこと言ってんだよ!」
「そうだよ!ゴンが行ったんだよ!」
何も心配することはない。ゴンもレオリオもそんなに弱い人間じゃない。
「あーもう!いくぞ!」
「あ、ちょっとキルア!待ってよ!」
私なんかが、心配しなくてもゴン達なら、絶対に大丈夫だ。
「キールーアー!」
「なんだよ、さっきから!」
「ゴン達なら、直ぐに戻ってくるよ」
「…あ、そう」
「うん!」
私とキルアは、なんとか無事に長い気味の悪い道を進み、やっとのことで二次試験会場に到着した。
「おい、」
「なに?」
「お前、本当にゴン達が戻ってくると思ってんのか?」
「うん。思ってるけど」
「根拠は?」
「ゴンだから!」
「んなもん…根拠になるかよ!バーカ!!」
「なんでよ!十分な根拠でしょ!」
「はぁ?!」
キルアは今にも、ふざけんなよ!こいつ!みたいな目をして私を見てきた。
「初めて見たときから思ったんだもん」
普通の子供がこんなところに来られる場所じゃないのは最初から分かってた。
「ゴンの真っ直ぐな瞳は、信じることができる」
何かが胸の中で熱く込み上げてくるものがあった。そう、初めはただの好奇心。
だけど私はゴンと話して確信した。
「ゴンならハンターになるっていう目標を必ず叶える。だからこんなところでリタイアしたりしないよ」
キルアだってそう思ってるんじゃないのかな?
「勝手に言ってろよ」
「キルア…」
「ああ?」
「なんか変?」
「…あんたに心配される程、柔じゃねぇよ」
「そ、そうだろうけどさ」
あの時、私は何故かゴン以上にキルアを一人にしちゃ、イケない気がしたんだ。
私はちらりと時計を見た。
「そうだ。キルア、私も質問!」
「どうした?」
「お腹空いた!」
「質問になってねぇよ!」
「だってあんだけ走り回ったんだよ?お腹、空くでしょ。普通」
「あ」
「なに?!飴ちゃんでも入ってた?!」
「ちげーよ!そうじゃなくて、ほら。あっち」
「ん?」
キルアが指差した方をみるとそこには…。
「ゴン!クラピカ!」
私は、急いでゴン達の方向へと向かって行った。
「行こう!キルア!」
「おい。引っ張るなよ」
私がキルアの腕を引っ張ると、嫌そうな声を上げながらもキルアが軽く微笑んだのが分かった。
「ゴーン!」
「え?あ、ー!」
「大丈夫だったー?!」
「うん!」
やっぱりゴンは可愛い!私は、力強くゴンを抱きしめた。
「…痛い」
「わっ!ごめん」
「達は怪我ないのか?」
「クラピカ!私は平気!でも、レオリオは…整形にでも失敗したの?」
「お前、その言い方はねぇだろ?!」
私は、レオリオに思いっきり首をしめられた。
「冗談、冗談!ギブギブ!」
「ところでさー、何で皆、建物の外にいるの?」
「あ、それは」
「中に入れないんだよ」
「キルア!」
「どんなマジック使ったんだ?」
「あ、確かに私もそれ聞きたいな」
「うん。それはねー…」
ヒソカと戦ったというゴンの話に、キルアと私が見事にはもって声をあげた。
「「はぁ?!」」
「香水のニオイをたどったって、お前…」
「レオリオのつけてたオーデコロンは独特だったからね」
いや、確かにそばによるとツンってくるけど…そんなに匂うかな?!
ヒソカがレオリオを連れて行ってその匂いを辿ったらしいけど、距離は相当あるはずだ。
「もそうだけど、お前も相当変わってんな」
「そうかなー」
「えっ!私も?!」
「逆に、普通って言える自信はどこからくるんだよ」
本日 正午 二次試験スタート